リンガーハットの皿うどん

ふと故郷のことを思い出し、人恋しさを襲われる。

肌を寄せ合う相手無き、男やもめの悲しさよ。


そのようなときに、肉欲にふけるというのも一つの在り方ではあるが、やはり食にすがるのが私には合う。

そうだ、このようなときにはリンガーハットしかない。

ヒライの春待つちゃんぽんも悪くはないが、真に魂をさぶるのは別だ。


正座し、ウィスキーソーダを作る。

広い容器に身を寄せ合う餃子の五人家族を、酢醤油とラー油で覆い口にする。

長崎の餃子らしく少し甘味が顔を出すのが嬉しく、それでいて酒を進めるのは心憎い。


そして、熱々のあんを細く軽快な麺に下ろす。

ソースを満遍まんべんなくかけ、いよいよ本丸に立ち向かう。


焦ってはならない。まずは木耳きくらげに眼をつけその歯応えを愉しむ。

後の布石。

野菜の甘みは心を躍らせる。

肉と蒲鉾は心を癒す。

麺の歌声は心を故郷に戻す。


半分ほど食したところで、ウィスキーソーダを挟みしばし待つ。

期待と述懐とが脳髄を焼き、焦燥と至福とが高校を満たす。


麺があん馴染なじんだ。撃鉄が下りる。


一気呵成かせいすする。

室内を音で満たしてすする。

給食では理解できなかった柔らかな麺。

今なら万雷ばんらいの拍手で迎えられる。


容器を干して、ジョッキを開ける。

静かに手を合わせ頭を垂れる。


今宵は夢に長崎を見よう。

目覚めたらいつもの熊本だ。

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