8 小惑星
小惑星
よく見ればさ、世界は愛で満ちているね。
最近、とても体が軽くなった気がする。
それはどうしてだろう?
自分でもよくわからない。
でも、確かにそう感じる。
まるで重力から解放されたみたいに体が軽い。……心が軽い。
それはとても嬉しいことだったのだけど、私はその理由が知りたかった。
私の体が軽くなった理由。
私の心が軽くなった理由。
それはいったいなんだろう?
そんなことを私はずっと眠りの中で考えていた。
……深い、真っ暗な眠りの中で。
ずっと、そんなことを考えていたのだ。
あなたのことを考えると、私の胸はとても苦しくなります。
目を開けると、そこは宇宙空間の中だった。
永遠と続く真っ暗な世界の中に、私は一人ぼっちでそこにいた。宇宙服などは着ていない。宇宙船なども近くにはない。
私はいつもの私のままで、宇宙の中を、まるで水に満たされている真っ暗で透明な海の中を漂っているかのようにして、ゆらゆらと、穏やかな波に揺らされるようにして、……そんな空間に一人で丸くなって浮かんでいた。
まるで、一つの偶然生まれた泡のように。あるいは、海の表面に生まれる波しぶきの一粒の雫のように。
私の思考は、なんだかすごくぼんやりとしていた。
眠りから覚めたばかりで、まだ、いろんなことがはっきりと思い出すことができないような、そんな曖昧とした思考の中に私はいた。
目の前には、小惑星があった。
名前はよくわからなかったけど、そのごつごつした灰色をした大きな岩のような塊は、図鑑やなにかの映像で見たことのある、あの宇宙を漂っている小惑星に違いないと思った。
そんな名前もわからない小惑星の近くの宇宙を小さな白い点のようなものがゆっくりとした速度で、孤独に、一人ぼっちで進んでいるのが見えた。
あれはなんだろう? と思ってよく見てみると、それは一つの人工衛星だった。孤独な一人ぼっちの人工衛星。(あるいは、人工衛星ではなくて、惑星探査機とかそういう名前の機械なのかもしれないけれど……)
私はぼんやりとした意識のまま、その孤独な人工衛星が宇宙を、ゆっくりとした速度で進んでいく光景をただ、黙ってじっと、しばらくの間、その場所から見つめていた。
やがて、孤独な人工衛星は私の目からは見えなくなった。
……宇宙には、私と、それから名無しの小惑星だけが、残された。
私は自分の目の前に浮かんでいる一人ぼっちの小惑星を見て、……孤独なのは人工衛星だけではない。私もこの名無しの小惑星も、孤独なんだと思った。
宇宙の中に一人ぼっち。
なんの音も、誰の声も、(あなたの声も、私自身の声も)聞こえてこない。
私は小惑星をじっと見つめた。
小惑星はただ、そこにあるだけだった。私のことを自分のそばに引き寄せようとも、どこか遠い場所に突き飛ばそうともしなかった。小惑星は、ただの大きな石ころみたいに宇宙に浮かんでいるだけの、衛星だった。私がこの場所にいて、あなた(小惑星のことだ)のことをじっと見ていることなど、全然、わかっていないようだった。
私は、なんだか小惑星のことがだんだんと嫌いになっていった。
なんでこんな場所に小惑星なんかがあるのだろうと思った。
私は別に小惑星のことなんて好きじゃないし、もし、同じようにどこかの衛星や惑星の前で目が覚めるのだったとしたら、地球とか、水星とか、火星とか、金星とか、木星とか、土星とか、フォボスとかダイモスとか、ガニメデとかカリストとかイオとかエウロパとか、……あとは月とか、太陽とか、まあどこでもいいんだけど、そういった衛星や惑星の前で目覚めたいと思った。
私はなんだかむしゃくしゃして、小惑星が本当に嫌いになった。
小惑星の姿なんて見たくないと思った。
だから私は、小惑星なんか消えちゃえ!
と、心の中で強く思った。
すると、私がそう思った瞬間に、小惑星はふっと、一瞬で、本当にあっという間に、(まるで最初からその場所に小惑星なんてなかったみたいに)私の目の前から消えてしまった。
……私は、消えてしまった、この宇宙からなくなってしまった、小惑星の消えてしまった真っ暗な宇宙空間を見て、あ、と思った。
私は、小惑星が消えてしまったことを後悔した。
(私はすごく悲しい気持ちになった)
でも、そのあとで私が後悔をして、もう一度、小惑星と会いたいと思っても、もう二度と、小惑星は宇宙の中にその姿をあらわすことは決してなかった。
……だから、私は宇宙の中で一人ぼっちになった。(孤独なのは、やっぱり私だった)
私は、自分が確かに誰かとしっかりとつながっている。そう信じていたかった。
……これは、夢だろうか? それともこれは、……私の本当の現実だろうか? (夢だったらいいな。現実だったら、すごくいやだな)
なんだかひどく疲れてしまった私は、真っ暗な宇宙の中で、できるだけ小さく丸くなって、また目を閉じて、そんなことを考えた。私は眠ろうと思った。安心できる眠りの中に逃げ込もうと思ったのだ。でもいくら待っても、私に安息の眠りは訪れなかった。なぜか私は、全然眠くならなかったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます