その日の美鷹の練習はとてもひどいものだった。

 タイムは伸びない。

 体は硬い。

 心は、ずっと余計なことばかりを考えていた。

「ねえ、美鷹。どうかしたの? ちょっと調子悪すぎるように見えるよ」と、短距離走仲間の友達の部員から言われたし、山上先輩からも「おい! 美鷹、どうした! 夏休みだからって、気抜いてるのか!」と怒られたりした。

「はい。すみません!!」

 そう返事をしてから、美鷹は練習を頑張った。

 でも、結果はなにも変わらなかった。

 夏の七月の太陽だけが、雲ひとつない青空の中にさんさんと輝いていた。

 その太陽の輝きですら、今の美鷹には迷惑なものにしか思えなかった。

「はぁ、はぁ」

 と、肩で息をしている美鷹の見ている、校庭の地面の上にある、自分のはっきりとした陰影のある影の上に、ぽたぽたと美鷹の汗が落ち続けている。

「七海! 頑張って!」

「七海。すごい。タイム上がっているよ!」

 そんな長距離走を練習している部員たちの声が聞こえる。

 美鷹は顔を上げて、遠くの校庭を見る。

 すると、そこには、風のように大地の上を走っている、七海の姿があった。

 七海は、ただまっすぐ前だけを見ている。

 ゴールだけに目を向けている。

 よそ見なんてちっともしていない。

 ……私のことなんて、全然見てくれないんだ。

 美鷹はぎゅっと、自分の右手を握りしめた。

 その日、七海は美鷹の見ている前で、陸上部3000メートル走の公式の試合ではない、陸上部の練習という非公式の記録ではあるけれど、歴代部員、最高タイムを叩き出した。

 ……そんな七海は、本当にきらきらと輝いて、美鷹の目には見えていた。(悔しかった。なんだか美鷹は泣きそうになった)

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