七海が週刊陸上の記者に捕まっている間に、美鷹は陸上部のみんなのところに行って「おはようございます!」と元気に挨拶をした。

 先輩も、後輩も、「おはよう、美鷹」「おはようございます。先輩」と元気に挨拶を返してくれる。

「美鷹。さっさと部室で着替えちゃいなよ。七海もすぐに部室に行くと思うからさ」と部長の山上湖(みずうみ)先輩が美鷹に言った。

 山上先輩は小柄だけど、とてもしっかりしていて、みんなをまとめる力もあって、それに綺麗な顔をしていて、(もちろん、足も速くて)美鷹の憧れている先輩だった。

「わかりました。先輩!」

 美鷹は言う。

 それから美鷹は山上先輩に言われた通りに陸上部の部室にまで移動をした。

 陸上部の部室は旧校舎の一階にあった。

 部室には誰の姿もなかった。

 それだけではなくて、校庭から陸上部の部室の中に来るまでの間、美鷹は誰ともすれ違うことはなかった。

 その部室の中で、美鷹は一人で着替えをした。

 みーん、みーんという蝉の声が、どこかから聞こえた。

 着替えを終えて、陸上部のユニフォーム姿になった美鷹が自分のスパイクを持って、それから試しにそのスパイクをはいて、靴ひもを結んでいるときに、がらっという音がして、部室のドアが開いて、そこから夏服の制服姿の七海が入ってきた。

 ……七海の開けた部室のドアの外からは、眩しい夏の太陽の光が差し込んでいる。……思わず、美鷹は眩しくて、七海を見る目をそっと細めた。

「取材疲れた」と甘えるように七海は言った。

「人気者はつらいね。それに実力だけじゃなくて、七海は可愛いから」とにっこりと笑って、七海を慰めるような口調で、笑顔の美鷹はそう言った。

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