美鷹と七海の二人が夏休みだというのに、白鳩高校にやってきた理由は部活動のためだった。

 二人は白鳩高校の陸上部に所属している生徒だった。

 美鷹は短距離の100メートルの、七海は高校陸上の競技としては最長になる、長距離の3000メートルの選手だった。

 その陸上部の練習のために、高校までやってきたのだった。

 校舎の周辺には人は誰もいなかったのだけど、校庭まで行くと、そこには十数人の生徒の姿が見えた。

 そのほとんどは、美鷹と七海の知っている陸上部の部員たちの姿だった。

 ……でも、中には知らない顔も混ざっていた。

 あれは、見学にきている他校の生徒の姿だろうか?

 それから、学校の関係者ではないと思われる、スーツ姿のカメラを持った、数人の大人たちの姿があった。

 それはどうやら週刊陸上の雑誌の取材の記者のようだった。

「あ、きたぞ。清宮選手。あのすみません。練習前に少し話を聞かせてください」

 そう言って、そのカメラを持った、スーツの大人の人たちが七海のところにやってきた。

「はい。わかりました。じゃあ、少しだけ……」

 と慣れた感じで、七海はその取材に対応する。

 それから七海は、美鷹を見て、ごめんね、と口だけを動かして、両手を合わせて、美鷹に謝った。

 美鷹は、別にいいよ、とやっぱり口だけを動かして、それから指をみんなの集まっているところに向けてから、先に行くね、と七海に言った。

 わかった。と七海は声に出さずにそう言った。

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