鳥の巣(現代)
雨世界
1 そこには、……不思議な路地があった。
鳥の巣
登場人物
山根美鷹 短い黒髪のまっすぐな少女 走るのがとても遅い
清宮七海 小柄 長い黒髪のすごく美人な少女 走るのがすごく速い
島田花 後輩 マネージャー 走らない
山上湖 先輩 陸上部の部長
二宮凪 美鷹の出会う背の高い少年 真っ白な肌と空のような青色の目をしている 立ち止まっている
プロローグ
イメージシンボル 鳥の巣の中にあるたまご
おーい。なにしているの?
世界には小雨が降っている。
悲しい雨。
そう感じるのは、私が今、泣いているからなんだろうか?
本編
こっちにおいで。
夏。七月。夏休み。
……毎年、夏になると、私は、……私の前からいなくなってしまった、大好きなあなたのことを思い出す。
そこには、……不思議な路地があった。
「じゃあ、行ってきます!」
そう言って、元気よく山根美鷹は家を飛び出した。
いつもの着慣れた高校の夏服の白いワイシャツと短い紺色のスカートと言う制服姿に、足元に白いスニーカーをはいた美鷹は、家を出たそのままの勢いで、まるで溶けそうなほどに熱く焼けているアスファルトの歩道の上を小走りで移動している。
道路には街路樹の緑色の葉の影ができている。
緑色の葉は、真夏の太陽の光を受けて、きらきらと光り輝いて見えた。
すぐに汗をかいた。
結構、気持ちのいい汗だ。
美鷹の家から、通っている白鳩高校までは、距離が結構近かった。(歩いて十五分くらい。それが、この白鳩高校を受験することを美鷹が選んだ理由の一つでもあった)
すぐに、目的地である見慣れた白鳩高校の真っ白な正門の姿が見える。
そこには、夏の光り輝く太陽を、手のひらでその目元に影を作るようにして、見上げている、美鷹と同じくらいの年齢に見える、美鷹と同じ白鳩高校の夏服の制服姿の長い髪をポニーテールの髪型にしている、一人の少女の姿があった。
「あ、おーい。おはよう。七海!」
元気に手を振りながら、足を止めずに美鷹は言う。
すると、その声を聞いて、その白鳩高校の夏服の制服姿の少女は、美鷹のほうを見ると、にっこりと笑って、「うん。おはよう。美鷹」と小さく手を振って美鷹に挨拶をしてくれた。
街の中に、気持ちのいい夏の風が吹いている。
その気持ちのいい風の中で、二人はにっこりと笑い合って、そして、やがて、ゆっくりと向かい合った。
(走ってきた美鷹の息は少しだけ切れていた。日焼けをしていない真っ白な額には、大粒の玉のような透明な汗をかいている)
「ごめん。まった?」美鷹は言う。
「ううん。全然待ってないよ。私も今来たところだよ」と、にっこりと笑って、清宮七海は山根美鷹にそう言った。
近くの木には蝉がいるのか、みーん、みーんという大きな蝉の鳴き声が聞こえている。
真っ白な正門に、真っ白な歩道。
緑色の街路樹と、くっきりとした陰影のある夏の黒い影。
……目に見えない透明な気持ちのいい風。
二人のほかに、人の姿はどこにも見えない。
そんな静かな場所に、二人はいる。
時刻は、真昼。
高校の校舎にある大きな時計は、ちょうど十二時を指していた。
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