真島巡査部長はかく語りき

「そろそろ、まっしーにゾン対本部長としてやるべき事を決めて欲しいと思うんだけど」

 今日はヤツことハコ長のミュウが、朝から警ら(まっしー談)に出ていて情報が漏れる恐れが無いから、最重要事項の要請をするべく私がそう言うと、まっしーがキョトンとした表情で私を見た。

何なん?その『なんでつか?』と言わんばかりの表情は。

「大事な事柄があるでしょ?」

そう促しても、まっしーはさっぱり意味が分からない様子だ。

「まっしーったら、会議だよ、会議。第一回ゾンビ対策会議。大事な事でしょ」

「え?ゾ・・ゾンビ対策会議?」

「だいたいさぁ、こういう事はゾン対本部長のまっしーが招集かけないといけないんだよ?」

「僕が?そうなの?」

まっしー、本部長の自覚ある?

「ゾン対副本部長のさくやんが公民館使って良いって言ってくれてるからさ、会議の日程きちんと決めてよ」

「大場巡査」

私がまっしーに対策会議の開催を要請していると、加賀っちが話しに入ってきた。

「真島巡査部長は、大場巡査と違って暇を持て余しているわけじゃないんだ。無理難題を押し付けるな」

「はて?無理難題とな?まっしーはゾン対本部長なんだから、副本部長と連携して会議を開くのは当然なのでは?」

「何度でも言うが、ゾンビが発生する事は無いから。大場は余計な心配はせずに職務に集中しろ」

「私はいつだって職務に忠実に励んでますけど」

「なら真島巡査部長を巻き込むな」

もう!マジで加賀っちの石頭には参っちゃうよ。

「真島さんも、いちいち大場の話に反応しないで下さい。ゾンビの話は放置で頼みます」

加賀っちがとんでもない事をまっしーに吹き込んでる!

「ちょっ!加賀っち止めてよ!私ら真剣なんだからさ!」

「大場が真剣なのは分かっている。だが他の人を巻き込むなと言っているんだ」

全然分かってない。何一つ理解して無いじゃん。

「私達警察官は、地域住民の安全を守らなきゃならないんだよ?ゾンビが発生しないなんて言い切れる根拠は無いんだから、備えはしておくべきじゃん!」

「根拠なんぞいらん。ゾンビは発生しない。それだけだ」

 頭がクラクラするくらい血が上ってきた。

私達の活動をバカにしないで!と加賀っちに怒鳴りそうになった時、まっしーがまあまあって感じで間に入って来た。

「加賀君は、決して君の活動をバカにしている訳じゃないんだよ?防犯の観点からも君が指摘してくれている事は、とっても大切だと僕も加賀君も考えているんだ」

まっしーが穏やかな笑みを浮かべて、優しい口調で私に語り掛ける。

「ただ、ゾンビの来襲に限定するのでは無く、事件事故全般に関する、防犯意識の向上を目指すべきだと僕は考えている」

加賀っちが「はぁ・・」と大きな溜息をついた。

「真島さん。そういうオブラートに包んだ言い方では大場には通じませんよ」

「加賀君も聞いてくれ。大場君ほど地域の住民を守る事に、真剣に取り組んでいる警察官を僕は知らない。いや、加賀君が警察官としての職務に忠実である事は知っている。しかし、そんな君だって大場君の熱意には負けるだろう?」

加賀っちがまっしーの言葉に押し黙る。

「そして、大場君自身も自分の地域を守ると云う方法が、過激である事は自覚しているよね?地雷とか火炎瓶とか、そんな物を使えば人や建物に甚大な被害を出してしまう。だから、出来るだけ早く別の方法を決めておきたいという気持ちはよく分かる」

「だったら・・」

そう言いかけた私の言葉をまっしーが遮る。

「でもね。ゾンビ対策より前に為すべき防犯対策は山ほどある。まずは足元から地道に固めていかないと、一飛びにゾンビ対策では、この交番をほぼ毎日訪ねて来てくれる人達以外の住民には、恐怖心だけを植え付ける結果になりはしないか。僕はそれが気掛かりなんだ」

「恐怖心?そんな物、植え付けるつもりは全般ないんだけど」

「もちろんだ。でも、大場君と違ってゾンビに関する知識の無い人達には、やはり恐怖しか感じられないのではないのかな?」

「う〜ん・・。まぁ。そうかも」

私が渋々ながら認めると、まっしーの表情がパァッと明るくなった。

「だからね、少しづつ段階を踏んで、まずは身近な犯罪や事故に関する知識を地域住民の方々に持ってもらって、それを防犯に活かしてもらう活動から始めるべきだと思うんだ」

「でもさぁ、まっしー。特殊詐欺だって、あれだけ報道されて、警察の防犯運動に加えて金融機関のいろんな協力が有っても、騙されちゃう人は必ずいるんだよ?犯罪0になるのを待ってたら、ゾンビが発生した時に間に合わないよ」

「だからと言って、今、目の前の犯罪に巻き込まれるかもしれない人達を、放って置くことは出来ないだろう?」

「当たり前じゃん!」

まっしーったら。何決まりきった事を言ってんの?

「守るよ。守り抜くよ。それが私の仕事だもん」

まっしーがニコニコしてる。

「地道に防犯意識が高まるよう日々頑張っていこう。それからでも決して遅くは無いよ。僕達にはやるべき事が沢山有るんだから」

「分かった」

私が頷くと、加賀っちがビックリした様な表情で私を見た。

「分かってくれたかい?良かった」

まっしーが何やらほっとした表情で嬉しそうに言う。

「一緒に地域の安全の為に頑張ろう」

まっしーの言葉に、加賀っちが頷いている。

「地域の安全の為に頑張るって事は、犯罪撲滅運動とゾンビ対策を同時進行させれば良いんじゃんね!」

「え?」

まっしーと加賀っちの声が見事にハモってる。

「それから、まっしーったらいろいろ言ってたけど、ゾンビ対策は『私の活動』じゃなくて、まっしーと加賀っちと私を含めた地域全体の活動なんだから、そこんとこ間違えないでよね。あけぼの交番はゾンビ対策本部、になる予定なんだから」

私がそう断言すると、まっしーと加賀っちが同時に頭を抱え込んだ。

 まあ、確かに頭を抱える様な大問題ではあるけど、一緒に頑張って考えれば必ず解決策は見つかるから頑張っていこう!ね!

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