第14話:灰被り
◆
戦に疲れた王は、理想の兵士を求めていた。
そんなさなか、軍師が問うた。
王よ、理想の兵士とはなんぞや。
曰く、文句を言わず従うものである。
曰く、恐れを知らず、勇敢なものである。
曰く、疲れも知らず、昼夜戦うものである。
曰く、死なずに戦い続けるものである。
それを聞いた軍師が応えた。
王よ、文句を言わぬ。恐れを知らぬ。疲れもしらぬ。死にもせず。おまけに飯も食わないし、そして勝手に増える兵士がございます。
王はそれに大変喜んだ。
それは真か。
軍師はしたり顔でこう応えた。
えぇ、
◆
「という話があるんだが。」
「今は笑えねぇな!」
重戦士の唄う昔話に悪態をつきながら大剣使いは得物をぶん回す。バキンという甲高い音とともに、衛兵の成れの果ての首が飛んだ。振り抜かれた大剣が鍛え上げられた膂力でピタリと止まる。即座に返す刃で切り続けなければならないからだ。
「数が多いな。」
「『敵意完治』では『敵』は見えるが、ただの『死体』はわからんからのぉ。」
「わたくしもまだ未熟です。」
最奥の議事堂までの道は、溢れんばかりの死者の群れが埋め尽くしていた。元は衛兵だったのだろう、血肉に薄汚れた揃いの鎧を身に纏い、揃いの剣や揃いの槍や、揃いの盾を身につけている。腐りかけた腕で重たそうに武具を握り、虚ろな眼で――中には文字通りの意味でも虚ろな――生者を睨んでいる。
「頭目殿よ、このままでは押されてしまうが、どの手で行く。」
「
頑強な鎧を纏う重戦士と大剣使いが前に出て亡者の濁流を食い止める。
「なら、うちの術士の『
堰から溢れ出た亡者を蹴り飛ばし天井に突き刺しながら剣士が言う。術士の狼少女は満更でもない顔で応えた。
「もっと大切にしてもよいのじゃぞ。時間を稼いでくれな、旦那様。」
「いい嫁を持ったな。」
「いい女しか嫁にしたくないんでね。」
「ごもっともだ。時間を稼ぐぞ。」
戦鎚が唸り、大盾ごと、重鎧ごと、その腐った体を押し潰す。
大剣が空を切り、隊を切り、一切まとめてなぎ倒す。
長剣が音を置き去りに空を舞い、斬撃で、その余波で屍人が崩れ去る。
しかし、その尽くが十分な効果を持つわけではない。
すでに
所詮は魔術で動く悪趣味な人形なのだが、だからこそばらばらになっても動き続けるのだ。しかし、その不死身もここまでだ。
術士の詠唱が完了し、魔術が構築される。
「火よ、死者を焼く炎よ、
なんとか乾かした木札が燃え上がり、金属の武器に、相性の悪い火の属性が宿る。否、調和して共にある。火の属性が宿る武器は、土より生じた
戦鎚が唸り、大盾ごと、重鎧ごと、その腐った体を押し潰す。
大剣が空を切り、隊を切り、一切まとめてなぎ倒す。
長剣が音を置き去りに空を舞い、斬撃で、その余波で屍人が崩れ去る。
そして今度は刎ねられた首も、残った四肢や顎も、潰された体も、分かたれた上半身と下半身も、その尽くが燃え上がる。燃やし尽くされ灰になった死体は、もはや風邪にさらわれる以上の動きを見せない。
「こりゃあいい! 浄化の奇跡も節約できるな。」
「わたくしとしては、自ら浄化をしたいのですが……。」
殺せるならば、動きもとろい、考えもない、技もない。ならば一騎当千の強者共の前ではただの、ちょっと臭いだけの案山子でしかない。きった端から潰した端から萌えてゆくのは、爽快でもある。もっとも
「ほほ。コレでは儂の仕事がないのお。」
「落ち込むな爺さん。切札には切りどころがあるだろう。」
「では、上手いところで切ってくだされ。」
老魔術師は愉快そうに、しかし老獪に後方の警戒も忘れずに笑う。退屈そうにしているが、彼は対吸血鬼の切札でもある。数は多いが
潰し、薙ぎ払い、切り捨て、前に進む。炎が広がり、死体が灰になり、女神官がつまらなそうにしてさらに前に進む。そして真紅の絨毯が敷かれた廊下が灰に埋もれた頃、ついに扉の前にたどり着いた。
「全く、ひどく長い廊下だな。やっと到着した。」
剣士は降り掛かった灰をパンパンと払いながら軽口を叩いた。廊下はたかだか30m程しかないが、その左右の扉からぞろぞろと兵士がでてきたせいで進むのにやたら時間がかかった。
「この先は、残りの大物が跋扈しております。
「うむ、そうだな。」
もはや物騒な女神官の言動にも慣れてきたらしい重戦士は生返事をしながら武器や防具の点検を行っている。といってもあえて無視しているというよりは、
剣に歪みや欠けはないか。
だからこそ、自分だけでなく、一党の同胞の装備をお互いが確認する。一党は一蓮托生であるが故に。今回は、全てヨシだ。
「よし、行くか。」
頭目である大剣使いは、一党を見回すと重戦士に促した。重戦士はその大戦鎚を振り被り破城槌のように巨大な扉をしたたかに打ち付けた。
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