第10話 第二ラウンド、そして決着

(さて。シルフがダメージを与えたからといって致命傷とは至らず。俺は左足が凍ってろくに使えない。いくらクラウディアからもらった秘密兵器があっても使いにくい。手詰まりに近いな。幸いなのは龍の目が潰れてるということと腹に穴が空いてること。そうか!)


 正彦は右足で跳躍し、クラウディアからもらった袋から10個の黒い石を取り出すと5個シルフが空けた腹の穴に投げ込む。3個は口に、2個は足に投げた。それらは狙い通りに命中する。すると石はいきなり燃え上がり龍の傷口から焼き尽くしていく。


「正彦!今の石って・・・タウル鉱石?」

「ご名答。クラウディアからもらったやつだ」


(クラウディア曰くいきなり燃え上がるとか言ってたけど多分酸素と反応して燃えるんだろ。)


「ギャアアアアア!」


 龍はブレスを乱射してくる。ブレスをなんとか避けるものの正彦の髪の一部は凍りついた。どうやら燃えた鉱石は龍がなんとか払ったようだ。正彦は飛び回りながら龍を観察していた。


(龍は最上位のモンスターなんだろうが腹に風穴開けられて目を潰されそこを燃やされて背中からも潰されてよく動けるな。)


「正彦!危ない!」

「うお!」


 龍はラチがあかないと思ったのか傷ついた身体で突進して近接攻撃を仕掛けて来た。なんとか初撃を回避するもののさらに突っ込んでくる龍の攻撃を交わしきれず腹を爪で引き裂かれる。腹に激痛が走る。幸い肉が抉り取られるなんてことはないものの重傷を負った。


「正彦!大丈夫!?」

「問題ない」


 秘水を飲んで痛みを抑える。龍は追撃を仕掛けるもすんでのところで躱し、態勢を立て直す。


「シルフ!龍はどうやったら倒せる?」

「分からない。」

「ならひたすら攻撃するまでだ。」


 正彦は駆け出すと氷の塊を足場に跳躍し、背後に回り込む。そして村正を抜くとシルフのダウンバーストで鱗に入ったヒビに突き刺す。


「これで仕舞いだ!」


 正彦はその切り口にタウル鉱石をねじ込みその場を離れる。龍は声にならない声をあげたかと思うと氷のブレスを至るところに吐き散らした。それを躱しながら見ると龍の身体に宝石のような赤い石があった。


「あの石は頂くぞ。」

「あれは!?龍核!」

「龍核ってなんだ?」

「詳しいことはわからないけど魔石みたいなものと考えられてる。」

「あれを抜き取れば勝ちだな!よし。行ってくる。」

「待って!龍核は・・・」


 正彦はシルフの忠告も聞かずに跳躍。そして未だに悶絶しながらブレスを吐く龍に近づくと龍核へ手を伸ばす。龍は本能で危機を感じ取ったのか慌てて正彦を打ち落とそうとするがもう遅い。正彦の手が龍核に触れる。するともの凄い力が体へ流れてくる。慌てて身を引きその場から離れる。


「なんだ、これ?」

「正彦!大丈夫、なの?」

「ああ。なんか体の奥から力が湧き上がってくる。」

「もしかして正彦って龍人族?」

「いや。ただの人間だぞ。」

「え?じゃあなんで正彦が龍の血を持ってるの?それとも龍の加護でも受けた?」

「龍の加護?何だそれ?」

「龍核に触れるのは龍の加護を受けた人だけなんじゃ・・・」


 そんな話聞いてない。もちろん龍の加護なんか受けた覚えはない。なら考えられるのは、シルフの言っていることが迷信なのか、龍核に触れられる条件が他にもあるのか、そもそもこれが龍核じゃないかの3つだ。


「分かんねえけどもう一回行ってみる。次はしっかり取ってくるから安心しろ。」


 正彦はもう一度龍に近づく。慣れてきたのかブレスは避けれるようになっている。そして一気に龍核を引き抜く。今度はあっさりと引き抜けた。すると龍核が光り、もう一度力が体に入ってきた。龍核は赤く、木のみのようだった。正彦は龍核をポケットに入れて着地する。


「よし。俺らの勝ちだ。」

「正彦!後ろ!」

「え?」


 振り替えるとすぐ真上に倒れてくる龍の腕があった。このままでは潰されてしまう。もう避けられないし、防ごうとしても正彦1人で龍の腕は支えられない。


「アイスブロック」

「上昇気流・・・」


 正彦が高さ2メートルのブロックを作ると同時にシルフもない力を振り絞って衝撃を緩和させようと試みる。しかしその程度で自由落下する龍の腕は止められないあっという間に正彦の頭上へ落ちる。


「あれ?」


 正彦が腕を上げて駄目元で支えようとするとあっさりと持ち上がった。


「なんだ?見掛け倒しか?」


 正彦は龍の腕を壁に放り投げる。腕は壁にぶつかる。するとその壁が思いっきり壊れた。


「・・・え?」


 壁を破壊するような重さのものを平然と持ち上げる力なんて正彦は持っていないはずである。左足が凍っている以上踏ん張ってもいなかった。


「なあシルフ。どういうことなんだ?」


 しかし返事はない。あたりを見回してもシルフらしきものはいない。


「おいおい。マジかよ。シルフー!いるなら返事しろ!」

『何慌てて叫んでるの?正彦。』

「どこだ!?」

『ここだよ。』


 見ると、出会った時と同じような状態になっていた。


「そういやほとんど実体化しないんだったな。」

『うん。これが普通。』

「それで?なんで俺は超人みたいな力を?」

『正彦は龍の血を引く者。多分。』

「全然分からん。」


 とりあえず凍った左足をどうにかしたいが今の正彦にはどうしようもない。正彦は壁に寄りかかり座る。


「おいおい、どうなってんだ」


 目の前の龍が忽然と姿を消し始めたのだ。そして龍が消えた時、後には1つの石が残った。クリスタルのような綺麗な石だ。


「なんだこれ?宝石か?」


 鑑定して見てみると氷属性魔法を強化するものらしい。正彦に最適なアイテムだ。


「いいもん取れたな。飯でも食うか。」


 正彦はポケットから木のみを取り出し口に入れる。少し硬い気がしたが気にせずに噛んで飲み込む。


「さて、と。この先にはなにがあるのかねえ。早く戻って休みたいが…」


 正彦が立ち上がったその時、扉が蹴破られ、驚くような速さで1人の爺さんが入ってきた。


「誰じゃあ!儂の子を殺したのは!?」

「え?」


 まだまだ正彦は休めそうになかった。

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