第9話 ダンジョン攻略
翌々日、俺とシルフは朝早くから精霊の村から出て山道を進み、ダンジョンの手前までやってきた。
「ここがあのダンジョンか。」
「あんまり洞窟と変わらない。」
「とにかく入ろうぜ。」
中は本当に洞窟だった。よくアニメとかで見られる整備されてものではなく、長年放置されたかのようなものだった。足場も悪く、人が入るような場所ではない。
(人の手が入ってないなら金銀財宝とかがあるかもな。案外本気で探索するのも悪くないかもな。)
「『アイスジャベリン』」
俺の魔法でスピアー・ビーが倒れる。
迷宮に潜って3時間。何階か降ったものの最深部には到達できてない。ただ一つ気になることがあった。
(弱すぎる。本当にダンジョンなのかこれ?)
そう。土竜やシルバーロードウルフと言った厄災級モンスターと戦っていたせいか正彦の常識は少しズレていた。このダンジョンに一般の冒険者がソロで入ろうものならきっと30分で返り討ちにあうところだ。
(それに、俺の魔法の威力少し上がってないか?レベルのことも考慮してもなんかおかしいな)
「『ウインドカッター』」
振り返るとシルフが敵を切り裂いていた。この時期シルフは正彦のサポートよりも自分で戦うことが増えた。
ちなみに正彦はダンジョンの中では無双状態だった。ダンジョン内は狭いので温度を下げるのはたやすい。これには変温動物にとってたまったものではない。あとは動きが鈍った魔物の首を切り落とす簡単な作業だ。
ただしこんなことが出来るのは正彦ぐらいのものである。そんな正彦も広場ぐらいの広さになるとこの作戦は使えない。魔力が尽きてしまうからだ。
「正彦!オーガキングがいる」
「ああ。ご丁寧に群れまで連れてな」
そう。正彦が群れの存在を歓迎しているのは、
特殊能力 能力吸収Lv3を得ていたからだ。文字通り相手のスキルや能力を吸収する。ただし吸収出来る能力は一体につき二つで、その能力は劣化版(レベルが下がるなど)になる。しかも発動条件が魔物限定かつその魔物を殺し、死後1時間以内でなければならない。
しかも吸収は一瞬で出来るわけではないのでやや使いにくい能力ではある。しかし、スキルが少ない正彦には有り難い能力だ。
「ギギギ!」
「さて、やるか。」
「うん」
「『アイスジャベリン』」
ゴブリンの群れの真ん中に氷の槍をぶち込む。ゴブリンが吹き飛んでできた隙間に入り込み、村正を振るう。周りのゴブリンを蹴散らし、オーガキングの周りがいなくなったところでやっとゴブリンキングは正彦に襲いかかる。
「遅い!」
オーガキングが金棒を振り下ろす時にはすでに正彦は背後に回り込んでいた。そして村正を一閃させる。オーガキングからしてみれば攻撃対象が消え、誰かも分からない敵から一瞬で命を散らされたのであった。
「さて、能力はっと、あれ?もう所持してるのか。」
「残念。」
(オーガキングが持ちそうな能力なんて持ってないはずなんだがなあ。せめて金棒だけでも貰ってくか。)
金棒を収納し、そんなことを考えながら歩いていると
「正彦!階段がある!」
「お、そうだな。じゃあ行くか。」
また1つ階を降りる。すると今までの階とは違い、やけに整備されている。
「いよいよボス登場といったところか?」
「確かに」
重厚な煌びやかな扉を開け中に入ると広間がある。そこには一体の巨人が眠っていた。
「あれを倒せばいいってことか。シルフ、足音を消せるか?」
「うん『デリート』」
「行くか。『アイスジャベリン』」
氷の槍は巨人の額に刺さる。正彦は村正を振りかぶり背後に回り込む。巨人は目を覚ましたが、いきなりの敵の攻撃に戸惑っているのか辺りを見回している。巨人が正彦に気づいたのは正彦が村正で切りつける直前だった。
「遅い!」
正彦は巨人を切りつける。巨人は後ろから首を切られ倒れ伏した。
「こんなもんか。」
「うん。」
「一応念のためっと。」
ピストルを目に突きつけ発砲する。巨人は ビクン! となって動かなくなる。この時巨人、すなわちサイクロプスは何が起こったかよく分からないうちに命を散らしたのだった。
「さて能力は?『石化耐性Lv2』と、 お!『金剛』?」
「体を硬化させるやつ。」
「ああ。あれか。超便利じゃねえか。剥ぎ取ったら先に進むぞ。」
「うん。でもどっちに行く?」
正彦の目の前には2つの扉があった。1つはさっきと同様の煌びやかな扉で、もう一方の扉は対照的に質素で古いものだった。
「古い方に行くぞ。」
「どうして?」
「もしかしたら宝物庫みたいなものかもしれないだろ。それにこれがボスってのはなんか違和感を感じるんだよなぁ。」
「ちょっとまって。普通、人は1人でサイクロプスと出会ったら逃げる。」
「それって俺が・・・」
「常識がない。」
正彦は大きな精神的ダメージを受けて崩れ落ちた。
「大丈夫?」
「あ、ああ。まあ、行ってみようぜ。」
「うん。」
なんとか立ち直り、扉を開け放ち中に入ると更に下に行く階段があった。
「エクストラステージ?それとも罠か?」
すると ガチャン という音がした。振り返ると扉が閉められ、鍵がかけられたようだ。
「チッ!罠か!」
「先に進もう。」
「ああ。ここにいても仕方ない。罠だろうがなんだろうが関係ねえ。突破するまで!行くぞ。」
階段を降りるとまた扉がある。開けて中に入ると明かりがつく。すると正彦たちの目の前には大きな龍が姿を見せていた。
「嘘・・・」
「上等!行くぞシルフ。」
「う、うん」
「ゴアアアアアア!」
巨体に大きな翼に長い尻尾。西洋の龍の絵を具現化させたようなものだ。西洋の龍よりもスマートな体つきで氷を使うのか氷をまとっている。龍は飛び上がるとブレスを吐こうとする。
「させねえよ。『アイスジャベリン』」
「『ウインドカッター』」
龍の口に魔法をぶち込むも効果はないようで次の瞬間龍の口からは全てのものを凍りつかせるような白銀のブレスが放たれる。ブレスは着弾したところから地面を凍らしていく。しかしすでに正彦はその場にはいなかった。
「いつまでも同じところに突っ立ってると思うなよ!」
正彦は龍の後ろに回り込むとやはり首に村正を振るう。しかし皮膚に傷1つつけられず弾かれる。しかも着地する直前、鞭のような尻尾に吹き飛ばされる。
「グハッ!」
「正彦!大丈夫?」
「ああ。」
「あのブレス。」
「おう。当たったら即死のデスゲームかよ・・・ やってやろうじゃねえか。」
秘水を飲んでゆっくり息を吐く。龍はブレスを吐こうと口を開ける。
「避けるぞ!」
正彦が避けた瞬間、正彦がいた場所は凍りついていた。すると龍はいつまでも倒れない正彦達に怒りを感じたからかブレスではなく、弾丸状に出現させ、正彦達目掛けて撃ってくる。
「くそ!数が多すぎる!避けきれねえ!」
正彦は時には避け、時には氷の弾丸を村正で切りながら前進する。幸い村正は凍りつくことはなかった。シルフもウインドカッターで弾丸との相殺を試みるが、威力不足でシルフの魔法が打ち消される。シルフは体が小さいため避け専になるようだ。
「これでもくらえ!」
龍の下にたどり着き、手榴弾を口に投げ込む。見事口内爆発を起こすも、致命傷には程遠い。仕方なく回り込もうとしたその時、龍と目が合う。とっさにピストルを抜き、発射する。ビギナーズラックか目にあたり、片目を潰すことに成功する。
「ガアアアア!」
龍は怒り狂い、立て続けにブレスを連射する。しかし片目を失ったせいか、精度は低く、どっちかというと痛みと怒りによりデタラメに連射している感じだ。それでも正彦達にとって見当違いの方向に撃ったブレスも足場を失う結果になり迷惑極まりないのだが。
「ちくしょう!このままじゃジリ貧だ!なら・・・」
「正彦?」
「これでどうだ!『
「シルフ。あの時シルバーロードウルフに深傷を負わせたのはお前だな?」
「うん。」
「いいか。今からお前に俺の魔力を流す。それで顕現しろ。そんで一発大技を頼む。」
「それはいいけど、正彦の魔力が・・・」
「大丈夫だ。やってくれるな?」
「わかった。任せて。」
シルフは正彦に近づくとなにかを唱える。するといきなり脱力感が正彦を襲う。
「大丈夫!?取りすぎちゃった?」
「いや。大丈夫だ。」
(思ったより持ってかれたな。シルフが開けた風穴にピストルや手榴弾をぶち込めばいけるか?いや。それよりクラウディアからもらったものがある。)
「正彦。行くよ。」
「おう」
「『厄災をもたらす風龍』」
シルフが挙げた右手から膨大な魔力の奔流が現れ龍の形になる。龍は本能で危機を察知したのかはたまた同族嫌悪からか風龍にブレスを乱射する。しかし風龍には届かない。そして風龍と龍が接触する。その瞬間爆風が巻き起こる。
「ギャアアアアア!」
目を開けるとなんとすでに風龍の姿はなく、龍の腹に大きな風穴が空いていた。
「おおぅ。すげえな・・・」
「まだ!『ダ、ウンバースト!』」
龍の真上に巨大な気流が現れ、龍が押し潰される。
すると手の上にシルフが倒れ込んできた。
「もう・・・限界。あとは任せた。」
そう言って消えそうな体で拳を突き出してくる。
(馬鹿か俺は!シルフが命賭けて戦ってるってのにボーッと見てただけかよ!俺は・・・クソッ!足が、手が動かねぇ!恐いのか?また、何も出来ないのか?)
「正彦?大丈夫。信じてるから・・・ね?」
「シルフ!」
(ああ、そうだ、後悔なんて後で死ぬほど出来んじゃねえか。俺は変わるんだ。ここで逃げてちゃ今まで通り!今は素晴らしい相棒もいる。その相棒が信じてるって言ったんだ。答えなきゃ人じゃねえだろ!)
「ああ。任せろ!」
正彦はシルフに笑いかけた。シルフは微笑みその姿を消し、元の精霊の姿に戻る。見ると龍は起き上がりこちらの様子を見ている。
「さあて。第二ラウンド開始だ」
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