第8話 VS土竜 その2

「水蒸気爆発?」

「なんだその妙なものは。」

「まず水蒸気は分かるか?」

「なんでしょう?」

「知らんな。」


 そこからかよ。本当に知識無いんだな。


「そうだな。まずクラウディア。水を出してくれ。」

「はい。」

「サラマンダー。その水を熱してみろ。」

「分かった。 ドライ 」


 水が蒸発する。まだ2人はピンときて無いようだ。


「これがどうかしたのか?」

「さっきの水がどうなったか分かるか?」

「炎に打ち消されて消えたのでしょう?」

「いや。さっきの水は水蒸気という気体になったんだ。」

「そうなのか?」

「ああ。そうだ。っても目に見えねえし分かんねえか。なら実際にやって見せようか。水蒸気爆発。」

「ああ、頼む。」


 何か容器が欲しい。氷の容器じゃさすがに無理がある。炎で溶けてしまう。


「何か容器はないか?」

「これでいいですか?」


 土器のようなものだ。密閉できればうまくいくだろう。


「クラウディア。この中に水を少し入れてくれ。」

「はい。」


 よし。あとは俺の鍛治スキルで上手く密閉するか。 そう思い土を貼り付ける。少し時間をかけたがなかなかいいのが出来た。


「みんな、少し離れろ。あとシルフ、風の壁をみんなの前に出してくれ。」

「分かった。 『風壁 』」


 4人の前に透明の壁が現れた。あまり頑丈そうには見えないがあるほうがマシだ。


「サラマンダー。この土器を熱してみろ。出来るだけ高い温度でだ。」

「いいだろう。 『インフェルノ!』 」


サラマンダーが魔法を放つ。すると爆発音が響き目の前の土器が粉々になり、みんな吹き飛ばされてしまった。


「痛ってえ。ここまで威力があるとはな。」

「なるほどな。もっと大きくすれば土竜も倒せるかもしれん。」

「是非やってみましょう!」

「ああ。だがこれを土竜の前に置いても地響きで壊されるか、踏み潰されるかの2択だろうな。」

「そうだ。そこで一つ策がある。土魔法を使える精霊はいないか?」

「わ、私!私は土の精霊、ボーデンと言います。きょ、協力させてください!」


 いきなり1人の精霊が名を上げた。こいつは避難組を指導してた奴だった気がする。これでほとんど条件は整ったも同然。あとはボーデンの能力次第だ。


「ああ。ボーデン、地面を大きな空洞に出来るか?」

「ええ。地下深くでなければ出来ます。土竜の体長の半分くらいなら全魔力を使えば作れます。」

「よし。なら三分の一。土竜の三分の一ぐらいの大きさの空洞を地表付近に作ってくれ。ただし、空洞の中心を土竜の右足にするんだ。」

「分かりました。やってみます。」

「なぜ土竜の真下に作らない?その方がダメージも通るのではないか?」

「あくまでこの作戦のミソは土竜をひっくり返すこと。もしおまえが言うようにダメージ目的で行うなら金属片とかがある程度は欲しい。あれの弱点は腹だ。腹が丸出しになればこっちのもんだ。」

「そういうことか。確かに今金属片や尖ったものはあまりない。ひっくり返すならその方がいいな。」


 みんなをもう一度見渡すと、みんな作戦は理解してくれたようだ。そして目には作戦成功の希望が見える。適度な緊張感もあり、いい感じだ。この作戦は上手くいく。あとは水蒸気爆発の威力次第だ。そう思った。




 俺たちは村の前にある広場で水蒸気爆発をさせようと準備している。だいたい作戦通りのものが出来、昼食を摂り、一休みしていたところに、ついに、


「土竜が来たぞ!戦闘準備!」

「来たか。サラマンダー、俺の合図でインフェルノを頼む。ボーデン、上手く誘導してくれよ。」

「任せろ。」

「が、頑張ります。」


 土竜が見えてきた。ボーデンが地形操作をして水蒸気爆発地点に上手く誘導しているおかげで予定通りだ。


「シルフ、土竜がひっくり返ったら一気に斬撃を加える。風采を頼む。」

「『風采 』」


 やっと村正の出番だな。と思っていると土竜の体が水蒸気爆発地点にかかる。


「今だ!」

「『インフェルノ!』」


 1秒、2秒、3秒と時間が過ぎる。土竜の体の半分くらいがが水蒸気爆発地点を超えた時、大爆発が起こる。


「よし!」

「土竜が倒れたら私とクラウディアの魔法で一撃入れるぞ。」

「分かりました。」

「よし。シルフ、準備しとけよ。」

「分かった。」


 土竜は爆風でひっくり返る、かと思ったが爆風の威力が足りないようだ。地面に足がつこうとしている。


「何!?シルフ!風で上昇気流を起こせ!」

「うん。」


しかしシルフの風魔法の甲斐もなく土竜はひっくり返らず、また歩き始める。しかも土竜も周囲を警戒し始めたのでうかつに近ずけない。


「嘘・・・だろ。」

「クラウディア、無念だが撤退準備を。」

「はい。正彦様、行きましょう。」


「フハハハハ!堕ちたものだな。氷室正彦!」


 俺が撤退を決意しかけたその時、どこからか声が聞こえた。


「何者だ!姿を現せ!」

「私はここだよ。」


 いつのまにか土竜の上に黒いローブとフードをまとった人がいた。


「貴様!何者だ!」

「お主に名乗る名はあいにく持ち合わせておらんのでな。私の名前はもっと高貴なものなのだ。」

「目的は何だ!?」

「ちょっとしたご挨拶だよ。お主には関係ないことだ。」

「なら力ずくだ!『ファイアージャベリン!』」

「そんな遅い攻撃見切れるわ!」

「なんだと!なら『インフェルノ!』」


謎の男が炎に包まれる。


「やったか!?」

「ククク、その程度か?」

「なぜ・・・無傷なんだ?・・・」


(あいつ、どこかで・・・。 う、頭が・・・)


「おやおや、私のことを忘れてしまったのか。記憶を封印して。そんなことして、彼女は報われないねえ。フハハハハ。」


(彼女?俺に彼女なんていないはずじゃ。あれ?)


 俺の中にいくつかの光景が蘇る。大友たちとの中学校生活。まるで異世界に行ったかのような世界。俺に笑いかける彼女。殺された彼女。そして焼け落ちる王都。絶叫する俺。多くの人から恨まれ、罵倒される俺。そんなこと今までなかったはずなのに、なぜか実際にあった気がする。


「ウワアアアアア!」

「正彦!大丈夫!?」

「正彦様!」


「少し思い出したか?彼女を失い、怒りに我を忘れて王都を焼き尽くし、昨日まで慕われてた民から恨まれ、彼女を殺された男に利用され、仲間も殺し、正気に戻った時何もかも失ったあの時をな!」

「うるせえ!そんなこと・・・ウワアアアアアア!」


 この瞬間、目の前が爆ぜた。同時に俺の意識は闇の中に消えていった。





 目が覚めた時、俺はベットの上に横になっていた。


「あれ・・・ここは?」

「正彦!」

「正彦様!目が覚めましたか!」

「ああ。大丈夫だ。それで?何があった?土竜は!?」


 水蒸気爆発に失敗した後、男が現れたような気がする。ただよく覚えていない。


「土竜は正彦様が倒しました。黒いローブとフードを着た男と何か話した後、いきなり正彦様は体に炎を纏い男と土竜と戦いました。」

「炎?俺は氷魔法の使い手で炎は適正ないはずじゃ・・・。ダメだ。何も思い出せない。」

「なんか過去のことを言われてた。彼女がどうとか言ってた。」

「過去?彼女?そんなのいないはずじゃ・・・でもなんか引っかかるんだよなぁ。」

「それでしたら真実の泉に行ってみたらいかがですか?」

「真実の泉?」

「はい。北のスタンフォード公国の精霊の町にある泉で、そこで過去の真実が知れますよ。」

「正彦、多分過去の記憶を封印してる。炎を纏った時、怒りを感じた。」

「うーん。分かった。とりあえず真実の泉に行ってみるよ。」

「ええ。それはさておき食事が出来ましたよ。」

「助かる。そういえばどのくらい寝てた?」

「丸2日。」


 うわ。随分と寝てるなあ。早く出立したいが少し休んでくか。


「そういえばサラマンダーは?」

「昨日出立いたしました。街に一連の出来事を報告しに行くようです。」


 ふむ。この分だと2日あれば回復する気がする。何故かは知らん。


「クラウディア。明後日出立しようと思う。土竜の死体の所に案内してくれ。剥ぎ取りをしたい。」

「分かりました。」


 飯を食い、土竜の死体の所に行くと、土竜の死体の半分くらい焼け、無くなっていた。


「なあ。何があった?」

「正彦様が焼き尽くしました。」

「俺が?ねえ・・・。」


 正直信じられない思いのまま土竜の無事な素材を探す。結果、鱗と皮は大量にあったが、尻尾はなく、角がなんとか無事であった。そして土竜の体内で錬成されたと思われる土も採取した。


「こんなもんか。まあよく残ってたな。」

「やっぱり頑丈。」

「戻るぞ、シルフ。」

「うん」


 これでなにか作れればいいんだが。ローブとか防具も欲しい。




 夜。クラウディアとシルフと夕食を食べながら今後について話し合っていると


「正彦様。ここから出て地上に戻るためには洞窟へ行くしかないのです。しかしその洞窟はダンジョンで危険です。ですが入るとあと少しで最深部といったところに行けます。ならいっそのことダンジョンを攻略してみては?」

「いや。俺は地球に帰ることが目的だ。それ以外に興味はない。」

「でも攻略すれば転移の魔方陣に乗って地上に戻れます。多分普通に上に行くより早いでしょう。」

「それを先に言えよ。」


 次の方針は決まった。ダンジョンに潜る為の準備が必要だ。


「クラウディア。この村のものをいくつかもらっていいか?」

「構いません。なんでも言ってください。」


 こうしていくつかのものや、村の宝までもをもらって正彦はシルフを連れてダンジョンに向かうのだった。

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