第7話 VS土竜 その1

 正彦は村へ走りながら考えていた。


(あの巨体じゃ村正はあまり役に立たないな。シルバーロードウルフの時みたいに体内から手榴弾で爆発させるか?ピストルは未知数だからまず試さないとな。魔法はどうだ?厄災級相手にふつうの魔法じゃ望み薄だな。)


『シルフ。風采を頼む。まずは相手の全体を見て弱点を探す。』

『わかった。『風采』』


 これで移動速度も上がる。先に村へ行って味方を得よう。クラウディアを味方につけて戦力確保だ。


「よし。急ぐぞ」



「なんだこいつ。デカすぎるだろ。チートかよ。」


 正彦は精霊の村の手前に戻ってきた。幸い土竜は巨体ゆえか動きは遅いので村に来るまではまだ時間がかかりそうだ。それでもとてつもなく大きいからかあたり一面土竜の皮だらけだ。山が4個並んだように見え、頭には立派な角がある。尾もとても長い。


 精霊の村に入ると住民たちは1つにまとまってなにやら準備していた。避難するのか戦うのかよくわからない。あたりを見回すと指示を出しているクラウディアを見つけた。なんとか協力を得たい。


「クラウディア!」

「正彦様!無事でしたか。」

「ああ。みんななにをしているんだ?」

「避難の準備です。」


 どうやらクラウディアの協力は得られなさそうだ。


「戦わないのか?」

「正彦!本当に戦う気?」

「もちろんだ。邪魔者はなんであっても払いのける。」

「無茶です。いくらシルバーロードウルフを倒した正彦様といっても土竜にはかないません。なにせ土竜は厄災級のモンスターですよ。」

「それが?」

「それがって・・・逃げるしか生き延びる道はありません。」

「弱いからって諦めてそれを受け入れるのか?弱い者は弱いって決めつけるのか?そんな生き方は御免だ。そうだろ?じゃなきゃそんな魔石を持ったりしないだろ?」

「これは避難のための足止めを・・・」

「それだけならこの結界内の魔力で充分だろう?それなのに魔石を持ってるのはせめて一太刀とでも思ってるんじゃないのか?」

「・・・その通りです。わかりました。私もこのまま村を潰されては癪です。私も戦います。」

「どうしたんだ?クラウディア?」


 なんだ?こいつは?せっかくこれから作戦立てようとしてたのに、邪魔しやがって。


「サラマンダー様!あなたこそ早くお逃げください!」

「ふむ。そこの少年は何者だ?見ない顔だな?」

「彼は氷室正彦様。人間です。」

「なに?人間?なんで人間がここに!?」

「シルバーロードウルフといっしょに橋から落ちてきたそうです。」

「よくわからんがまあいい。シルバーロードウルフはどうなった?」

「彼とシルフが倒しました。」

「何!?どうやって?」


 何を話してるんだ?時間の無駄だ。と思いつつ正彦はピストルと村正の具合を確認していた。ピストルは中に弾が6発入っている。弾はこれだけしかないので試し打ちもできない。村正にはコーティングを掛け直しておこう。その時彼の耳に聞き捨てならないことが聴こえてきた。


「こんな小僧がそんな聞いたことないものを使ってシルバーロードウルフを倒した?嘘だろう。どうせハッタリさ。」

「ああ?」

「威勢がいいね。あんたがシルバーロードウルフを倒した証拠でもあるのか?」

「証拠? これでいいか?」


正彦は収納からシルバーロードウルフの死骸を出した。


「収納・・・ しかもこれだけの量。でもなんで頭がない?」

「木っ端微塵になったからな。角ならあるぞ。」

「ふん。確かに嘘はついてないようだな。でもどうせ死にかけにトドメを刺しただけだろう。」


(何言ってんだこいつ?話す価値もない)


 正彦はサラマンダーを無視して土竜対策に取り掛かろうとした。しかしサラマンダーは図星だったから黙ったのだと思い込みさらに言ってきた。


「そらみたことか。そんなことで調子に乗るなよ小僧。おまえなんかが土竜とやりあっても一瞬で潰されるだけさ。シルフもクラウディアもこんな奴の言葉に騙されてないでさっさと行くよ!」

「私は正彦と契約した。それにシルバーロードウルフは死にかけなんかじゃなかった。」

「シルフまで小僧の肩を持つのかい。勝手にしな。」

「行くぞシルフ。」


 どうやら協力は得られそうにない。ならこの戦力で勝つ方法を考えるまでだ。

 しかし残酷にも天は考える時間を与えてはくれなかった。


「正彦!土竜が来てる!」

「チッ!仕方ない。行くぞ!」


 正彦は村を出て木の上に登って村正を抜き、風采をかけつつ土竜を待つ。すると程なく土竜は正彦のいる木を通っていく。

(今だ!)

 正彦は飛び上がって土竜に斬りつける。しかし弾かれてしまう。


(やっぱり無理か。なら目を狙う!その前に魔法を試してみるか)


「『アイスアロー!』『アイスジャベリン!』」


 無数の氷の矢と槍が土竜に命中する。しかし効果はない。しかも土竜はこっちを気にする風もなく、歩き続ける。


(なめやがって。なら無理矢理でも意識させてやるよ!)


 正彦は土竜の正面に躍り出る。土竜は今更敵を認識したようだ。心なしか驚いてる気がする。正彦はその動揺の隙に村正を目に突き立てようと試みる。しかし土竜の対応は冷静で頭の角を振り回してきた。


「ぐあ!」


 正彦の脇腹に角が薙ぎ払われ木に吹き飛ばされ激突する。骨が折れ、出血している。

 土竜は正彦を無力化したと思い込んでトドメを刺さずに歩き出した。

 正彦は立ちあがろうとするも、土竜が歩くたびに起こる地響きで思うように立ち上がれない。正彦は秘水を飲んで回復し、地響きの影響が少なくなるまで休んでから起き上がる。


(相変わらず秘水はすげえな。骨折も出血もだいたい治しちまうのか。完治できなくても動けりゃ充分だからな。)


「『アイスステップ。』」


 氷の足場を作って土竜に追いつき並走する。土竜は正彦に気づいてないようだ。


(こうなったら手榴弾を口の中に放り込んでやる。どうせ竜なら肉食だろ?ならファンキーウルフの肉に手榴弾を仕込んでおけば胃酸で爆発するだろ。)


 正彦はスピードを上げて土竜を追い抜き進行方向にファンキーウルフの肉を設置して近くの木の上に隠れる。


(これで胃を爆破してしまいだ。)


 土竜は肉の目の前に来ると口を開けて丸呑みにしてしまった。そして歩き続ける。正彦は土竜に並走しながら様子を見るがなんの変化もない。一瞬土竜が止まり顔をしかめた気がするがそれ以外なにも起こらない。


(おいおい。本当に爆発したのか?してたらしてたでどうなってんだこいつの胃。顔をしかめたのって爆発したからか?だとしたらこいつの胃はどんだけタフなんだ!?)


「正彦。土竜にダメージを与えたっぽい。」

「分かるのか?シルフ。」

「うん」

「ってこたあ、さっきので爆発したってことかよ。仕方ねえ。駄目元でピストルでも撃ってみるか。最悪全部の手榴弾を胃の中にぶちこむしかないな。」


 正彦はもう一度土竜の前に立ちピストルを構え、目めがけて発砲した。 パンッ という快音が響くも目には当たらず、効果はないようだ。万事休すかと思って作戦を立て直そうと撤退を試みたその時


「『インフェルノ!』」


 突然土竜の体が炎に包まれる。そして、


「『ビッグスワンプ』」

「『ファイアースネーク!』」


 土竜の足元に沼が現れ、そこから炎の蛇が土竜に巻きついた。


「『ファイアーアロー!』」


 そこに大量の炎の矢が降り注ぐ。


「『ウインドカッター』」


 シルフまでも加勢した。俺?氷魔法を炎の中に使っても仕方ないだろう。何もできねえ。


(この声クラウディアと誰だ?まあいい。今がチャンス。作戦を練り直すぞ。)


 正彦は村へ戻る。するとクラウディアとサラマンダーが魔法を行使していた。どうやら炎魔法の使い手はサラマンダーだったようだ。


「正彦様!無事でしたか!」

「なんとかな。でも俺の攻撃もさっきの魔法もほとんど効果がなさそうだ。」

「何!?私のインフェルノを受けて無傷だと!?なんてやつだ。」

「幸い避難はもう終わります。撤退しましょう。」

「うむ。悔しいがそれしかあるまい。」


 え?なんか逃げようとしているんですけどこの精霊たち?なんで逃げ腰なんだ?


「ちょっと待て。」

「なんでしょう。正彦様?」

「一つ策がある。」

「また法螺を吹く気か小僧。付き合ってられんな。」

「土竜を倒せるかもしれない。と言ってもか?」

「どうせ法螺だろう?」


こいつ・・・ いちいち腹たつやつだな。でも今は我慢だ。


「頼む。2人の協力が必要だ。失敗するかもしれない。けど逃げるのはそれからでもいいはずだ。」

「正彦様。私は協力します。」

「クラウディア!何を言ってるんだ!」

「サラマンダー様、正彦様の言うことを聞いてからでも遅くはないかと。」

「サラマンダー。おまえの協力も必要だ。一度でいいから頼む。」

「わかった。ただし、おまえの策を聞いて協力する価値があると思ったら協力しよう。」


 よし。これで2人の協力は得たも同然。あとは俺の説明が通じればいいんだが。


「なら説明するぞ。水蒸気爆発を」

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