第5話 VSシルバーロードウルフ

(なんだ?いきなり脳の中に声が?あのピカピカしたやつか?まあいい。今はあの狼だ。さっさとケリをつけてやる。)


「アイスジャベリン!」


 大きな氷の槍でシルバーロードウルフの後ろから強襲した。見事に尻に命中しよろける。しかし貫通せずカンチョーをくらった感覚だったろう。


「グァルルルルルルル・・」


 こっちに振り向くとシルバーロードウルフは氷の球を吐こうとしている。しかし、


「させねえよ」


 その前に正彦の投げた手榴弾がシルバーロードウルフの顔面で爆発する。目にはダメージがあったようだがほかは傷ひとつない。仕方なく、フラついてるシルバーロードウルフに村正で切りつける。しかし弾かれてしまう。


「チッ なんであんなに硬いんだ。刃こぼれしないようにコーティングかけてよかったぜ。」


 正彦は刃こぼれを恐れて鍛冶スキルで村正にコーティングをかけていた。それが幸いし、刃こぼれは起こさなかった。しかし攻撃手段がない。


(手札全部使って手応えゼロ。目を潰しても死にはしないし鼻で追ってくる。くそ。どうすりゃいい?何か新しいモノを考えないと。)


 10分経っても戦局は変わらない。シルバーロードウルフは氷の槍を何本も飛ばしてくる。それを必死に避ける。しかしシルバーロードウルフはSランク冒険者ですら苦戦する魔物(このことを正彦は知らない)、すなわちとてつもなく強い。

 そのため今の正彦では氷の槍を避け切ることはできず、徐々に傷を負い、動きが鈍り、そのせいで余計に傷を負うことの繰り返しである。


(ジリ貧だな。逃げるわけにもいかないし、でももう片方の目を潰すぐらいしか有効打がないのも事実。やれる事をやってみるか。)


 正彦はシルバーロードウルフに駆け出した。そして足元から凍らせていく。内田たちと一緒にいた時にやった技だ。しかし今回は足止めが目的ではない。そのまま前足の氷を首まで伸ばす。

 シルバーロードウルフは氷の槍や氷塊を飛ばしていて正彦の氷に気づいていない。

 正彦は氷の槍を避けきれず手傷を負いつつもシルバーロードウルフに接近して思いっきり飛び上がる。そして潰れていないもう片方の目に村正を突きつけた。

 シルバーロードウルフはいまさらそれに気づいて跳び下がろうとする。しかし正彦の氷がそれを許さない。慌てて首を横に振ろうとする。しかしこれも正彦の氷が許さない。そして


「いまさら遅い!くたばれ!クソ狼!」


 正彦は村正をシルバーロードウルフの目に突き刺した。「ギャオオオオオオオ!」とシルバーロードウルフは正彦の氷を破壊して呻く。しかし決定打には欠ける。


「うん?うわ、目が刀の先端に刺さってやがる。汚らしい。」


 と刀を降って目を落とす。しかしその行動はシルバーロードウルフが態勢を立て直すには十分であった。シルバーロードウルフは鼻を使って正彦の位置を探り出し、氷の槍や氷塊を飛ばす。それを避けつつ正彦は傷口に小さめのアイスジャベリンを放つ。これはシルバーロードウルフも避けられず命中し、ダメージを与える。


(なるほど。表皮は硬いが、中身は他と変わらない強度か。このまま、目の跡から傷口を抉るか?しかし決定打になるかなあ?)


 と思いつつも現状、有効打はこれしかないので仕方なく続ける。このままでは正彦の魔力が切れるかシルバーロードウルフが倒れるかの勝負になってしまう。しかしこれを破ったのはシルバーロードウルフの方だった。


 シルバーロードウルフは一吠えすると氷を全身に纏う。頭には氷の角、背中には氷の棘、足にも氷の棘を纏った。そして目(今はない)を守るまつげのような氷もできた。

そして今まで氷魔法での遠隔攻撃しかしてなかったが、いきなり飛びかかってきた。正彦は飛び上がって避ける。その着地点に氷の槍や氷塊が飛んでくる。


「ぐぁあああああ!」


 正彦の足に一本の氷の槍、体に氷塊が多数あたる。思わず跪いた正彦に飛びかかるシルバーロードウルフ。正彦は身をよじるも左腕を噛みちぎられてしまう。


(チッ 腕をやられたか。痛えなちくしょう。痛みで考えることすらままならねえ。でも止まったら死ぬ。どうする?)


 駄目元でアイスジャベリンをまつげに放つ。しかしシルバーロードウルフの氷は硬く、弾かれてしまった。その間に秘水を飲んで腕の出血を止める。しかし血の量は回復しないので貧血気味になり動きが鈍り始めた。


(体が動かねえ。貧血のせいか?でも動かなけりゃ殺されて喰われる。そんなのはごめんだ。)


「こんなところで死ねるかよ!『アイスハンドレッドソード!』」


 100本の小さな氷の剣がシルバーロードウルフの顔に飛んでいく。しかしすべて弾かれてしまう。

 その間に正彦は氷の新たな武器を作ろうとしていた。


(切り裂けないなら殴り殺す。単純だ。撲殺するならやっぱりハンマーだ!)


 そのハンマーを大きく振りかぶり殴りかかる。しかしこれも意味がなかった。ハンマーの強度が足りず根元から折れてしまった。


(これ以上重く、強くしたらこっちが持てなくなる。撲殺は不可能か。くそ。万事休すか?)


 その時正彦の後ろから風の刃がシルバーロードウルフの尻に当たる。そしてなんと、その尻の氷を削り。ダメージを与えた。


『大丈夫?』


 また脳の中に直接声がかけられた。


(あれは何者なんだ?こっちからコミニュケーションが取れない。)


[スキル 念話が解放されました。]


 念話か。よし


『お前は何者だ?』


こういう感じだな。


『私は精霊。風の精霊シルフィード。助けてくれてありがとう。』

『別に助けたくて助けたわけじゃねぇ。ただあいつにはちょっと昔にやられたんでね。』

『? よくわからないけどどうしてこんなところに。』

『あの狼にやられたのと、内田っていうパーティーメンバーに裏切られた って危ねぇ。今は戦いに集中しないと殺される。話を聞いてる暇なんてないんだよ!』

『分かった。今はお互いのピンチ。私と契約してくれるなら共闘できる。』

『契約?でも今こんな状況でそんな余裕ないだろ。』

『だから一回離脱しよう。』

『まあ話は聞いてやる。このままじゃマズイしな。あそこの茂みの奥には岩がある。あそこの裏に隠れるぞ。』

『うん。でも、どうやって?』


「それはこうするんだよ!」


 正彦は臭い玉(正彦命名)を取り出し投げつけた。

 目が潰れているシルバーロードウルフは精霊シルフィードの匂いがわからないので、自然正彦の方を狙う。その目の前に臭い玉を投げれば鼻も潰せるということだ。

 強烈な臭いで鼻を一時的に潰し、その隙に正彦は石を反対方向へ投げつけておいて茂みの奥の岩陰へ隠れた。

 シルバーロードウルフは鼻を潰され自然聴覚へ意識が向かう。正彦はそれを考えて反対方向へ石を投げたのである。案の定その音を聞いてシルバーロードウルフは反対を向きデタラメに飛びかかったりして木を倒したりしていた。そのおかげで茂みに入る音も聞こえなかったようだ。



 正彦が岩陰で秘水の飲んで休んでいると、精霊がやってきた。


『それで?契約ってなんだ?あと精霊ってなんなんだ?妖精のことか?』

『精霊はエレメント すなわち元素の塊。多量の魔力を持つ。妖精は精霊の進化系。』

『なるほど。ただ、エーテルなんてあったのか。まあいい それで契約って何だ?』

『精霊の魔力は自力では回復できない。なくなると死んじゃう。回復方法は精霊の村にいると少しずつ回復する。でもね、契約するとその精霊は契約主をマスターとした主従関係になって1日に一回魔力を少し分け与えてくれるだけで回復できる。』

『んー。でもなんで契約しようなどと言う?』

『このままじゃシルバーロードウルフには勝てない。あれは硬すぎる。風の刃でも、君の刀でも切り裂けない。でも、契約すれば私の力を上げられるし、君の刃に風魔法をかければ切れるはず』

『たしかにこのままやっても勝てない。でも組んでやれば切れるのか?』

『多分』

『多分かよ!まあやる価値はあるか。契約したら勝算あるのか?』

『多分ある。』

『またかよ、多分って。どうやってやる?』

『切りまくる。顔を中心に。』

『テキトーなこと言うな。あとそもそもおまえ、強いのか?』

『自信ある。風魔法なら本気を出せばトップクラスだって村長に言われた。』

『契約したらどうなる?ちゃんとデメリットも言え』

『私があなたの配下になる。あなたと私の能力値が上がる。私達が生き残る。あなたが風魔法を使えるようになる。毎日魔力を私に与える。』

『分かった。契約しよう。どうやって契約するんだ?』

『こうする。』


 精霊シルフィードは魔法陣を展開させた。


『ここにあなたの血で名前を入れる。』

『分かった。』

 

 正彦は指を噛んで血を出し、名前を書き入れた。とたんに魔法陣が光り、シルフィードと正彦が一本の糸で繋がれたような感覚がした。


『よろしく正彦。』

『あ、ああよろしく。シルフィードさん?』

『シルフでいい。』

『シルフィード。』

『シルフ。』

『分かったよ。シルフ』

『うん』


 とシルフははにかんだように見えた。しかし今は戦闘中。シルバーロードウルフをどう倒すかが問題である。


『それで?どうやって倒すかだが、シルフの案では村正に風魔法をかけて切れ味をあげる か。』

『そう。』


(待てよ。目の穴は切れた。ってことは体表は硬いけど中は柔らかい、他の動物と変わらないということか?)


『あいつの体内は柔らかいか分かるか?』

『分からないけど狼の筋肉は柔らかいはず。』

『ありがとう。助かった。これで勝つ手段が立った。』

『本当!?』

『おうよ。』


「さあ、この左腕の借りも含めてまとめて返してやろうじゃねえか。さあ逆襲の始まりだ。」

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