第3話 密林の恐怖と裏切り

「春!後ろ!危ないよ!」

「わぁ!この!えい!えい!」

「危なかったぁ」

「まだだ。2時の方向スケルトン2体!」

「嘘でしょ!もう魔力ポーションもないし!回復ポーションも少ないよ!撤退しよう。」


 僕達はやはり密林に苦戦を強いられていた。魔物を倒すのも長期戦で次から次へと現れる。少ないポーションも底をつき、内田達はできるはずもない引き上げを考えていた。なぜこんなことになったかというと・・・



「よし、密林に行くぞ!」


 僕たちは密林の手前まで来た。外から見ると密林はまるでブラックホールのように来る人すべてを吸い込むかのような印象を受けた。


「ちょっと怖いかも。」

「不気味」

「大丈夫だ。今日はそんな奥までは行かない。手前の方は安全だ。それに密林のことならある程度調べてある。とにかく中に入るぞ。」

「うん」


 そして僕たちは密林へ入った。少しの好奇心と大量の不安と共に。



「密林はマッピングが必要だ。春、マッピングを頼む。正彦と真紀は側面と背後を頼む。あと通った道に目印をつけていくことを忘れるな。」


 内田はかなり的確に指示を出す。すると


「えーと、2時の方向ファンキーウルフ!その数5匹!」


 真紀が声を上げた。


「敵は気づいていない。なら魔法で先制攻撃を入れてから一気に仕留めるぞ。」

「ファイアボール」

「アイスボール」

「アクアボール」


 僕を含めた3人が魔法を唱える。

 3人の魔法は命中し、ファンキーウルフを4匹倒した。残りの1匹は勝てないと判断したのか奥へ逃げていく。


「追うぞ!ファンキーウルフは仕留める。」

「待って。別に逃げるんなら逃してあげてもいいんじゃ」

「だめだ。」

「どうして?」

「奴らは狼だ。もし鼻がきく奴らなら、ボスが仲間を連れて匂いをたどって襲ってくるぞ。」

「じゃあ殲滅するしかないのか。」

「そういうことだ。仕方ない。追うぞ。」


 ファンキーウルフはどんどん奥へと逃げていく。僕達もファンキーウルフについていく。魔法を放つもなかなか当たらない。そんなこんなでしばらく走り、ついつい奥へと深入りしてしまい、橋を渡っていく。するとファンキーウルフは橋を渡り終えて少し進むと動きが止まった。


「なんだ。この威圧感は・・・」

「すごい不気味。」

「怖いよぉぉ」

「もしかして罠じゃ

「ウォォォーン」


 突然大きな鳴き声がしたかと思うとファンキーウルフの10倍以上ある銀毛の狼がすがたを表した。鋭い爪、牙をもち青い瞳が僕たちを見つめる。威圧感が漂う。


「こいつは・・・シルバーロードウルフじゃないか!」

「シルバーロードウルフ?」


 シルバーロードウルフはファンキーウルフの上位互換で雷魔法、氷魔法を使う超危険Sランクモンスターと書いてあった記憶がある。

「チッ、 ファイアボール」


 内田はいつもより大きな火球を出す。春は側面から槍を繰り出し、真紀はアクアボールを唱える。それらは全てシルバーロードウルフに命中する。しかし、


「無傷・・・だと」


 シルバーロードウルフの毛皮には傷一つついていない。そして目にも止まらない動きで真紀に襲いかかる。


「きゃっ」

「真紀!退くぞ!こいつには今の俺たちじゃ勝てねえ。」


 内田達は橋を渡り逃げようとするが、回り込まれてしまう。


「みんな、こっちだ!一旦身を隠すぞ。」


 そして内田達は身を隠し、シルバーロードウルフから一旦逃げることに成功して橋から離れるように動いていき、真紀の傷を治し、現在へ至る。



 なんとかスケルトンを蹴散らし、その後にやってきたポイズントードを焼き殺し、休憩する内田達は作戦会議を開いていた。


「シルバーロードウルフはまだ橋の近くににいるはずだ。1人囮を作って残りが橋を渡って、最後の1人が橋を渡った時に俺がファイアボールで橋を焼く。これが最善だと思う。」

「あるかないかわからない別の橋を探すよりは確実だと思う。でも囮は死ぬかもしれないよ。」

「ああ。それに囮は強いやつじゃないと囮にならない。」

「いっくん、死んじゃ嫌!」

「でも私達は囮になれないんじゃあ」

「ああ。真紀や春は弱すぎる。それに俺が囮になると橋を焼くことが出来ない。正彦、頼む。囮を引き受けてくれないか。お前しかいないんだ。今まで雑に扱ってきたことは謝る。この通りだ。お前は俺と同じくらい強い。だから囮を引き受けてくれないか。」


 こいつ。やっぱりわざとだったのか!と思いつつも昨日のこともあり、今の僕では断るなんてことはできなかった。


「わかった。僕が囮を引き受けるよ。」

「ありがとう。作戦に問題はないか?」

「大丈夫かな。僕が半分ほど橋を渡ったら、橋の一番奥にファイアボールをお願い。」

「わかった。じゃあ今は休め。20分後に出発だ!」


 こうして作戦は決まった。後はみんなの体力が問題である。携帯食を食べ、皆思い思いに休む。

 一応僕と内田は周囲を警戒している。敵の気配はなく、大丈夫だと思っていると、20分ぐらいが経過した。その間シルバーロードウルフの遠吠えが聞こえるくらいでモンスターにも襲われなかった。どうやらシルバーロードウルフを恐れて隠れてしまっているようだ。


「よし、行くぞ。作戦は頭にあるな?こっちだ」


 現在僕たちは橋の近くについて様子を窺っている。すると


「ちっ、もしかしたらいなくなってるかと淡い期待を抱いてたがやはりいるな。」

 やはりシルバーロードウルフは橋の手前に陣取っていた。


「作戦通りに行く?」

「ああ。行くぞ!真紀と正彦はあいつの足を凍らせろ!それから俺たち3人は橋を渡る。俺たちが渡り終えたところで正彦に声をかけて、正彦が橋を半分くらい渡ったところでファイアボールで橋の奥を焼く。いいな!?」


 僕たちは路上に飛び出した。


「『アイスボール』」


 まずはシルバーロードウルフの足を凍らせることに成功した!シルバーロードウルフは飛びかかろうと動こうとするが足が凍っていて動くことが出来ない。そして


「今だ!橋を渡るぞ」


 内田たちは橋を渡って行く。僕はアイスボールでひたすらシルバーロードウルフの足を凍らせている。しかしそれももって10秒。あっという間にシルバーロードウルフの足の氷は剥がれる。しかし10秒という時間では僕たちには全く足りない。

 なので


「『土壁!』」


 これを繰り返し30秒ほど経ったあと。


「今だ正彦!走れ!」


 僕はひたすらに走り出した。橋の三分の一を渡ったときシルバーロードウルフも橋を渡り始めたことが振動から伝わる。そして橋の半分を過ぎたとき


「「『『ファイアボール』』」」


 内田たちの魔法が橋に放たれた。そう。橋の手前にである。


「え?」


 橋はあっという間に対岸から焼け落ちていく。

 内田たちに裏切られた!と感じながら僕は体が宙に浮くのを感じ、そしてシルバーロードウルフもろとも橋の下の底に落ちていくのだった。


「終わった か。」

「康くん、本当にやっちゃったんだね」

「ああ。悪いか?だがこれは俺の復讐だ。文句はないだろう?」

「ないない!むしろスカッとするよ!あの陰キャのせいで雰囲気がいつも暗くなるし、なんもいいことなかったからね。よかったよかった。」

「まあ生き残ってもあの奈落から這い上がれないだろうしな。いい気味だ」


 そう言って内田たちは密林を出る。今の内田の頭の中にはどうやって団長や周りを誤魔化すかということしかなかった。



夜 定例の報告会が行われた。

 団長の大友貴明が


「今日の成果を報告しよう。」

「西野班は街を散策し、観光していました。」

「わかった。内田班は・・・あれ1人足りないぞ。体調でも崩して寝ているのか?」

「いいえ。 氷室は死んでしまいました。申し訳ない。」

「なんだって!?どうして死んだんだ?」

「俺たちは森で戦ってたんですが、なぜか強力な見たことないモンスターがいたんだよ。それと戦っていたら4人とも離れ離れになってしまって合流したときにはもう・・・」


「うーん。過ぎたことは仕方ない。やはりバラバラに動くのは良くない。常にグループ行動を取る方がいいな。」


(よし。これで大友は騙せた。これでなんとかなったか)と内田は考えていた。しかし、この中にいる宮本恵太、佐野晃などは


(嘘だ。氷室をあいつらが殺したんだ。)

(あいつらは密林へ行っている。その時の事故か?)


 内田の嘘を見抜いていた。しかしこの場では苦笑いをし、夜大友に訴えた。


「大友。いるか?」

「なんだ宮本?眠れないのか?」

「そういうわけではない。ただ一つ言いたいことがあってな。」

「言いたいこと?って佐野までいるのか。」

「おう。実は今日の報告で内田が言ってたことなんだが。」

「ああ。氷室のことについては残念だったな。あいつは中学の時は明るいやつだったんだかなあ。」

「大友あいつと知り合いなのか。」

「まあな。同じ中学でかなり仲よかったぞ。」

「あんな隠キャとお前がか?どう考えても似つかねえぞw」

「氷室は中学の時は俺らの中心にいた明るい聡明なやつだ。氷室グループが出来ていたぞ。」

「じゃあ今は猫かぶりしてるのか?」

「いや。中学の時になんかあったらしい。高校に入ったらあんなだった。」

「マジかよ。」

「そんなことより」


 佐野が話を切り替えた。


「ああ。内田のことだろ?あいつが嘘を言っていることぐらい俺にもわかるよ。それに多分氷室はまだ生きている。」

「確証でもあるのか?」

「いや。ただあいつはこういうときに強いし、悪運も強いからなあ」

「そうかあ?」

「まあ内田のことに関しては考えておくよ。いい加減お前たちも寝ろ。」

「ああ。」


 こうして夜が過ぎ正彦がいない朝を迎える。

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