第45話 ログナからの知らせと急変
『こ、こらこら、リウ! ルールイ! 助っ人のはずなのに何をまたやっている?』
「にぁっ!? エ、エンジさま?」
「ア、アルジさま……ち、違いますの、これはあのその……」
慌てふためく二人を見ているだけで怒る気も失せて行くが、甘やかすのは良くない。
「それで……騎士たちから離れて何をしていたのかな?」
「ネコが」「コウモリが」
「ん? 何だって?」
「「邪魔を!!」」
随分と息の合った仲になっているようだ。
恐らく、攻撃していたら動きが同時になっていて、お互いの妨害をしていたというところか。
「……まぁいいけど、まだ騎士たちが交戦しているのに、二人が手を貸さないのはどうしてかな?」
「リウたちは強そうなゴブリンを追い払ってあげたのにぁ」
「ネコの言う通りですの。騎士と今戦っているのは、騎士程度でも戦えるゴブリンに過ぎませんわ」
見ている限りでは、騎士たちが劣勢になるようには見えない。
――となると、リウとルールイはやはり人間に対して、必要以上の貸しは作らないという考えが強いのか。
「ところでエンジさま。後ろにいるドールは何にぁ?」
「そ、そうですわ! アルジさまに隠れている機械人形は何ですの?」
「あぁ、彼女は――」
ドールに性別があるのかは不明だが、砦で守っているピエサと同様に、彼女と呼ぶのが正解だろう。
『ピエントは、魔法士サマのモノ。全てをワタシマシタ。ワタシは先に向かいまス……』
向かうって、まさか自動的に行くべきところが分かっているのかと聞く前に、飛んで行ってしまった。
「にぁ~……いなくなっちゃった」
「な、何なんですの……」
行き先は恐らく分かっているのだろうが、それにしたって淡々としていた。
リウたちと話し込んでいると、すでにゴブリンたちを掃討したのか、騎士たちが城に引き上げていく。
その中の一人、クライスだけが俺たちの所に駆けて来る。
「ふぅ。ここにいるということは、エンジは魔法攻撃で他の魔物を退けたのだな?」
「ゴブリンだけは止められなかったですが、他は海に落としました。平気でしたか?」
「あぁ。リウちゃんとルールイさんのおかげだな。此度の功績は全て、エンジだ! 本当にすまない。王も会いたがっているが、会ってくれぬか?」
シャル姫よりも偉い国王が会いたがっているとは、随分と待遇が変化したみたいだ。
「そうですね、リウの思い出の地、そしてクライスの国ですから見聞を広げ……」
「ウウウゥ……い、嫌な感じがするにぁ……」
「え? リウ?」
垂れた耳で嬉しそうにしていたリウだったが、何かを察したのか、耳をピンと立てて警戒心を見せ始めた。
「ネコのことだから、何かまたくだらないことで気でも立っているのでは?」
「――エンジさま……ログナに戻った方がいいにぁ!」
「え、何で? 何かを感じた? 俺は何も……ザーリンの声も聞こえて来ないけど……」
「分からないけど、嫌な感じがあるのにぁ」
俺よりもリウの方が察知スキルが高いが、まさかこんな遠方の地、それも海を隔てた国で危険を察知出来るなんて、リウには俺の知らない隠れスキルでもあるのだろうか。
「どうかしたのか? エンジ」
「いえ、しかしリウが感じ取っているのはいい事では無さそうです。ミーゴナには後でまた来ます。今は自国に戻って構いませんか?」
「それは構わぬが……かなり遠いのではないのか?」
「それは……」
ここへはルールイの協力と船で来られた。
そしてピエントからコピー出来た浮力スキルは、塔とミーゴナの往復限定だ。
「エンジさま、植物に触れるだけでも飛べないです?」
「ん? んー……ルオの森で出来たけど、三人同時でしかもルールイもいるとなれば、同じ場所に飛べないかもしれないよ」
「やってみるのにぁ! ルーがどこかにいなくなっても、どうせ飛んでくるから大丈夫にぅ!」
「全く、ネコはいちいちムカつくことを言うのね! よく分かりませんけれど、急いだほうがよろしいかと」
「あぁ、分かった。そ、そういうことですので、クライス。どこかに植物はありませんか?」
「それなら家の庭に……」
「に、庭に案内を!!」
「こっ、こっちだ」
リウが焦りを見せているということは、また勇者が性懲りも無く来たのか?
ログナには賢者アースキンがいるし、守りを固めているはずなのに。
「クライス、また来ます。来たらまたここで!」
「おに―さん、またにぅ!」
「ごきげんよう……」
「あぁ。な!? 消えた!?」
やってみるもので、植物に触れただけですぐに飛ぶことが出来た。
そして俺だけがログナのギルド内に戻って来たようだ。ギルドに植物は無いが、俺が古代書に触れた最初の場所でもあるし、それが関係しているのだろう。
ギルドの中はかつて俺が書記として座っていた椅子も無ければ、テーブル席も見当たらない。
どういうわけか、ここで感じる気配は邪悪なものだ。
「――そこにいるのは、どなたですか? あぁ、来ていたんですね。エンジさん……」
「キ、キミは……!?」
追い出されたギルドに戻って来られたのも意外だったが、こんな所でこの子に再会出来るなんて思ってもみなかった。
「キ、キミは、レシスだよね? え、何でここに……」
「あぁ、やはり……エンジさんでしたね。来ると思っていました……」
勇者を探す為に別れたレシスがどうしてログナにいるのか、それを聞くよりも彼女から感じる気配がおかしいことの方が疑問だ。
彼女たちと行動を共にした連中は近くにいないようだし、ギルドには人の気配を感じることが出来ない。
ギルドどころか、街中が妙に静まり返っているのも気になる。
「何で分かったって?」
「ラフナンさんがそう言ってましたから。ここに来れば、必ず会えるって。言っていた通りでした……」
「……ところで、レシスが手にしていた光の杖は?」
「アレでしたら、ラフナンさんにお渡ししました。杖が無くても守って頂けるとおっしゃっていたので」
「そ、そんな! 何でそんなことをしたんだ! 君を守っていた光の杖を、どうしてあいつに!?」
この子は本当にレシスなのか?
それにしては感じる気配が、あまりにも邪悪すぎる。
見た目こそ控えめで彼女らしい雰囲気を感じるが、口調も態度もどこか違和感を感じる。
きちんと素顔を見つめたことは無かったとはいえ、茶色い髪と青色の瞳、そして小柄な彼女の姿とはどこかが違う。
少なくとも彼女の意思に関係なく、光の杖は他人の手に渡るのを拒んでいたはず。
「……クスッ、どうかしましたか?」
光の杖が無いなら彼女に軽めの麻痺魔法をかけて、動きを封じられる。
試してみるか。
「――! 魔法? ふん、やはり見破るか」
「魔法兵サラン……か?」
「ちっ、騙せそうで騙されないなんて、あの勇者の言った通りとはな」
やはりそうか。
顔を隠すくらいのフードをかぶっていれば、声を多少似せれば誤魔化しが出来るわけだ。
「お前、まだラフナンとつるんでいたのか? レシスを、いや、ログナの人たちに何をした!」
「あっははは! この国に追放されといて心配するなんて、とんだ腑抜け野郎だね。それとあの女なら、さっきも言った通り、ラフナンの傍にいるだろうさ。光の杖もろとも、な」
「レシスはラフナンと話をしたくて探し回っていた。その彼女を捕らえたっていうのか?」
「さぁね。多少心が弱まっていた勇者に、情けでもかけて近付いたつもりだったんだろうさ。だが、あの女の杖がラフナンを変えたのは確かだな」
もしかすれば、光の獣が討伐されたのが何らかの影響を及ぼしたのだろうか。
とにかくレシスを助けに行かないと。
「ギルドの連中もログナの人も無事なんだろうな?」
「……ラフナンとここに来た時驚いたが、街の人間の姿はほとんど見かけなかった。ラフナンにとっては都合がいい程にな! せいぜい、ラフナンと遣り合いな」
「――あ、おいっ!」
俺と戦うつもりはなかったのか、それとも騙した状態で何かするつもりだったのかは分からないが、サランはすぐに姿をくらました。
ギルドの外に出ると確かに人の気配は無く、かと言われれば襲われた形跡も無い。
ここは賢者に任せていたはずで、ザーリンがお土産の属性石を渡しに行ったはず。
「エ、エンジ……か?」
辺りを見回しながら先へ進もうとすると、どこからかアースキンの声が聞こえて来る。
「……ん? どこ?」
「こ、ここだ……裏道に来てくれ」
そう言われても声だけでは正確な場所が……あ、そうだ。こういう時に”トレース”があった。
トレース アースキンの跡を追跡 特定
見つけた先は賢者に相応しくない場所で、下水につながる裏道にその姿はあった。
下水のトンネルからどこかに通じているのか、奥の方にはログナの住人たちの姿が見える。
「……こんな臭う場所で何をしているんです?」
「そうせざるを得なかったのだ。お前の、あの妖精に言われてのことだからな」
「ザーリンですか? 彼女が何を……というか、ザーリンもいなければ他の獣たちも見えませんが?」
「あぁ……実は――」
アースキンによれば、ザーリンの予感によりあの勇者がログナに来るということで、災いが起きると言われたらしい。
にわかには信じ難く、住民を退避させるのも厳しかったらしいが、ラフナンがログナに与えた悪影響はすでに知られていたことと、賢者の言葉から伝えたことですぐに実行してくれたようだ。
俺にしつこいくらい戦いを挑んで来たラフナンだったが、ログナから無理矢理援軍を迫っていたというのは本当で、疲弊させたことによる嫌悪は相当だった。
「そ、それでは、ザーリンが指示して退避を?」
「うむ。エンジが戻れば何とかするってことを言っていたぞ! 俺もそう思っている」
植物移動でログナに戻って来られたのはいいが、リウとルールイの姿を見かけなかったのはそういうことか。
「この下水道からどこに行けるんです?」
「いや、行けないぞ。奥には貯蔵部屋があるだけだ。だが、家々に留まるより安全だ」
「魔法兵がいるからですよね?」
「あぁ、そうだ。ラフナンの指示か知らないが、家々を見回っているようだ」
「それで、レシスは?」
「……ん? あぁ、仲間だった彼女のことなら、ラフナンに捕らえられている。ラフナンは彼女に執着していてな。怯える彼女を見つけ出す為に、ギルドを占領して逆らう者を全て支配下に置いた」
「狙いはレシス……ですか?」
「そうとも見えたが、あの杖ともとれたな。奴はログナの学院にいる」
「そ、そうですか」
何かの狙いがあるのは目に見えているが、まさかログナを乗っ取るつもりがあるのか。
それとも単にレシスあるいは、光の杖を奪って俺に反撃をする?
「アースキンはこのままここに。俺が一人で行きます」
「む? ふむ……心配は無いが、侮るなよ? 強さに差があるだろうが、ログナの連中は死に物狂いで向かって来るはずだ。召喚士たちもな……」
「何とかしますよ。この国は俺の国なんですから」
レシスの意思なのか、それとも捕まってしまったのかは分からないが、助けに行って彼女を再び仲間に戻すのが俺の役目だとしたら、行くしかない。
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