第40話 書記、属性石の配布により同盟を結ばされる
落とし穴トラップにまんまと引っ掛かりかすり傷を負った俺だったが、ザーリンのおかげで回復した上、リウにも癒し効果付きの回復魔法が共有されたので、そのまま落ちた先を進んでいた。
落ちた穴からは登り坂になっていて、結局途中でルールイと合流。
「アルジさま、お怪我は?」
「うん、それならリ――」
「ふんふんふん~リウが治してあげたにぅ。コウモリに出来っこないこと~」
「そ、それくらいわたくしにだって出来ますわ! ネコごときに遅れを取るなんて……」
「そうにぁんだ? 次もリウが治すにぁ~」
「ム、ムカつくネコですわ」
俺に駆け寄り抱きしめて来る勢いだったルールイは、またもやリウと喧嘩を始めてしまった。
リウも回復とモフ癒しが出来るようになった……といっても、やはりリウには前を任せる方が安心出来そうなので、絶対防御を無くした以上は、自分で防御を作るしか無さそうだ。
そんなことを思いながら出口に向かって歩き続けていると――
「フェンダー、ここの石に触れる」
「え? またトラップに引っかかってしまうんじゃないの?」
「それはもう無い。起こそうとする災いを預かったから、もう起こらない」
ザーリンは意味不明なことを言いながら、壁や床に散らばる色とりどりの宝石を指し示した。
さっきまでの壁と違い城壁に近い造りの壁になっていて、宝石は壁中に整った状態ではめ込まれている。
よくよく見なくても、床にも宝石が点在していて拾い放題だ。
「ど、どれでもいい?」
「違う。属性に適した色を拾う。見れば分かるはず」
ザーリンはそういうけど、赤は炎で分かりやすいとして、青、緑、黒……色によって適さない魔法があるみたいだ。
そして気づけば、俺だけが夢中になって宝石を拾いまくっていた。
「赤と青と黒……こ、これで何個目?」
「それくらいでいい。あとはそれよりも威力を弱めた属性を石に込める。それならきっと平気」
「威力を? そうなると水が出て来るだけの石になるんだけど……」
「つべこべ言わない。それを作れば街に侵入しても襲われない」
「じゃ、じゃあ作るけど……」
属性石にするには、属性に当てはまる宝石に魔法を込める必要があり、赤色の宝石には水魔法は込められ無かった。
「そう、それをコピーと似たようにイメージで込める」
ガーネットにファイアストームをコピー 強さを編集 強さE 即時発動可能
「こ、これでいいのかな?」
「それはこの都市の人間用にする。威力の強いのは、あの賢者に渡す」
「え、俺のは?」
「フェンダーは属性石が必要じゃない。無意味」
「無意味って……でも持っておけば便利なんじゃないの?」
「あなたの魔法スキルは、属性石を作ったことで成長出来た。だから必要ない」
「あー」
結構スパルタだ。
ザーリンが奪った、いや預かった絶対防御の石は光属性が強力でしかも、光でありながら危険なことを起こさせる隠れ特性があると言っていた。
レシスが装備している杖は更に強力で、絶対防御で守られるのと引き換えに、敵を惹きつける厄介な石ということらしい。
つまり絶対防御を固有スキルにしていた俺は、敵としては分かりやすい的だったのだとか。
勇者はレシスにこだわっていたが、俺にもこだわっていたしそういうことだったとすれば、何となく納得出来ることだった。
「エンジさま~お外! 眩しいにぁ」
「うん? 出口かな?」
尻尾を勢いよくフリフリしながら、リウが真っ先に外の光に向かって出て行くと、負けじとルールイも翼を広げて外へ羽ばたいて行った。
外というか、街の中の気がするけど平気なんだろうか。
「ぎにぁぁぁ!?」
「な、何をされますの!?」
予想通りの声が聞こえて来た。
ザーリンは少女の姿からフェアリーの姿に戻っていて、俺の外套の中に隠れているみたいだ。
「エンジさま、助けてにぁ!!」
「アルジさま、アルジさま!」
喧嘩ばかりするけど、意外にいいコンビなのかもしれない。
「リウ、ルールイ、どうし――」
大方の予想はしていたが、二人はものの見事に取り囲まれている。
それも堅そうな防具を装備した攻城兵が、数十人はいるだろうか。
『貴様たち、ゲンマ鉱山から出て来たな? 我が国の宝石を奪いに来たか!?』
そういわれると否定出来ないし、抵抗したら駄目な気がする。
いや、待てよ。もしかしてこの為に、属性石を作った?
こうなったら適当でもいい、リウたちも知らないことを見せつけて、この都市の人たちを信じさせよう。
「いいえ、俺……私は旅の魔法士です。外から感じた可能性を信じ、ゲンマの民の力となるべく属性石を作って参りました」
『――何っ!? 属性石を? それはお前が鉱山で作ったというのか?』
「そうです。鉱山で眠る数々の宝石に手をかざし、属性石を作り出したのです」
『では証拠を見せよ。ここには我ら攻城兵と、民がいる。属性石を使って魔法を示せ!!』
やはりそう言われるか。
これがザーリンの狙いだとしたら、一体どこまで先のことが見えている妖精なのだろうか。
とにかく大量に作り過ぎた属性石を使って、賢者のように見せるしかない。
リウとルールイが兵によって動きを封じられている以上、失敗は許されない……。
そう思いながら、賢者が見せた魔法を民たちに披露することにした。
アースキンは、属性石を介して属性魔法を繰り出していたはずだし、それを真似てみるか。
確か宝石の名前と魔法名だったかな。
「では見せてごらんに入れましょう! エメラルドに封じられし碧の刃、大気を乱す風と成せ!」
これまであまり風魔法を使って来なかったので、試しのついでに分かりやすく風を起こしてみた。
攻撃性はそんなに高くしたつもりもなく、せいぜい兵士の鎧に傷をつけた程度だ。
『ほぅ……中々やるではないか。だがゲンマの兵はもちろん、民たちも賢者様の属性石作りに協力した身。少々の魔法では驚かないぞ。それともこの程度の魔法を見せる為に、侵入したのか?』
やり過ぎてはいけないと思って弱くしたのに、やはり賢者程度の魔法なら驚かないのか。
『エンジさま~思いきりやっちゃうのにぁ~!』
『アルジさま、どうぞ意のままに!』
身動きが出来ないリウとルールイにも許可を得たので、もう一度風魔法を思いきり試すことにする。
「ジェダイトに封じられし……風魔法! ウィンドストーム!!」
魔法の呪文とかは性に合わなそうなので、とにかく発動優先。
唱えた魔法も以前アースキンが見せた範囲系の真似ごとで、今回は風属性で辺り一面にいる人たちを風の力で、空に浮かせてあげた。
『ふにぁぁぁ!? う、浮いているにぁ』
『こ、これは制御が難しいですわ……』
『た、助けてくれぇぇぇ~~!!』
「「「「キャアアアアアアア」」」」
――悲鳴が多く上がってしまったので、これくらいでやめておいた。
「な、なるほどな……それがお前の実力というわけか。だが怖れを抱かせるのが目的ならば――」
「い、いや、そうじゃなくてですね……と、ところで、この辺りは居住区ですよね? 鉱山が近いと水は手に入りにくいのでは?」
「水なら城に来てもらっている。城は森に近く、自然の恵みを取り入れやすいからな。それがどうかしたのか?」
確かザーリンは手土産に配って、人の役に立つとかを言っていたはず。
フェアリーの彼女は人間が多くいる前では姿も声も隠しているし、答えも聞きようがないので、人の為に使ってもらうように見本を見せることにした。
「そ、そこのお方、この青色の属性石を樽の中に入れてみてくれませんか?」
「は、はい」
「それと、魔力はお持ちですか?」
「もちろんありますけど……」
「では魔力を少しだけ込めて、属性石を軽く握って下さい」
「は、はぁ……」
鉱山から程近い居住区は、生活に必要な水を汲むのに城まで行っている。
それならこの場で、水を手に入れてもらえば人の為になるかもしれない。
「い、入れました……えっ? み、水が溢れている!? 属性石を握って入れただけなのに……どうして」
「青色の属性石には攻撃性を持たない水魔法を封じています。それに対して軽く魔力を込めれば、相反した力の作用で、水が出て来る……いえ、その水はあなたが必要と願ったから出たのです」
難しいことはしていなく何かのきっかけを与えれば、水が出るようにしただけだったりする。
「お前、いや……エンジどの。他の属性石もそんな簡単に使えるのですか?」
「ええ、風も炎もそして、この黒色……オニキスに込められている魔法は、暗闇。寝付けない時にでもお使い頂ければよいかと」
大した魔法も込めていない即席の属性石は、あっという間に配り終えてしまった。
「も、もっと無いのですか?」
「そこの鉱山で作っただけですので、大量には出来ませんでしたね」
「……出来ればゲンマの民全てに持たせたいのだが、ううむ……」
本当に大したことはしていないのに、即席属性石は想像以上に喜ばれた。
「ではエンジどの! 我がゲンマと同盟を組み、我が都市の資源を存分に使ってもらいたいのだがどうだろうか?」
「え、同盟? でも城の許可は――」
「ここは城塞都市ではあるが、最たる王もいなければ仕切っている者などいないのだ。言うなれば、都市に住む者の総意で成り立っている。この属性石は総意で欲している。どうだろう? 応じて頂けませんか?」
ここまでは考えていなかった。
単に属性石を作って、手土産に出来ればいいくらいの軽い気持ちだったのに、同盟とか。
「(それでいい。拒む理由は無い。受けていい……)」
「(え、うん)」
姿は相変わらず見せないザーリンだったが、声だけはどこからか聞こえて来たので、その通りにすることにした。
「では、同盟を。それと私の国は賢者アースキンが住んでいます」
「何と! 賢者どのが! やはりそうでしたか。これからは鉱山も更に掘り進めますので、属性石の元である宝石をご自由にお使いください」
「わ、分かりました」
国でもない都市と、まだ国にすらなっていない山窟で同盟を結ぶことになるとは、これは思わぬ味方と資源を得られた。
途中で態度と言葉遣いが変わった兵士たちから、光属性に関わる話も聞けたので、ここで一度ログナに戻って土産を渡して、それから次の属性を得る旅に出ることにする。
「――全く、どうしてわたくしがネコを抱きかかえる羽目になるのかしらね?」
「仕方が無いことにぁ! エンジさまの風魔法は強くて、ふわふわで、リウにはどうすることも出来なかったにぅ」
「これだからネコは……全く」
「ふんふんふん~」
風魔法で浮いたリウを自然と助けていたルールイとで、何やら二人で話を始めている。
どうやら少しは仲良くなってくれたようだ。
早々にゲンマを離れ、森に向かいながらザーリンに気になることを聞いてみた。
「……光の属性石だけは、作らず渡すことが無かったのはどうして?」
「光は治癒に使うことが出来る。でもそれは、人間にとって良くないことが起きるのと同じ。属性石はあくまで、きっかけ。便利な属性石があると分かれば、狙われやすくなる」
「た、確かに……」
勇者ラフナンのこともあるし、魔法兵のこともある。
徒党を組んで属性石を奪いに来ないとも限らないし、本当に必要なものだけを与えた、それだけで良かったんだと思えた。
とにかくログナに戻って、様子を確かめに行かなければ。
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