第39話 書記、絶対防御をフェアリーに奪われ、失う

「エンジさま、エンジさま~壁一面にピカピカがくっついているにぁ」

「本当だね。でも迂闊に触っちゃ駄目だよ」

「にぁっ!?」

「――あっ……」


 よくあるトラップに引っかかってはいけなかったのに、輝く宝石に我慢出来ないリウは、壁に埋め込まれている宝石に触れてしまう。


 どういう原理かは不明だが、宝石はそのまま壁の中へと埋まり、何かが作動した音は聞こえなかった。


「これだから獣は単純すぎるんですわ! アルジさまの注意も聞かずに、すぐに行動するなど!」

「フゥーーー!! 何にも起こってないのに、偉そうに言うにぁ!」

「何ですって!? む、ムカつきますわね」


 リウとルールイは相当合わないようだ。


「二人とも大人しくして」

「……フェンダーは気にしないで進む」

「え、でも……」

「目的は石と魔法。ネコとコウモリは気にしない」

「ううーん……」


 人工ダンジョンは都市の灯りが来ていて、暗闇の中を進むわけでは無かった。


 妙に使い慣れた感じがしたものの、人がいる気配は感じられない。

 ここはもしかすると、属性石を加工する採掘場を兼ねたダンジョンになっているのか。


 リウが触れたくなる気持ちがわかるくらい、宝石が壁の至る所に埋め込まれていて、城塞都市が守ろうとしているのも分かる感じだ。


「フェンダー、ここの宝石に触れる」

「え、これ?」

「そう。光の宝石……エンジェルストーン」

「触れればいいだけ?」

「あなたの絶対防御を口ずさみながら触れる……」

「もしかして属性石を作るってことかな?」

「……」


 ザーリンの言う通り白く輝く石に向かって、イメージを飛ばしてみた。

 絶対防御をエンジェルストーンにコピー……でいいのかな。


「それでいい……それを渡す」

「あ、うん」

「フェンダーは属性石に絶対防御を移した。あなたはこれから先、絶対防御に頼ることが出来ない」

「へ? ザーリン、それってどういう――」

「あなたの魔法コピーによる成長は、絶対防御によって遅くなった。この石にコピーしたスキルは、しばらく預かる。レシス・シェラのスキルを手にしていては、あなたは成長の見込みが無くなる」


 ザーリンの言うことに疑いを持ったことは無く、導く者として信じて来た。

 それがまさかこんなことになるなんて――


「で、でも、また勇者が襲ってきたら?」

「魔法だけで守れる。守護獣を得ているし、リウがいる。あなたは魔法を使わなさすぎる……それでは強くならない」

「それはそうなんだけど、いきなりそんな……」

「あなたは贅沢な人間。既にあんな勇者ごときに怯える必要は無い強さを得ているのに、どうして本気にならないのか不思議」

「そ、そりゃあ、勇者をいなくさせるとかそれは出来るかもしれないけど、俺は懲らしめるだけで……」

「……とにかく、古代書はあなたの成長を望んでいる。シェラの力は相対しているから駄目」

「わ、分かったよ」


 だからザーリンは人の姿に戻ったのかなんて、さすがに言うことは出来なかった。

 

 何とか気を取り直して先へ進もうとした時、一瞬の気の緩みと油断が不意を突く。


『うわっっーー!?』


 何もトラップなんて無いと思っていたのは、油断だった。


 宝石の埋め込みは発動の合図だったのかと思うしかないが、進もうとした足下には何も感触が無く、俺は落とし穴に落ちていた。


 うーん……絶対防御を失くした後の落下は、さすがに痛すぎる。

 今まではそれがあったからこそ、何も気にすることなく行動出来ていたのに、今回は痛みを感じてしまった。


「うぅ……腰を打ったかな」

「エンジさま、痛いのかにぁ?」

「うん、手も擦り剥いたみたいだし、腰を……って、リウ?」

「はいにぁ」

「い、いつの間に……」

「コウモリが飛び降りるよりも早いのがリウなのにぁ! えっへん!」

「そ、そっか。ありがとう、リウ」

「ふみゅ」


 穴の大きさは人一人分くらいとはいえ、ルールイがここに降りて来るのは厳しいか。


「エンジさまは自己治癒力があるはずなのにぁ」

「そのはずなんだけど、光魔法は……」


 自分を回復する魔法は確かコピーしてあるはずなのに、その力が弱くなった気がする。

 これもザーリンに絶対防御を奪われたせいなのか。


「奪っていない。仕方のない人間」

「え、あれ? 君もいたのか」

「フェンダーの傍にいるのが役目。仕方ない、回復魔法を使うから覚えて」

「あ、そうか。フェアリーの君は使えるんだね」


 手をかざしながら、珍しくザーリンは詠唱を唱え始めた。


「……光の加護の下……その者を癒す――ルーメン・キュア」


 フェアリーの光 回復魔法A 固有魔法名なし 編集可能 成長により回復量増加


「す、すごい……痛みが無くなった! それに魔法があれ……?」

「覚えたなら自分で何とかする」

「そ、そうか。ありがとう」


 回復魔法をコピーさせてくれたのはザーリンなりのお詫びだったのか、フェアリーの姿のままで穴の上まで上がって行ってしまった。


 上にはルールイが残っているはずで、彼女と後で合流してくれるのだろう。


「にぅ? エンジさま、治ったのにぁ?」

「うん、痛みが消えたよ」

「ふんふん?」


 確かめるように、リウは俺の体に鼻を擦り付けながら甘えて来た。


「何ともないみたいにぁ」

「ありがとね、リウ」

「ふにぁ~」


 たまにはスキンシップをしないと駄目なのかもしれないということで、リウの耳をモフっとしてみた。


「にぁ~……エンジさまあったかいにぁ」

「そういえばリウは俺と唯一、共有出来るんだっけ?」

「ですにぁ! エンジさまのしもべですですにぁ」


 回復魔法 共有 ネコ族リウ 


 これでいいのかな?


「むむっ!?」

「大丈夫、リウ?」

「むふふふ……エンジさまをお助け出来るのも、リウの強さにぁりん!」


 どうやら伝わったみたいだ。

 

 絶対防御を失ったけど代わりに覚えられたし、後は属性石を作って、アースキンのお土産にでも出来ればいいのかな。


 まずはダンジョンから抜け出さないと。

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