第38話 書記、ダンジョンに入ってみる
「そうだったのにぁ~でもでも、エンジさまがご無事で何よりにぁん!」
「助けられたからこその無事だからね。今は平気なのかな?」
「リウはビリビリさえなければ、いつでもどこでもお役に立ちますにぅ!」
「うん、リウがいてくれたら嬉しいよ」
「にぁん!!」
思わぬ場所で勇者ラフナンと魔法兵サランに遭遇し、ダメージを負う危機的状況などでは無く、行動不能にされかけてしまった。
そこに救いを差し伸べて来たのが、村の子供として人間と共に過ごしていた、雷属性の守護獣であるレビンだ。
元々グロム村の山で眠る神だったらしいのが、ラフナンたちが悪さをし始めた辺りから、村に雷を落として守っていたのだとか。
「学んで得られた?」
「ザーリンの言葉はいつも意味が分からないんだけど、得ることは出来たかな」
「……全てを知らなくとも、あなたが得られればいい。今回はフェンダーだけだったからよかった」
「それって、キミやリウがいたら得られなかった?」
「守護獣はあなただけを護ると決めた」
「う、うーん」
属性の獣……つまり、結局獣を味方として得られた。
そこにもしリウがいたら、そうはならなかったかもしれないということなのか。
「にぁ?」
「いや、何でもないよ」
ネコ族は人懐っこいが、それは個人差があるしリウは俺だけに甘えているし、獣のコミュニケーションは分からないことばかりだ。
「アルジさま! 此度の役立たずぶりには、何とお詫びを申し上げれば……」
「ルールイは気にしなくていいんじゃないかな」
「で、ではっ! 役立たずは要らないと!? そうであるなら、今すぐこの翼を切り裂いて――」
「そ、そうじゃなくてね、ルールイは俺の翼として、これからも同行してくれたらありがたいなと」
「アルジさまっ……! あなたさまには、全てを捧げさせて頂きますわっ!」
「ま、まぁ、よろしく頼むね」
コウモリ族の彼女を今さら疑うことは無いが、ザーリンは賢者を除いた人間と味方とした獣を、必要以上に使うなと言っていた。
賢者については疑いようがないくらいの正直者なので割愛するとして、獣は気まぐれだから全て信じるなというのは、フェアリーである彼女自身のことを言っているのだろう。
「……そういうことだから」
「あ、うん」
それはともかくとして、属性の守護獣から得た護りの中身については、ザーリンでもハッキリ分からないものらしい。
属性獣に出会ったことで思い出したのは、賢者アースキンから聞いていた属性石のことだ。
賢者のように装飾品として装備するつもりは無いが、属性が宝石の中に眠っているというのなら、大いに興味がある。
ラフナンたちは生きていて、裁きの雷によってどこに飛ばされたのかは分からないが、しばらく会うことは無いと見ていいだろう。
そうなればとことん魔法、それも今は、属性に関することを突き詰めるべきだと思う。
「――ということなんだけど、そこに行くよ」
「エンジさまが行きたい所から行くのがいいにぁ!」
「今はその流れ」
「アルジさまの仰せの通りに」
もちろん反対などされるはずもなく、近くの国を素通りして、先に城塞都市を目指すことにする。
リウと俺のサーチでは、グロム村周辺にはいくつかの村や町が点在していて、ギルドがある大きな町があることが事前に分かっていた。
ラフナンたちは恐らく、村人が少ないグロム村に狙いを定めていたに違いない。
もっともあの二人がどこで出会い、意気投合……いや、悪しき投合とでも言えばいいのか、同じ目的で行動を共にすることになったのかは、知る由も無いことだけど。
◇◇
どこかの山林――
「……ナンさま、勇者ラフナンさま!」
「うぅぅっ……お前は……レシ――」
「……わたくしめはサランであり、何者でもありません」
「魔法兵の……そうか。いや、すまなかった。ところで、ここは?」
「外を見る限りですが、
「まさか、ログナか?」
「そこまでは分かりかねます……」
「ログナなら運がいいな。装備を整えて、ギルドで依頼して……あいつがいない山に攻め込めば――」
正しき勇者の姿はすでになく、古代書の呪いを受け復讐だけにやる気を燃やす彼の姿と、彼の傍で不敵に微笑む女の姿がそこにあった。
◇◇
「アルジさま、もうすぐですから、しっかり掴まってくださいませ」
「わ、わかった」
属性石を目指して、俺たちは城塞都市ゲンマを目指して進んだ。
しかしやはりというべきか、サーチでは場所や人、数は見えることが出来ても、高低差までは見ることが出来なかった結果のルールイ頼みである。
ザーリンは翅があるし、リウはネコ族ということで、どんなに厳しい崖であろうと登って来られるのだとか。
「こういうところは人間の弱みっていうか……」
「アルジさまは全てをお望みなのでしょうか?」
「え? どうして?」
「もしアルジさまに翼がおありですと、わたくしめがお傍にいられなくなります……」
「あー……そ、そういうんじゃなくてね。そういうところは上手く出来ているな……と」
「獣でも、わたくしでも使えないことはありますわ。きっと全てを求めることは、出来ないものなのだと思うしかありません」
魔法を極めたいあまり、ついつい空を飛ぶことが出来ないことを愚痴ってしまいがちだ。
そのことで翼があるルールイを悲しませることになるなんて、それはあってはならないことじゃないのか。
「フェンダーは深く考えない」
「ご、ごめん」
「あなたはまだアプレンティスなのに、おかしい」
「は、はい」
ザーリンの言葉通り、俺はまだ魔法を使う者としては見習いレベルのままだ。
今はとにかく属性と出会う流れのようなので、そこから魔法を得るしかない。
翼を持つルールイのおかげで、崖上にそびえ立つ城塞都市近くの森に着地出来た。
ルオが力を解放したおかげで、今では森に入るだけで”記憶”出来るようになったこともあり、行く先々で木々を見つけたら寄ることにしている。
「アルジさま、何故森に立ち寄るのです?」
「俺は空は飛べないけど、移動魔法が使えてね。だけど森移動だから、初めて来た森の空気に触れる必要があるんだ」
「そのような魔法が使えるとは、さすがアルジさま! 翼がある身としては羨ましい限りですわ」
「翼がある方が俺はいいって思うけど、大変なこともあるってことかな?」
「そうですわ。空を気持ちよく飛んでいても雨に降られたら乾きにくいし、雨宿りの場所を探す手間がありますわ。それに濡れますし……翼が濡れますのよ?」
くねくねと体を捻らせながら、ルールイは翼が濡れることを猛アピールしているが、それはどういうことだろうか。
それはおいといて、空を飛んでいた時に見えた城塞都市にはどうやら先にリウが来ていたようで、リウの手招きにしたがって近づいた。
「こっちにぁ~」
「ん? あれ? 街の入り口はすぐそこだけど、行かないの?」
「エンジさま、リウは入ろうとしたのにぁ。でもでも、人間がいっぱい通せんぼ!」
「え? 気楽に入れない都市だったりするのかな」
「ピカピカが溢れてて綺麗だったにぁ~……入りたい~」
賢者から聞いた話では特に必要なことは無いってことだったけど、見た目通りに堅そうな守りということなのか。
「じゃあどこから入ればいいのかな?」
「ふにぅ……」
耳をへたらせるリウに、何て声をかければいいのか。
こういう時のザーリンは妖精の姿のまま出て来ないし、ルールイも何も言えないままだ。
少しの沈黙の後、突然耳をピンと立たせたリウが、嬉しそうに抱きつき話しかけて来た。
「むふふふ……エンジさま。リウは見つけてしまったのですにぁ!」
「うん?」
「洞窟にぁ! きっとそこから侵入出来るに決まっているのにぅ」
「ダンジョンってことかな? もし属性石をそこから掘り出しているとしたら、そこから見つけ出すのも面白いかもしれないね」
何だ、実はすでに見つけていたんじゃないか。
リウは山窟に棲みついていたし、知っていてわざと隠していたみたいだ。
「アルジさま、わたくしは反対ですわ!」
「ええ? でもコウモリ族は穴の中で生活をしていたよね」
「そういうことではありませんわ!」
「ご、ごめん」
「そうではなく、人間がそこまで頑なに守っているということは、それだけ面倒なことが多い意味と取るのが普通ですわ。地図も無しに進むのは、いくらアルジさまでも……」
暗闇移動が得意なコウモリ族でも、人間や他の敵と遭遇するのは避けたいということか。
「俺もリウもサーチに長けているから、そこは大丈夫。形状は確かに分からないけど、都市につながる洞窟だから、そこまで危険なことにならないとは思うよ」
「だから危険なのですわ! こうして外から訪れる者を拒んでいる都市が、危険を仕掛けていないなんて、そんなのはあり得ないに決まっていますわ!!」
案外心配してくれる面があるみたいだ。
俺のことを封じ込めようとしたルールイとはいえ、ダメージを与えるようなことはして来なかったし、争いごとは好きじゃないのかも。
「今回のことは俺のわがままだから、何か起ころうとするのを防ぐし、守ると約束するよ」
「そ、それならば付いて行きますわ。他に見知らぬコウモリ族がいたら、説教をして差し上げますもの」
「そうだね、それはお願いするよ」
「し、仕方のないアルジさまですのね」
リウは直感で動くタイプだけど、ルールイは慎重に動くタイプなのか。
そんなやり取りをしながらリウの案内に付いて行くと、城塞都市の裏に位置する外壁の一部に、入り口と
いくらサーチが使えても、こういった何かの紛れを見つけるのは苦手なだけに、リウがいてくれてよかったと思える。
「ここからだと思いますにぁ」
「そんな感じがするね」
「人工の洞窟にいい感じはしませんわ……」
ルールイの言う通り、確かに人が手を加えて出来た洞窟に見える。
そうだとしても、都市に入る手段はここしかなさそうなので、ここから入るしかない。
そんな心配をしかけていたら、姿を隠していたザーリンが少女の姿に戻って目の前に出て来た。
「……フェンダーはここで、沢山作る」
「何を……とか、聞かないでおくけど、どうしてその姿に?」
「作るのは属性石。人の姿になるのに理由が?」
「い、いや……」
「だからさっさと進む」
今回は素直だったので、少女姿に戻ったことにも疑問を持ってしまった。
いずれにしても、属性石を現地で作るのは間違いないみたいだ。
人工的なダンジョンといえば、今まさに機巧ドールたちによって作り直されている山窟アルクスがそれに当たるけど、もしかしてここに常駐の人間でもいるのだろうか。
「フェンダーはここでいくつかの魔法を石に――」
「石に何?」
「……魔法の覚えが遅い。遅いのは駄目」
「が、頑張るよ」
「……」
そして肝心なことは教えてくれない。
どっちにしても知らない魔法を石からコピー出来るならこんな機会は早々無いし、都市の中に入る為にも、奥深くまで進む必要がありそうだ。
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