第34話 書記、レシスに自由を与え、旅を再開する

 ログナに戻って来る前から落ち着かない様子を見せていたレシスだったが、何となく予想していた。


 彼女は色々おかしな面があるが、仲間想いの純粋な回復士だ。


「……ダメ、ですか?」

「いや……」


 戦士とハンターの名前を見ることが出来たのも、こういうことが起こるからだったと思えば納得か。


 レシスは自分に優しかった勇者が、俺や山に酷いことをしたことを信じられずにいたらしく、ずっと悩んでいた。


 その想いはログナで見た光景と、仲間たちの話を聞いて決意を固めたようだ。


「君は信じていたいんだね? ラフナンを……」

「はい、あの……勝手なことをしてごめんなさいです。でも……」

「レシスはもう俺の仲間だし、迎えに行くよ。無理はしないようにね」

「む、迎えに? そ、それって、お嫁――」

「もちろん違うけど、君がどこにいても俺は分かるから」

「あ、ありがとうございます」


 俺がログナに心残りを置いていたように、レシスも勇者に心を置いているようで、説得をしたいということだった。

 どこに飛んだかは分からないが、レシスなら多分探せるかもしれない。


「じゃあ、また」

「はい、エンジさん」


 仲間たちに付いて行きながら、レシスはログナを後にした。


「エンジ。いいのか?」

「彼女は元々、勇者についていたからね。説得出来るならしたいってことだと思う」

「ふむ……あの杖を手にしている限り、レシスには何事も起きぬだろうが、お主のことだ。二人の男たちに何かの印でもつけてあるのだろう?」

「印じゃないけど、分かるようにはなっているよ」

「ならば問題無いな。ログナのことは私が何とかしておく。エンジは戻るがよいぞ」

「後よろしく、アースキン頼むよ」


 レシスはトレースで跡を追うことも可能だし、ザーリンが何か言いそうなので、何も問題は無い。


 ログナのことはアースキンに任せ、俺だけが戻ることになった。


 ◇◇


「――というわけなんだ」

「だから言った。人間、あの女はそうなるって」

「え? ザーリンには、すでに見えていたってこと?」

「賢者はここに戻るからいい。でも、あの女は居着くことを望まない」

「冒険者だからかな? 気が済むまで探しに行ってもらおうと思っただけで、また戻って来ると思うんだけど……」

「どっちでもいい。あの光の石は、フェンダーの力と離れたがっている」


 山窟に戻ると、予想通りの反応が返って来た。

 レシスを仲間にすることに反対していたザーリンはあまり気にしていなく、むしろ俺にとってもいいことだとさえ言っている。


 レシスのことよりも、さっさと魔法を覚えて来てとまで言われたので、そうすることにする。


『エンジさまにぁぁ!! おかえりなさいませにぅ!』


 真っ先に俺を見つけ、パタパタと尻尾を振りながら耳をピンと立てたリウが、勢いよく抱きついて来た。


 モフっとした毛触りと、嬉しそうにしている耳と頭を撫でると、何とも心地のいい気分になった。


「にぁうん~にぁうん!! エンジさま~」


 ふんふんと顔を擦り付け、甘えて来るリウは、何となく体の成長を果たしているようにも見える。


「うんうん、早速だけどリウ。今からまた外に出かけるよ」

「はいにぁ! すぐに行けるのにぁ」

「ところで、リウ。もしかして大きくなった?」

「にぅ! ネコ族は成長するのにぁ! ムフフ~エンジさまにもっともっとお傍に置いてもらえるような、大人なネコになるのにぁ」


 大人なリウか。

 どんな色気を出して来るのだろう。


「……フェンダー、早く出発する!」

「はいはい! い、行くから」


 とりあえずログナは賢者に任せ、ここはルオたちに守ってもらうことにして、俺たちは移動魔法を使って、機巧都市があった所の森に飛んだ。


 もしかしたら飛んだ先に、勇者の気配を感じることがあると思っていたものの、ここでは無かったみたいだ。


「いたとしても、すでにどこかに行っている。何を気にする?」

「そ、そうだよね」

「それに絶対防御があるのに、どうして怯む必要がある」

「ついつい反射的というか、分かっていてもそうなるのは仕方ないよ」

「フェンダーは古代の力を得ているのに、変」

「ご、ごめん」


 相変わらずザーリンは厳しい。

 それに引き換え、リウは嬉しそうに甘えて来て、両極端な二人になっている。


「エンジさま、近くで何かが戦っているのにぁ! 行くです~?」

「えっ? あ――本当だ」


 リウと一緒の時、範囲サーチは彼女優先で動くことにしている。

 加えてネコ族の聴覚は鋭いことから、人間である俺よりは反応が早いので、彼女はすごく頼りになる。


 リウの言う通り森を抜けた先の林道では、複数の勢力同士が戦いを繰り広げているようだ。


 ザーリンはこういう時、姿をどこかに隠して言葉もくれないので、戦いに関しては基本的に関わりたく無いらしい。


「ううーん……俺も関わりたくは無いんだけど、それが魔法によるものなら見てみたいんだよなぁ」

「行くのにぁ?」

「近くまで行って、様子を見ようか」

「あい!」


 レシスがまた戻って来るまでに、味方は多ければ多いほどいいし、魔法の種類も増やしておこう。

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