第33話 書記、ログナを属国にする
俺をギルドから追い出したのは、勇者で間違いがない。
間違って古代書を転写したことの言い分は通らず、勇者の言っていたことが正しいと誰もが思っていたからだ。
それについては今でも譲らないらしく、話を聞く中で俺への謝罪を得られることは無かった。
それはともかくとして、勇者の態度や行動に異変を感じ始めたのは、とあるダンジョンで魔物に守られていた古代書を持ち帰った時から始まっていたらしい。
「な、何と……! では、エンジが……というよりも、全てはそこからの話では無いか!」
レシスが持つ光の杖の石は、落ちていただけで奪ったわけではないことから、彼女自身は影響を受けていないことも判明。
執拗に奪おうとする、返して貰おうとする勇者の態度は、見えない存在からの罪業によるものなのだとか。
正しいと思って行動して来た勇者が、良心の呵責に
「以前はあんな勇者では無かった……そういうことですか?」
「――性格は以前からあんな感じだが、あそこまででは無かったと言っておく。書記を追放したことは、今でも正しいと俺らは思っている」
「そんなのっておかしいですっ!! どうしてそんなこと!」
「いや、いいんだ。レシスはその場にいなかったし、間違いとはいえ転写したのは事実だからね」
「でも……追いやるなんて、そんなの」
「まぁ、そのおかげでって言ったらおかしいけど、今があるから。俺はギルドに戻るつもりも無いし、仕方無いよ」
「……エンジさん」
今さら謝られたところでという話だし、今では自分の領地と仲間が増えつつあるし、それはいい。
問題はラフナンが、ログナにもたらした災いだ。
他国が侵略したわけでもないのに、勇者の連続した不可解な行動は、国力を落とすに至った。
王も国を追われたことで、平和だったログナの生活に陰りが見えたのが、今の現状を現わしているということらしい。
「そ、それでは、この国は今や主無き地と同義では無いか!」
「仕方が無いことだ。ギルドだけでどうにか出来るものでもない」
ギルドが勇者に依頼しなければ、荒れることも無かったログナ。
それもあり、今は閉鎖をして外に出ないようにしているのだとか。
原因を作った勇者はどこかに飛ばしたからそれはいいとして、いずれこの国に戻って来る可能性は否めない。
俺もログナに戻るつもりは無い……とはいえ、故郷であることに変わりはない。
そうなると思いつくのは――
「エンジよ。国を守り、救って認められるのもいいのではないのか?」
「うん、そう思っていたところ」
「え? ええ? ど、どういうことですか?」
「我が国には愛しき獣がいる。しかしそれだけでは、領地を拡げられるものではない。本来ならば、人を多く集めねばならぬのだが……」
「つまりアルクスを国として認められ、大きくする為には、他国を属国にするしかないってことなんだ」
「ええええ!? ロ、ログナを吸収するんですか?」
「ふ、そういうことになるだろうな」
愛しき獣の国と言い切られても困るけど、フェアリーであるザーリンは人間の味方は必要無いと言っていた。
ルオやドールが守っている以上は、そうしていくのが正しいのかもしれない。
「ギルドマスター、そして勇者の仲間のあなたたちには酷かもですが、俺がこの国を守りますよ」
『書記のお前がか!? バカな、いくら賢者を味方にしているといっても、言い過ぎだ!』
誰もが信じられないといった顔を見せている。
信じてもらうよりも見せるしかないけど、とりあえずコピーオークでも数体置いておくとしよう。
通りの荒れた道や、崩れた外壁は後で何とかしてもらうとして、機巧ドールをログナに連れて来るのも手か。
「――というわけで、よろしく頼むよ」
「ヒト遣いがオカシイ! フェンダーはワタシたちをこき使うナ!!」
「え? と、とにかく、君なら数日で修復出来るよね? 頼むよ、ピエサ」
「し、仕方ナイ。フェンダーの為じゃないんだからネ? 勘違いシナイデよネ!」
「あ、うん……」
俺の意思伝達によって、いくつかのドールたちがログナに到着。
名を付けたピエサはより人間に近くなっていて、顔を赤らめるといったことまで出来るようになっていて驚いた。
「――あんな機械人形まで……お前、書記じゃないのか?」
「書記ですよ。そしてあなたもギルドマスターです。これからギルドをもっと盛り上げてくれないと、国は強くなれないので、人を集めてください」
「……そうさせてもらう」
和解するつもりもなければ、謝ってもらうつもりもない。
その代わり国の為に動いてもらうしか、ギルドの存在意義は残されていない。
「エンジ。学院に残っていた者たちはどうする?」
「もちろん、そのまま残ってもらうよ。特に召喚士たちのオリジナルには興味があるから」
「オリジナル……? よく分からぬが、まぁいい。では書類上の王は、エンジで確立しておくぞ」
「よろしく頼むね」
「うむ」
勇者によってすでにログナの王はいなく、国まとめの人間を立てる者もいなかったことで、俺がとりあえずの王となった。
もちろんログナに住むわけじゃないので、属国の王として名を置くだけだ。
アースキンにほとんどを任せていた頃、レシスはかつての仲間たちと深く話をしていた。
俺のことを彼らに信じてもらう為らしい。
嫌々ながらも、俺に麻痺をさせられた戦士とハンターとで、握手を交わすことになってしまう。
「くそ、何でこんなこと……」「全くだぜ」などと、ぶつくさ言っていた二人と握手をした。
ロデット・デッド 戦士 クラスE 物理攻撃C 魔法耐性F あらゆる武器を扱える
レヴィンソン・コイル ハンター 主にネコ族を捕まえる ダンジョンサーチA
そんな感じで、同時に二人分のステータスが浮かんで来た。
今さらながら名前を覚えることになるなんて、役立ちの味方となり得るということだろうか。
戦士のロデットは、ヒゲを長く生やし風貌だけ見れば凄腕に見える。
しかし強さはどうにも出来ないので、武器扱いスキルだけをコピーしといた。
ハンターのレヴィンソンは、リウにとって天敵のようなので一緒に行動するのは避けよう。
ダンジョンサーチをコピー出来たので、後は知識だけを何とか聞き出せればいいか。
「エンジさん、お話があるんですけど……いいですか?」
「うん? 何かな?」
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