壱頁:コピーアプレンティス
第26話 書記、スキルアップをして、上位スキルと称号を得る
「――え? あ、あなたは?」
機巧の国マシーヌに入国すると、見た目はほとんど人間にしか見えない女性が、案内をしてくれた。
しかし――
「ようこs、マシーヌへ……ようこそ、マシー……」
え、あれ? どうしたんだろうか。
「ヌシさま、ダメですよ~!
「そうなの? というか、レッテはこの国に来たことが?」
「無いでーす! この国から招待を受けないと入れないんですよ~」
「そうなんだ……」
「ふみゃう……リウは、何にも知らないにぁ」
レッテは楽しそうに周りをキョロキョロしているが、リウはずっと耳をへたらせていて、両極端な反応を見せている。
「大丈夫、俺も知らないから。リウも堂々としてていいんだよ」
「にぁう! はいなのにぁ」
リウは出会った頃から少女、レッテはリウよりも年上のような感じを受ける。
獣人には年の違いは無いかもしれないけど、二人の場合は力の差によって、見た目に表れるのかも。
「にぁ?」
「何でもないよ、うん」
ネコ耳と狼の耳、尻尾……それらを除けば、身軽そうな服を着ている二人を見つめることは無いが……賢者の性癖スキルを強制的にコピーされてしまったのか、リウとレッテの耳の周辺ばかりに目が行ってしまうのは、どうしてなのか。
――などとくだらないことを考えていたら、ショートした案内ドールに代わって、さらに人間っぽい女性が話しかけて来た。
「アナタは古代種のニンゲンで間違いナイ?」
「へ? こ、古代種?」
「コピースキルを持つ者。チガウ? チガワナイ?」
「……違わないです」
「ソレナラバ、ワタシの連続シタ跡を追い、ラボに来てクダサイ」
「れ、連続した跡?」
戸惑っている間に、ドールらしき女性は目の前から猛スピードで移動してしまう。
「は、速いにぁ~」
「ヌシさま、追いかけないとー!」
「う、うん。で、でも、すでに見えなくなっているし、どこに行けばいいのか……」
コピースキルを持っていることを知っている時点で古代の力を得ているのは、すでに知られているらしい……のはいいとして、跡を追ってラボに来いとはどういうことなのだろうか。
魔法のコピーこそ成長している感覚を受けているのに、コピースキルそのものは、そこまでじゃないということが今の時点で分かってしまった。
あの女性ドールも、知っていることを前提に話を進めていたのがすごく気になる。
「リウもレッテも、さっきの女性ドールが行った先は分からない?」
「ふみぅ……ニオイが無いにぁ」
「も、申し訳ございませんです! ヌシさま、ドールは機械仕掛け……この国の石畳に足跡すらも付きませんです」
「そ、そっか」
レッテが言うようにマシーヌの街並みと道は、全て石畳のようなモノで敷設されている。
恐らくはドールが動きやすい造りとなっているのだろうが、機械仕掛けの連中からはニオイを感じることが無く、足跡すらも確認することが出来ない。
そうなると人の気配の無いこの国で、誰かに聞くと言ったことが叶わない。
「エンジさま! さっきのおねーさんが、おかしなことを言っていた気がするにぁ」
「それって、連続した跡のこと?」
「それにぁ! それを追えば、会えると思いますにぁ」
「バカめ! ヌシさまが悩んでいるのに、迷わせてどうする! だからネコは駄目なんだー!」
「むー! 違わないにぁ!!」
「ウガー!!」
また始まった……しかし、リウは女性ドールの言ったことを記憶していたし、それしか無い気がする。
この国に招待を受けた時は、恐らく複数のドールたちがいたはずなのに、国に入った途端に姿を隠すなんて、随分と待遇が違う。
それはともかく、女性ドールがいた辺りの道を目を凝らして見てみると、やはり特に足跡のようなものは見当たらない。
連続した跡ということは、この場からすぐに移動して行った跡をたどることだと思われるが、足跡すら見えないのに、どうしろと……。
いや、何か初歩的なミスをしている気がする。
最初のコピーは全て、何かに直接触れていたはず。
だとすれば目に見えなくても、女性ドールがいた辺りをなぞれば、跡を追えることになるのか。
この場にいるのは、口喧嘩を始めているリウとレッテなので、恥ずかしさを捨てて石畳を手でなぞってみることにした。
「エンジさま、石畳を撫でているのかにぁ? それよりもリウを撫でて欲しいにぁ~」
「ヌシさま、ヌシさま! ネコよりも、レッテを撫でてくださーい!」
――と、彼女らが興奮状態で求めて来ているのに対し、俺の中でコピーの新しいイメージが伝わって来た。
コピースキルアップ 連続跡を追える【トレース】を習得 称号アプレンティス
魔法以外に対応可能 編集不可 共有不可
え、何だこれ……コピーのスキルアップ? しかも称号って、これって……。
驚きと同時に、女性ドールの足跡が視覚として見えて来ている。
こういう時にこそ、ザーリンが傍にいてくれれば何か分かりそうなのに、知識のある誰かがいないのは、心細いと感じてしまう。
しかしスキルアップを果たしたことで、見えていなかった足跡を追って、
「リウ、レッテ。二人とも、おいで! ラボに向かうよ」
「にぁにぁ!? エンジさま、さすがにぁ~!」
「ヌシさまに付いて行くでーす! レッテが認めたヌシさまに、付いて行きます!!」
魔法コピーを極めたいあまり、これまでは基本部分を知らないまま進んで来た。
それがここに来て機巧の国で新たなスキルを得られたのは、古代書の導きなのだろうか。
とにかく、ラボに行けば何かを得られるのかもしれない……そう思いながら、彼女たちを連れて先に進んだ。
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