第25話 書記、機巧の国に招待される

「変にぁ変にぁ~~」

「リウ、サーチは出来た?」

「全然出来ないのにぁ……ふみぅぅ」


 乗り捨て馬車の様子を窺っていた俺たちに、突如として石や木片が襲って来た。


 幸いにして俺だけが体を張ってリウを守ることが出来るので、リウの盾となり、彼女には範囲サーチをしてもらっていた。


 リウのスキルである範囲サーチは、すでに俺との共有スキルとなっている。


 そんなリウよりもさらに範囲を広げてサーチ出来るわけだが、素早さで優るリウに任せていたのに、これはどういうことなのか。


「人じゃないのは確かだろうけど、こんなに正確に遠隔攻撃が出来るなんて、知性の高い獣人なのかな?」

「むむぅ……気配が無いにぁ~」


 獣人にせよ、人にせよ、敵意があれば僅かながらの気配があるはずなのに、どういうことだろう。


 しかもリウの盾となっている俺の防御に気付いたのか、矛先を変え、正確にリウに向けて攻撃が放たれている。


 そうこうしていると馬車の様子を見に行っていたレッテが、こっちへ戻って来た。


「ヌシさま、ヌシさま! 敵は獣人じゃないのです」

「じゃ、人間?」

「人間でも無いのです。気配が無く、それでいて正確無比に遠隔攻撃をして来る辺り、もしかすると……」

「レッテには、心当たりがある?」

「ヌシさまのお力は魔法がメインかと存じますが、心当たりの敵だとすれば、魔法は効かない相手かもしれません」


 レッテに言われて気づかされるが、俺の強さの大半は魔法によるものだ。


 もちろん物理的な攻撃が出来ないわけでは無い。


 しかし物理攻撃で対するとなれば、ザーリンの狙い通り、リウやレッテのような獣人が傍にいなくては、何も出来なかった可能性がある。


「――んっ? 止まった……?」

「心が相手にあるかは何とも……だけど、きっとあの国からの使いですよ~」

「ど、どこの?」

「ふにぁ……さっぱり分からないにぁ」

「ネコに分かるものか。ヌシさまに守られるだけのネコが!」

「むぅぅぅ!!」


 リウのスキルにもかからないという時点で、俺でも分からなかっただろう。


 そう思いつつ、またしてもリウとレッテの口喧嘩が始まりそうなので、俺自身もサーチをしてみた。


 馬車の馬は体温熱があり、熱感知を捉えることが出来たが、やはり遠隔攻撃をして来たらしき相手だけが見えて来ない。


 ルナリア王国からそんなに離れたわけでもない道で、足止めを喰らうなんて思ってもみなかった。


「ヌシさま! レッテは今から咆哮をあげますよー! 耳を塞いでお待ちくださーい」

「えっ?」


 ――というか、レッテはすでに素を露わにしていることに気付く。

 狼族のイメージとかけ離れたほどの気安さが、彼女にはあるようだ。


 レッテは口いっぱいに息を大きく吸い込み、ソレをするらしい。


「リウ、耳をたたんで思いきり塞いで!」

「にぅ?」


『ガァァァァァッァァァーー!!』


 レッテは狼族で間違いがない……そう認めてしまうほどの咆哮があげられた。


 周辺の虫や生物すらも息をひそめ、存在を隠すくらいの衝撃が起こり、辺りを委縮させてしまった。


「ふにぅぅぅぅぅ……な、何なのにぁ」

「……これが狼族のスキルか」


 レッテ 狼族 族長の娘 物理攻撃S 物理耐性A 知性A 魔法なし 


 固有スキル咆哮 一途な相手にとことん甘える 


 彼女に触れたわけでは無かったが、咆哮を目の当たりにしたことで、自然とコピーが出来ていた。


 族長の娘? 魔法は一切ないというのも潔い。


「ヌシさま! 敵が会いたがっていますよー! これすなわち、招待なのです」

「え、誰?」

「レッテの咆哮で遠隔攻撃をして来たモノたちは、一斉に引いたですよー」

「そうなんだ。それで、敵はどこにいるのかな?」

「ではではっ! ご一緒に参りましょー! レッツ、レッツー機巧の国へ~」


 咆哮をあげた同一の狼とは思えない程、レッテはすっかりとくだけてしまった。


 それにしても機巧の国……つまりは、機械仕掛けの存在だけで成り立つ国があるということだ。


「レッテはその国を知っていたの?」

「ルナリア王国にほど近い国は、知っているのです!」

「ありがとう、助かるよ」

「後で、後でー耳に触れてくださーい! 嬉しい、嬉しいのですよー」

「は、ははは……」


 懐いた狼は一途に甘える……か。


 しかしリウは咆哮に若干の怯えをしたらしく、両耳を手で押さえながら、俺の傍から離れようとしない。


「驚いた?」

「ふみぅ……狼は苦手にぁ。エンジさまはリウが必要無いのかにぁ?」

「そんなはずはないよ。リウと会って、今があるからね。ずっと傍にいてくれたら助かるよ」

「にぁうん!」


 張り切るレッテを先頭に、俺とリウは間近に迫って来る機械仕掛けの家々に、ひたすら驚くばかりだ。


 タルブックのような湖上国家も変わっていたが、機巧の国というのも案内が無ければ、訪れることなんて無かったに違いない。


 賢者ではなく書記の俺を招待するなんて、あの攻撃が何かの意思を伝える為だったのだろうか。


 魔法のたぐいは無さそうではあるが、応用技術をコピー出来れば、魔法に編集出来るかもしれない。


 ……そう思えば、攻撃による招待は俺にとっては、魔法の段階をまた一つ上げるチャンスに思えた。


『ヨウコソ、機巧国……マシーヌへ――」

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