第24話 書記、ケモミミに悩まされる!?

 ――おかしい。


 賢者アースキンからコピーしたのは、火の上位魔法と属性石の魔法転用だけのはず。


 それなのに、俺も獣好き……というより仕草や動きが気になって仕方が無いのは、何故だろう。


 意外といい人だった賢者との魔法戦を制し、ルナリア王国に住まう狼族を預けられた。


 山奥から領地を拡げ、国として必要になるのは強い者よりも、そこに暮らす民の多さがモノを言うだけに、味方が増えてくれるのはいいとして、何故こうなっているのか。


「何でなのにぁ~!! エンジさまにはリウがいるだけで満足しているはずなのにぁ!」

「それを決めるのはヌシさまだとは思わないのか? ネコ族は知性が無いのだな」

「フゥーーー!! リウはその辺のネコとは違-う!!」

「それならば、うちもその辺にいる狼族とは格が違う! ヌシさまには、レッテがいればいいのだ」


 案の定いや、そうなるだろうと危惧していたが、ネコのリウと狼のレッテの口喧嘩は、外に出た瞬間から始まりを見せた。


 賢者のおかげで、無事平穏な王国を後にした時のことだ。


 俺とリウが歩こうとすると、門の外で待っていたのか、狼族の彼女が俺の元へと近づいて来た。


「ヌシさまのお強さ、見事なものでありました。賢者の薦めなど関係なく、このレッテ、ヌシさまに付いて行きたいのです。どうかお連れ下さい!」

「え、キミが狼族の?」

「レッテ……そうお呼びください」


 獣人である彼女は、すでに味方となった白狼のルオとは、また違う雰囲気を感じさせた。


 律儀すぎる賢者の言葉通り、俺のことを認めてついて来るということなのだろう。


「誰にぁ?」

「ネコこそ何だ? ヌシさまのお役に立つことこそが、獣人としての誇り! ネコでは戦力にもなれぬのではないのか?」

「むむむむ……! 何なのにぁ!! リウはエンジさまと初めから一緒にいるのにぁ!」


 お互いの姿を見せた時から、彼女たちはずっと喧嘩をしている。


 狼族のレッテも、恐らく特別なスキルを持っているに違いないので、連れて行かないという選択肢は無い。


 それにしても、リウの耳もレッテの耳も臨戦態勢だからなのか、尖ったように立っていて、そこに触れてみたい衝動に駆られている。


 賢者と違って獣が好きというわけではないのにも関わらず、どうして目の前にそびえ立つ獣耳に、目も心も奪われてしまうのか。


「こ、こらこら、リウもレッテも! いい加減、言い争いはやめてくれないかな?」


「リウは正しいことを言っているだけにぁ!」

「うちも間違いなど無い!!」


 ――と、まるで聞き耳を持たない。


 無防備にも程があり、このまま進むには賊や生物の格好の的となり得るので、リウとレッテの隙を突くことにした。


『ふにぁっ!?』

『ヌ、ヌシさま……そこはお許しくだ……はふぅ』


「二人とも、言い争いでいかに隙だらけだったか、思い知った?」


 リウもレッテも甲乙つけがたいくらい、ケモミミはふんわりとそれでいて、毛触り心地が最高だった。


 耳か尻尾か、どちらにしても普段触れられることのない耳に触れたことで、二人ともすっかりと気が抜けたようだ。


「きゅ、休戦にぁ……」

「うちもそれでいい~」


 レッテに触れたものの、コピーする意識をしなかったので、彼女からイメージが浮かぶことは無かった。


 ようやく前へ進み出した俺たちは、木陰で休む馬車に遭遇する。


「に、人間なのかにぁ?」

「ネコは人間が怖いのか? ふっふん! うちは怖くも無いぞ!」

「違うにぁ! エンジさま以外の人間は、好きじゃないだけなのにぁ」


 馬車は格式が高そうな外観をしているが、乗り捨てなのか外には人の気配は無い。


 誰かが乗っているとすれば、護衛もしくは、馭者ぎょしゃが近くにいるはずなのに。


「……ヌシさま、うちが馬車の中を見て来ても?」

「あぁ、いいよ。でも気を付けてね」

「お任せ下さり、嬉しき事であります」


 レッテの人間言葉は確かではなく、聞いて覚えただけらしい。


 それも王国の外を守る騎士たちの言葉を聞き続けていたとかで、不安定な物言いになっている。


 耳と尻尾以外は、人間が与えた洋服を着ているので、パッと見では判断が付きづらいのは確かだ。


『ヌシさまー! 誰もいなーい! です』


 やはりただの乗り捨てなのか。


「エンジさまっ! 危ないにぁっ!!」

「んん?」


 レッテが見に行った馬車の距離は、数百メートルといったところですぐに戻れるわけではないのを狙っていたかのように、何者かからの奇襲を受けている。


 こちらの様子を探っていたのか、俺とリウの周辺から石つぶてや、木片が無造作に投げられている。


 基本的に魔法相手でなくても、物理的な遠隔攻撃であっても、絶対防御の前では怖さは無い。 


 しかしそれはあくまでも俺だけのスキルであって、危ないのはリウだったりする。


 自分を中心とした防御魔法でもないのが、絶対防御の欠点ともいえるだけに、結果的にリウの前面に立って守る必要があった。


「ふみゅぅ……エンジさま、ありがとにぁ」

「リウは相手をサーチしてくれるかな? 相手からの攻撃が止まない限りは、動いちゃ危ないからね」

「あい!」


 もぬけの殻の馬車を見に行ったレッテの方にも、何者かの飛び道具が降り注いでいて、彼女一人だけで防いでいるようだ。


 魔法ではなく、物理的な集中攻撃を受けるのは、久しぶりかもしれない。


 レッテの方も気になるが、今はリウの範囲サーチを頼った後で、相手の出方を気にするしか無さそうだ。

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