第23話 書記、賢者に勝負を仕掛ける 後編

 絶対防御のスキルはレシス本人オリジナルからコピーしている。


 その甲斐あってか、敵の強さに関係なく塞いでくれていることも関係がありそうだ。


「全く濡れていないというのは、どういうカラクリだ? 手加減をしたにしても、お前の身体には何らかの影響が現れるはず……」

「いやぁ、俺は書記なので水に耐性がありまして、書物が濡れるのは人一倍敏感なのでそのせいもあるんじゃないかと」

「そ、そうだろうな。そう思ってわざと水魔法にしたんだ」

「さすが賢者! お優しいですね」


 耐性なんてものはもちろん無かったが、すでにコピー済みの魔法を喰らったところで、身体には何も及ぼされないことは分かっていた。


 この手の相手には、下手したてに出る方がいいことも学んでいる。


「火の魔法でも風でも氷でも何でも使えそうですけど、得意な属性がありましたら、じゃんじゃんお願いします」

「……お前分かっているのか? これは互いの獣を賭けた戦いなのだぞ! いくら魔法がほとんど使えないからといって、受けるだけではあまりに分が悪すぎるではないか!」

「――俺はリウを渡す約束なんてしていませんよ?」

「それこそ戯れ言に過ぎない。つけあがる前に、特別に俺の力を見せてやろう!」


 単に出し渋っているのか、それとも体裁を繕っているだけなのか、言葉ばかりを並べて来るのはさすがに面倒くさい相手だ。


「アースキンさん、これをどうぞ」

「ん?」


 少しばかりじれったくなってしまったので、麻痺魔法パラリシスを軽く放ってみた。


「ぬあっ!? な、何だ……手、手が痺れているのか?」

「麻痺魔法です。書記は長い時間、同じ場所にいることが多いので麻痺魔法を使えるんですよ」

「ほ、ほう? そうなのだな」


 嘘であるともあながち言えないが、賢者というだけあって、動けなくなるほど効いているわけでもなさそうだ。


 勇者の仲間たちには結構効き目があったし、持続時間も長かったから、魔法スキルを上げないと駄目かもしれない。


「麻痺が使える書記か。それならば、俺も上位魔法を使わねばならないな」


 ようやく力を出してくれるみたいだ。


「――ガーネットに封じられし焔! ファイアーストーム!!」

「うっ?」

「書記に放つには酷だったが、書物を手にしているでも無いだろう? 高熱の暴風を受けきれるか!!」


 勿体ぶっていたのか、ようやく賢者は、火の攻撃魔法を放ってくれた。


「あ、ああぁぁ……」

「水魔法を展開して、火傷程度にまで抑えてみろ! そうでなければその身は持たないぞ!!」


 ファイアーストーム 炎属性ランクA 対象を火傷以上にする 持続時間は短い 


 これをコピーして編集……は、後にするとして、火花に上書き完了と。


「なかなかいい魔法持っているじゃないですか。少しだけ熱かったです」

「き、効いていないのか? もしやこれも耐性を……?」

「そうですね、書記にとって水も火も使われるわけにはいかなくて、耐性をかなり上げていたんですよ」

「そ、そうだったのか……く、何てこと」


 何もコピーをしていなかった以前の俺なら、恐らく賢者が放った魔法に太刀打ち出来なかったはず。


 そして確実に言えるのは、賢者はそこそこの実力があるということだ。


 一人だけでこれだけの魔力と魔法を放てるのだから、仲間を求める必要は無いのかも。


「耐性を備えていたとはな……落ちこぼれと言ってすまなかったな。エンジ、許してくれ」


 アースキンはそう言うと、握手を求めて来た。


 全然手の内を見せてくれないどころか、耐性があると知っただけで認めるとは、勇者とは違うらしい。


「いえ、こちらこそ……う?」

「ふ、はははは! 書記は人を疑うことを知らぬようだな。手を介して、毒をなすことも可能だ!」


 ジェリー・アースキン 賢者 物理攻撃B 魔法攻撃B 物理耐性C 

 魔法耐性B 賢者の法衣ランクB 

 

 属性石の力を借りて攻撃が出来る 口数が多く人を欺くことが出来ない 

 獣好き 


 賢者の方からパラメータを与えてくれるなんて、いい人だ。

 だけど賢者が何人いるのか分からないけど、そんなに強くないような。


 どちらかというと装飾品からの恩恵が強いのか。


 獣好きなのは分かったからこれはどうでもいいとして、魔法が込められた石を介するスキルだけは、何かに転用出来そうなのでコピーしておこう。


「うわはははは! どうだ、毒魔法など初めて感じ……」

「え? 今何かしているんですか?」

「バ、バカな……まさか毒も耐性を?」

「賢者も暗黒系統を使えるんですね。でも、俺に毒は通用しないです」

「くぅっ! 書記にしてやられるなんて!! な、何でここまでの差が生まれているというのか……」

「アースキンは、一度覚えた魔法を鍛えたりしないんですか?」

「何? 魔法を鍛えるだと? 魔法とはそんなに便利に出来ていないモノだ。覚えたらそれきりだが、俺は属性石を介することが出来るから、やりようによっては……」


 なるほど。魔力も魔法も石に封じておけば、攻撃に特化しない術者でも使えるのかもしれないな。


「あ、忘れてた。アースキンさん、俺からもお返ししますよ」

「……ん? んあっ!? ほ、法衣が……や、やめてくれ!! 頼む! 俺はこれだけで体裁を」

「その石はどこで手に入りますか?」

「そ、それならば、ゲンマという城塞都市を目指してみるといい。とにかく、ど、毒を止めてくれ」

「それと一つお願いが……」

「き、聞こう」


 勇者ラフナンと違い、力の差を感じたアースキンは素直に応じてくれた。


 もっと放てそうな攻撃魔法がありそうだったが、魔力量に差があったようで、毒で欺くつもりがあったらしい。


「――なるほど。では、タルブック魔法兵の誤解を解けばいいのだな?」

「お願いします」

「いいだろう。これも勝負事だ。それから、約束通りに狼族をエンジに預けることにする」

「えっ?」

「すでにネコ族と旅しているのだろうが、狼族も従順だ。特に、ここの戦いを見た狼はな」

「で、でも、そんなつもりは……」


 両脇を固めていた狼族ではなく、訓練場の戦いを見に来ていた狼族の中から、特に望みの強い狼を預けられることになってしまった。


「言葉は通じるんですよね?」

「当然だ。だが、彼女らは特定の者にしか心を開かない。エンジが預かる狼も、外に出さえすれば口を開くだろう」

「そ、そういうことなら……」


 ここでの魔法戦で見ていたのは賢者が引き連れていた狼族だけで、リウには飛び火にならないように自由時間を与えていた。


 リウは火に怯えを感じることがあっただけに、見学させるわけには行かなかった。


 期待するような魔法戦にはならなかったものの、火の上位魔法に変化出来たし、属性石のことが聞けたので良しとする。


 それにしても、ネコ族と狼族か……喧嘩しないことを祈るしか無さそうだ。

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