第20話 書記、森を得て場所を繋げる
「えええ? 主人!?」
「悪しき人間から守ってくれたご主人! この森を代表してお礼するのじゃ」
「ん? 森を代表……君はさっきの白狼だよね? 森のヌシってこと?」
「うむん! ルオはご主人に救われたのじゃ。そのお礼につながりを許すぞ!」
「うん?」
ルオと名乗った少女は、輝きのある白い毛に全身を覆われていて、ついさっきまで白狼だったことを思い出させる。
さらには、意味が分からないことを言い出す始末だ。
「ご主人の森の名は、何と言うのじゃ?」
「森? あぁ、住んでいる所は山奥の砦窟かな」
「んむんむ、ならば近くの花をルオに触れさせるのじゃ!」
「花? 何でもいいのかな……」
正体が白狼である彼女に逆らってもいい事も無さそうなので、その通りにした。
森の中心かは分からないが、俺とルオがいる辺りには色とりどりの花が咲いているので、適当に根を抜いて彼女に渡してみる。
「――……ルオが認めし主人の元へ、つなぎを請う」
よく分からないが、ルオと名乗った少女は手にした花に言霊を呟いた。
するとその花は眩い光を放ったと同時に、どこかに消えてしまったようだ。
「完璧じゃ! ご主人の棲み処とルオの森は繋がったのじゃ!! 嬉しーい!」
「んん?」
よく分からないものの、ルオは丸めていた尻尾を豪快に振り、耳は興奮そのままに姿勢よく立たせた。
「えーと、何をしたかは分からないけど、俺はエンジ。君はルオ……でいいのかな?」
「うむん! ルオなのじゃ。エンジ様の力となる為、ルオは早速つながりの元へ参るのじゃ!」
「ま、待った。つながりって、まさかこの森がつながったってこと?」
「ご主人の棲み処は、この森と相性が良かったのじゃ。無論、ルオと主人様とも……むふふ」
いわゆる移動魔法のようなものだろうか。
思わぬ所と形で拠点への移動手段が出来たはいいけど、森限定なのか、それともルオが認めた森だけなのかは今後次第か。
そう都合よく移動魔法を得られるとは思っていなかったが、厄介な人間に知られるよりはいいかもしれない。
「えーと、ルオに触れていいかな?」
「構わぬのじゃ! ご主人には尽くすと決めたのじゃから」
「えーと、み、耳に……」
「う、うむん……」
白狼 ルオ 少女 ルオの森のヌシ 強さ不明 支援タイプ
植物との意思疎通が可能 固有スキル 即時移動魔法 認めた者のみ可能
なるほど、森のヌシだったということらしい。
襲う意思は無かったのに襲われていたことで、森に何らかの惑わし魔法をかけていたのかもしれない。
とりあえず植物疎通は抜かして、移動魔法をコピー。固有魔法名は、エンラーセとする。
ついでに、俺以外にも使用可能……と。
「ご主人~……も、もういい? ルオはご主人の棲み処に行って、守ることにするのじゃ!」
「あっと、ごめん。ここから俺も帰ることが出来るのかな? それと、他の森にも行けたり?」
「ご主人はいつでも帰れるのじゃ。ご主人の望みであれば、他の森にいる時にルオを呼ぶのじゃ!」
「そ、そっか」
そうなれば、近すぎても意味の無い移動魔法ということになりそうだ。
「では、ご主人! またの~!」
「ま、また」
ルオは瞬く間に、姿を消してどこかに移動した。
にわかには信じがたいが、森同士をつなげた移動魔法を覚えたらしい。
てっきりそのまま傍につくかと思っていたのに、行動を共にするとは限らないみたいだ。
「……森のヌシとつながった?」
「わっ!? いつからそこに……」
「フェンダーが見えないだけで、フェアリーはいつでも傍にいる。それだけ」
「そ、そっか」
「そろそろあの女は、帰すべき」
「レシスのこと? まだ警戒をしているんだね」
「あの魔法兵の人間をどうにかするつもりなら、シェラを戻した方がいい」
「そ、そのうちね」
呆れた顔で、ザーリンはまたどこかに姿を消してしまった。
森全体を覆っていた霧や幻惑は、ヌシであるルオが離れたからか、徐々に薄れていっているようだ。
「あっ! エンジさま~!! 会いたかったにぁ」
「良かった、迷っていたんじゃないかと心配しましたよ~」
リウとレシスが揃って姿を見せたが、近くに魔法兵の気配は感じられない。
恐らく白狼を庇ったのを見たことで、俺との距離をさらに離した可能性がある。
それにしても湖上国家都市といい、普通では無いエリアなのが気になる所だ。
「にぅ?」
「リウはネコ族だったよね?」
「あい」
「故郷には他にも仲間がいるのかな?」
「……里はいつも変わるのにぁ。みんなどこかにいると思いますにぁ」
「移動しながら狩りをしている種族ってことなんだね」
他にもネコ族がいてもおかしくはないが、山窟に棲みついていたリウのことを思えば、深く聞いてはいけないのかもしれない。
「と、とにかく、みんな無事でよかった。先へ進もう」
「あい!」
「はい、行きましょう」
魔法兵の目的も気になるが、ひとまず限定的でも移動魔法を覚えられたし、国として必要な魔法にせよ何にせよ、オリジナルから力を得なくては。
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