第19話 書記、襲われの獣を救って懐かれる
タルブックの敵対心を減らすことに成功した俺たちは、本来の移動手段である小舟により、国から先の地へ進むことが出来た。
しかし気になるのは、何人かの魔法兵が付いて来たことである。
「不思議に思っているようだが、貴様は国を危機に導いた。上から言われ、貴様を監視対象としたまで」
「何も面白いことなんてないですよ。それに、冒険といいますか旅の途中なので、お互いに干渉はしないですが、いいんですよね?」
「必要ない。書記ごときに助けられずとも、程度の知れたモンスターはもちろん、賊や畜生に劣ることなど無い」
その割には、仲間かと錯覚してしまいそうな距離でついて来ている。
「……エンジさん、魔法兵ってどれくらい強いんでしょうね?」
「どうだろうね。少なくとも、俺を拘束した彼女の腕っぷしが強いのは、確かだと思うよ」
「他の二人はどれくらいなのか、知りたくありませんか?」
「そりゃあね」
「ふっふっふ! 私の隠れスキルでお調べしましょうか?」
「回復士のスキル以外でってこと?」
「その通りです! これのおかげで、勇者パーティから除け者にされていなかったんですよ!」
自分で言っている時点で隠れスキルじゃないが、レシスの隠れスキルもすでにコピー済みだったりする。
「しかしですね、これには相手の協力が必要なんです。これが言葉を介さない形のあるモノなら、何も問題は無いのですが~……直に触れないと駄目と言いますか……」
やはりそうだったようだ。
レシスは確かに光属性に関しては、絶対防御を含めて長けたスキルを擁していたが、隠れスキルならぬサブスキルについては、欠点を持っていた。
コピーして一度も試していなかったが、これで”イグザミン”の欠点が判明した。
それなら、これを上位魔法に編集させればいいだけ。
イグザミンを編集 サブスキルからメインとして使用
上位魔法名ハイレインに変更
直に触れなくても、視界上に映る対象のパラメータを掴めるようになった。
これで素性の知れない二人の魔法兵の強さを掴むことが出来る。
「上位魔法への編集は消耗するから気を付ける。いい?」
「え、そうなの? 魔力が減った感じはしないけど……」
「違う。フェンダーの生命力体。コピーをしまくるのは構わない。編集もいい……魔法を上げるのは限度があることを忘れない」
「そ、そういうことなら、そうするけど」
フェアリーは知恵があるとは聞いたことがあるけど、古代の力についてもどこまで知っているものなのか。
ザーリンの忠告を聞いてすぐに使うのは、さすがに気が引ける。
焦らなくてもサランを始めとして、俺への油断を脱することが無い以上、掴める時にすればいいのかも。
「にぁっ!? エンジさま、前方の森に何かいるにぁ!」
「うん?」
自由に使えるサーチスキルのおかげで、行く手に何があり、何者かがいたとしても事前に分かる。
――とはいえ、通常はリウに任せることにしていたので、声をかけられて初めて気が付いた。
「反応は強くないけど、獣の気配……か」
「どうするのかにぁ?」
「いや、森の中に人の気配も感じる。この場合、人の方が危ない目に遭っていそうだけど……」
「狩人だったら、獣を助けるのかにぁ?」
「ううーん……」
範囲サーチが出来るのは俺とリウだけなこともあり、悩む俺たちを不審に思ったのか、レシスが心配そうな表情を見せながら顔を覗かせた。
「どうかされたのですか? リウちゃんも、エンジさんも悩んでいるようですけど……もしかしなくても、あの魔法兵をどうにかしたいと思っているとか?」
「あぁ、そうじゃなくて、ここから少し歩いた先に深そうな森があって、そこから気配を感じてね」
「森ですか? こんな見晴らしのいい道の先に森があるんですね」
「ふみぅ」
言葉通りこうして行く手のことに悩んでいても、タルブック兵は一定の距離から動かず、近付いても来ない。
それならこちらも迷うことなく、森に入って行くだけだ。
「よし、行こう! リウはザーリンとレシスから離れないでくれるかな?」
「はいにぁ」
もっとも、ザーリンは知らぬ間に俺の近くにいることがあるので、特に心配する必要は無かったりする。
少ししてサーチで見えていた深そうな森に近づくと、魔法兵たちは懐に隠し持っていた短剣を手にして、俺たちが進む後からゆっくりと付いて来た。
様子を見る限りでは察知能力はあるらしいが、自分たちに危険を及ぼさない限りは、俺たちに寄って来ることはないようだ。
そうして慎重に茂みの木々を避けながら進んでいると、それまで傍にいたリウたちと、はぐれていることに気付く。
どうやらこの森の中では、共有スキルであるサーチも役に立たないらしい。
『リウー! レシス!! ザーリンーー! 近くにいないか』
一応叫んでみたものの、声をかき消し響かせない不可思議な状況に、陥ってしまっていることのようだ。
右も左も、そしてサーチの出来ない森をひたすら進んでいると、近くで何かがせめぎ合いをしている音が聞こえて来る。
短剣は剣よりも短い造りではあるが、素早い動きが出来る武器でもあるので、手数で応酬している所をみれば、この先にいるのはどう考えても魔法兵に違いない。
『……ちぃっ! これだから地上は野蛮なんだ』
見ると、サランという魔法兵だけが、図体が一般的な狼よりも一回り以上大きい白狼と応戦しているようだった。
彼女の近くには、負傷して動けない他の魔法兵が横になっていて、自然治癒か自動治癒に任せている様にも見える。
『ラウルフごとき獣が……!』
どちらかと言えば優勢なのは白狼に見えていたが、気づけばサランによる拘束魔法で、形勢が一変していた。
『獣めが! 動けぬまま絶えろ!!』
これはあまりな動きに見えた俺は、サランの拘束を解き、白狼を庇う様にして前に出てしまった。
『書記が獣を守って、どうするつもりだ? 無用な干渉をするなとほざいたのは、貴様のはずだ』
「それこそ無用だと思ったまで。何で剣を使用していたのかは聞かないけど、むやみやたら……それも、魔法による殺生は無用なはず」
「ふん……勝手に絶えろ。オレはコレらを回復する責任がある」
サランは、倒れて傷ついている二人の魔法兵を抱え、視界から姿を消した。
問題はここからで、獣の方を助けてしまったのはいいとして、果たして言葉は通じるかどうか。
……ってあれ? いない!?
『ご主人!!』
「えっ?」
声のする方を向くと、そこに立っていたのは魔法兵から守り、救ったはずの白狼ではなく獣耳を立てている女の子が、嬉しそうに笑顔を浮かべていた。
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