第18話 書記、敵対心を減らすことに成功する
「解けっ! 今すぐ、拘束魔法を解け!! そうでなければ、我が国家は貴様を許さぬぞ!」
ここまで敵対心を上げるつもりは無かったのに、レシスの杖で拘束を解いたことよりも俺が魔法返しをしたことで、相当頭に来たみたいだ。
「エンジさん、ど、どうしましょう?」
「レシス。キミは宿に戻って、ザーリンに伝えてくれないかな?」
「え、何を?」
「俺はこの人の言うことを聞いて、捕まったってね」
「え? ええええ!? だって、捕まっているのはこの人であって、エンジさんじゃ……」
「それだと、どのみち何の解決にもならないからね。とにかく宿に戻って、ザーリンの言うことに従って欲しい」
「わ、分かりました。どうか、お気をつけてくださいね」
ようやくとも言うべきか、レシスは何の気なしにお別れを意味したつもりなのか、俺の手を握って来た。
本人から接触して来た時点で、セイアッドスタッフは沈黙である。
レシス・シェラ 女 回復士/ソーディッカ ランクE 力E 耐性C
固有スキル イグザミン 触れたものの能力を垣間見ることが出来る
信じる心 絶対防御オリジナル
浮かんで来たイメージは予想通りだった。
そして共有ではなく、絶対防御オリジナルを完全にコピーすることに成功した。
しかし回復士の他にやはり何か付いていたし、この時点で俺の書記としてのスキルも、彼女に知られたことを意味する。
「コ、コピー……? え、嘘……」
「レシス、この事は他言無用だから。キミの心の内に秘めておいてくれないかな?」
「――! ひ、秘めます秘めますっ! エンジさんとの秘密を共有ですねっ!! それじゃあ、宿に戻ります。お気を付けて~」
レシスの杖の能力に関しては、俺だけがほとんどコピーしてしまっているが。
「何か小賢しいことをしていようと、貴様は許されぬ!!」
「……あなたの拘束を解きます。ですので、俺を連行してください。抵抗はもうしませんから」
「――何っ!? 人を拘束しときながら、抵抗しないなどとほざきよって!! だが、まぁいい。国に裁きをしてもらう。我が命の水を涸らしたことを後悔するがいい!」
誤解でも何でもなく、俺の仕業なのは間違いない。
サランという名の女兵士は刺々しい形のヘルムを装着していて、素顔を見せることを否定しているかのようだ。
胴装備にしても、タルブック支給によるものなのか、物々しいアーマーに身を包んでいる。
「何しに来たかは聞くまでも無いが、貴様はタルブックから出られると思うな!!」
「はい……」
このまま願わくば、国家都市の中枢に連行されないだろうか。
ログナの場合は、義務学院の時の書記認定であっさり入っていた場所だっただけに、案外素直に入れそうなイメージがある。
「貴様はこれから囚人となる。死刑も確定するだろう……拘束を解いた事に免じて聞いておく。貴様、名は?」
「書記のエンジです。あなたはサランですよね?」
「き、貴様……! 何故、オレの名を奪っている!?」
「へっ? 奪ってなんか……見張っていた時の声が聞こえて来ただけで」
「――! 許せ。そして記憶から消せ」
奪ってはいないけど、コピーさせてもらいましたとは言えない。
しばらく連行されていると、さっき閉鎖されていたギルドはすでに開放され、見慣れない冒険者が出入りを見せている。
「お、おい、アレが例の奴か?」「来て早々に国を貶めるとはな……」などと、勝手に噂が囁かれているようだ。
何も魔法をかけられないまましばらく歩き続けていると、思い通りの場所にたどり着いていた。
そしてそこには、兵士サランよりも明らかに魔力に長けていそうな兵士が両側の壁に整って並び、こちらを凝視している。
兵士たちのほとんどは、魔法を基本とした装備群に身を包んでいるような感じだ。
兵士に睨まれながら中央の円形型の台に足を進めると、そこだけ周りよりも何段かせりあがり始めた。
これはもしかして裁きの台?
そんな余裕を失わせるかのように、姿無き声が俺の所に響き渡る。
『エンジと言ったな? 貴様は何故敵対する? 湖上の都市を窮地に立たせるとは、どこの刺客か』
「俺はただの書記です。この国には初めて来て、水に遮られてしまったので仕方なく水を……」
『……仕方なく……だと? 書記ごとき落ちこぼれがどうやったかは知らぬが、我が国家を滅するつもりで来たはずなのは明白だ!! タルブックの裁きを今ここで受けよ!!』
せり上がりの台に何かしらの仕掛けがあると思いきや、四方八方の見えない空間から、魔法術を展開して来る。
まだまだどうこうされるつもりはないので、絶対防御を全身に張り巡らせつつ、向かって来る何かしらの魔法を全て受けることにした。
レーリック・エンド 無属性 対象を醜い姿に変える 咎人と認めた者限定
タルブックの敵として認められる
浮かんで来たイメージは、予想に反して優しめに思えた。
『……な、何故だ!? 何も起こっておらぬというのか? 書記……ではないのか』
絶対防御を完全にコピーしたというのも関係しているけど、書記じゃないと言われるのは納得いかない。
「誤解させてしまいましたが、俺はこの国を危機にするつもりはありません」
『では何とする?』
「敵と認められてしまいましたが、せめてここに滞在する間は俺も他の敵を作りたくはないので、救いの魔法をかけます。それをお認めになって頂けたら、俺はこの国をこれ以上どうもすることはありません!」
にわかに信じがたいことなのか、周りの兵士を含めてざわつきを抑えられないらしい。
『咎人を信ずるつもりなど無いが、猶予を与える。貴様は三日の間に、湖を再生せよ! 然れば、その罪を軽減することとする』
◇◇
「――というわけなんだ。どうすればいいと思う?」
「分かっていたこと。フェンダーは三日のうちに、湖を回復させるスキルを身につけて来る」
「ど、どこで?」
「ここ」
「そ、そうだけど……俺、あの兵士さんにずっと見張られてて、下手な動きは出来ないんだけど……」
「それなら眠らせるなりすればいいだけ」
相変わらずザーリンだけは容赦ない。
それに引き換え、ネコ耳の彼女はいつも以上に甘えて来るし、レシスはずっと慰めの言葉をかけてくれている。
「たとえエンジさまに味方がいなくても、リウはいつだって味方なのにぁ~ゴロゴロ……」
「あ、ありがとね、リウ」
「にぁうん」
スリスリとすり寄りながら甘えて来るリウは、だいぶ前に見た通り、甘えん坊さんになっていたようだ。
最近リウにあまり構っていないことも、関係しているのかもしれない。
ここでの問題が解決したら、もっとリウを甘えさせてやらないと。
「気を落とさないでくださいね! エンジさんは悪者じゃないって分かっていますから!」
「ははは……頑張るよ」
「そ、それと、エンジさんのスキルのことは内緒にしておきますねっ! 私とエンジさんだけの秘密です!!」
「あ、うん……」
そう言うと少し照れたようにして、レシスは自分のベッドに戻っていく。
リウはコピーのことは気にしていないし、ザーリンは導きのフェアリーで、誰よりも知っている。
レシスは天然で、純粋な回復士なのかもしれないな。
「――それで、サランさんだったかな。あなたは何故俺を監視する?」
「知れたこと。貴様が危険な者ということに変わりはない!」
「逆らってもいないのに?」
「オレは上からの
「次も何も……それなら、知恵をくれませんか? どうすれば湖を清浄させられるのかを」
「何? 貴様が腐食させたくせに、元に戻す
「すみません……」
タルブックの上の人間が使用した魔法は、絶対防御で一切効かなかった。
だからといって許されたわけでもなく、咎人扱いをされてしまった。
挽回の機会を与えられたまでは良かったが、回復させたとしてサランという兵士の監視は終わるのだろうか。
「我が国には豊富な植物園がある。オレが付いていれば、貴様も入園を許されるはずだ。ついて来い!」
「それは助かります! 植物からであれば、有用なモノを得られることが多いですから」
「ちっ……書記ごとき雑魚に何故……」
女性ということはコピーした時点で分かっているが、彼女は重く硬そうなアーマー装備を、外す気配を見せてはくれない。
俺の傍にいる彼女たちとは声質も、話し方もまるで違うが、兵士としての自尊心が相当高いのは感心する。
仲間にならなくても、いつか必ず興す国の為に、味方になって欲しいと思ってしまった。
サランによる監視下の中、植物園に入った俺はそれが植物であることをいいことに、コピーをしまくった。
花に触れただけでは、怪しく思われなかったのが幸いし、特殊なスキルが備わった花と出会いを果たす。
中には痛々しい刺のある植物にも触れたので、より攻撃性の高い能力を得られた。
タルブック生息花 カーティル 攻撃性S 貫通力A
刺を失わない固有再成長スキル リグロース
固有スキルをコピー、水魔法イシュケにリグロースを編集
よし、これで何とかなりそうだ。
湖上の中だけで生息しているだけあって、そこで生きている植物たちのスキルは相当なものだった。
そして三日と経たないうちに、タルブックへの罪償いとして、リグロースを使用した。
「おおぉぉ……水が戻っていく」「書記のくせに大した奴め……」などなど、書記のことをいちいち卑下するのを抜かせば、国民からの信頼を戻せたのは良かったと言える。
『ふ、ふん……当然のことをした程度で、我が国から許されたとでもいうつもりか?』
負け惜しみにしか聞こえなかったが、兵士サランは明らかに動揺を見せてくれた。
刺のある植物からコピーした固有スキルを使い、腐食で涸れた水とタルブックから伸びていた根を用いて、再成長を促すことで湖を元に戻す以上の状態にすることを可能にした。
これをもって罪は許され、湖上都市国家からの敵対心は何とか下げられた。
しかしサランからの監視が解かれることは、叶わないままだ。
「エンジさまはいつ外に出るのにぁ?」
「も、もう少しかな」
「あの兵士は~?」
「それもあともう少しの辛抱だよ、リウ」
「あい!」
そう思っていたのに、甘くは無かった。
「ど、どうされるんですか? あの兵士さんの口に手を付けたことがまずかったんじゃ……」
「ま、まさか」
「どういうこと? フェンダーから兵士を押さえつけた?」
「く、口に触れてその……」
「……監視されるつもりで触れたのなら、フェンダーが世話をする。分かったら、支度」
「ええぇ……厳しいな」
国からの敵対心は、しばらく目立つ行動を取らずに鳴りを潜めていた効果もあって、ほぼ正常に戻された。
これでようやくこの国の先に進めるはず……そう思っていたのに、彼女と数人の兵士が監視としてついて来ることになってしまうとは、思ってもみなかった。
「むむぅ……エンジさま~人間が近いにぅ……」
「ど、どうしたものなのか……」
「……ふん」
どこまでついて来るのか分からないまま、俺たちは湖上都市より先に進むことにした。
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