第13話 書記、絶対防御を手に入れる

 リウをけしかけ、レシスには杖を振るだけと言ってみたものの、そう簡単には行かない。


 特にリウは一度敵とみなした相手には、容赦のない素早さを発揮することに加え、いつから主人扱いになったのかは定かでは無いが、俺にいい所を見せようとしている。


 対するレシスは特に目立った動きを見せることなく、セイアッドスタッフを握りしめたまま、その場を動こうともしない。


「むむぅう!! お、おかしいにぁ……」

「え、えと、ごめんなさい! わたしは何も出来ないので、どうか杖に近づかないで欲しいです」


 少し離れた所で見ている俺とザーリンは、二人の……特に、リウの動きを追っていた。


「ネコは勝てない」

「何で?」

「あの女に近づくことが出来ないから……フェンダーは、そんな女を仲間にするつもり?」

「俺にはリウが見えない恐怖に近づけないようにしか見えないし、レシスは何もしないで立っているだけにしか見えないよ。レシスは何もしていないのに」

「見えない力……そう、それがあの女が手に入れた力」

「へ?」


 レシスに触れるだけでコピーが出来るはずなのに、握手をしようとした時も、偶然にもリウの割り込みですることが叶わなかった。


 思い返すと、あの勇者たちも邪魔者扱いをしていながら、レシスに手を出そうとはしていなかったけど、まさか?


 そんなことを思い巡らせていると、機会が訪れた。


 見えない力であっても、リウとレシスの距離が徐々に縮まって来たからだ。


 その途端だったが、レシスは杖に守られるようにして、何度もリウに光の魔法を向けている。


「にぁっ!? あ、危ないにぁ!」


 当たっても回復効果しかないはずなので、リウに害は無いはず。

 そう思いつつ、杖によって光は一定では無く、辺り構わずに放ち始めた。


「にぁぁぁぁ!? あぶあぶあぶ!!」


 今が好機と感じ、逃げ惑うリウの前に出て、俺は杖から放たれた光を一身に浴びることに成功した。


「エ、エンジさま!? だ、大丈夫かにぁ!?」

「あぁっ! エンジさん!?」


 セイアッドスタッフ ランク? 属性光、神聖、リジェネレーション 

 

 浮かんだコピーイメージは、やはり回復ばかり。


 しかし何故かコピー出来たのは絶対防御だけで、光の種類は今の時点で、全くコピー出来なかった。


 どうしてなのか。


 絶対防御 魔法名なし 固有スキルとしてコピー完了


「……コピー出来た?」

「それがさ、杖の能力しか出来なかったんだけど、これって?」

「だからあの女が危険だと言った。あの杖は、フェンダーが得られた古代書に反する力。光魔法ならすでにフェンダーは覚えている。杖が守る者として認められていない」

「それって、レシスのこと? 仲間にすると危険ってどういう――」

「あの女に手出ししなければ問題ない。それだけ」


 手出しって、まさか握手をするのも防御されていた?


 そんなこんなで、リウは結局レシスには手も足も出ずに、終わることとなった。


 レシスに至っては、訳も分からずに立ち尽くしていただけだ。


「し、仕方ないにぅ……エンジさまが言うなら、リウは何も言えないにぁ」

「あ、ありがとう、リウちゃん」

「む、むむむぅ」


 レシスから手を差し出す分には、杖は何もして来ないらしい。

 しかし俺に対しては、杖自体にヘイトを持たれてしまったように思えた。

 

 果たしてどこまで絶対防御なのか、それを試すことはとりあえずやめとこう。


 それに人であったり杖のような特殊な武器からのコピーに関しては、俺自身のコピースキルを上げる必要がまだまだあるみたいだ。


「フェンダーは、砦の壁を整える」

「え、でも、城壁として地面から出したし、整えるってどうやって?」

「それは城壁のある場所へ行って、コピーするしかない」

「ええっ!? そ、そんなこともする必要が?」

「ある。全て、あなたの成長次第。地面から生やしただけの壁に、何の防御力も無い」

「じゃあ、今コピー出来た絶対防御を……」

「それはあくまで防御であって、整えられるのとは別。あなたは今すぐ、城のある国に行く」


 何だかこれは、書記としてあらゆる設計図や、書式を転写していた頃を思い出す。

 つまりはそういうことらしい。


 攻撃魔法にしても、今回の防御魔法にしても相手から得られるとは限らない。


「極めたいなら、フェンダーから出向く。そうでなければ、何もならない」

「そ、そうか。それなら出発の準備を――」

「駄目」

「えー?」

「ここを人間に奪われるわけには行かない。だから、外界のオークをここに置きたい」

「また行くの? でもいつもオークを相手にするのも……」

「その力は何のため?」

「あ……そうか! じゃ、じゃあ、レシスを連れて行って来るよ! ザーリンとリウはここで待ってて」

「それでいい。オークに触れなくても、あなたにはそれが出来るはず」


 ザーリンの言葉には確かなものがいつも無いが、コピーするには直に触れなくても出来るということを、今回の光魔法で教わった気がした。


 まずはレシスと話をしながら、オークのいる所に向かうことにする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る