第12話 書記、話を聞いて仲間を得る
何かを決断したかのような重い表情を見せているのは、何故なのか。
勇者たちにあまりいい扱いをされている感じではない彼女だったが、今回のことで見切りでもつけられたのかもしれない。
「レシスさん、話って何かな?」
「はい、あのっ……わたし、エンジさんの支えとなりたいです!」
「は……い? さ、支えって、ど、どういう意味――」
「そのままですっ! 書記は不遇って分かっていたのに、ギルドどころか国も追い出されて……このままだと、エンジさんは獣に襲われて、手当ての甲斐も無く孤独のまま息絶えてしまう……」
「は、ははは……そんな大げさな」
「だからこそ、回復士のわたしが書記のエンジさんを支えてあげることこそが、きっとわたしに示された道なんだと思うんです! ですから、わたしのことは遠慮なくレシスとお呼びください」
「……じゃ、じゃあ、レシス」
「はいっ!」
いい子なのは間違いないはずなのに、どこか不安な感じがするのは気のせいだろうか。
一所懸命に尽くすタイプだけど、思い込みの激しさで勇者に苦手とされているのかもしれない。
「エンジさんの追放の原因は、ラフナンさんにあったって聞きました」
「ああ、でも古代書を勝手に書き写したのは事実だよ。追放されても仕方が無いことをしたからね」
「その古代書のことなんですけど、ラフナンさん、あの書物を燃やしてしまったんです」
「へっ?」
「盗人に……エンジさんに見られた上、書き写された時点で価値が消えたとかで、近くにいた魔法士に燃やさせてました」
古代書のことではなく、最初から気に入らないことで俺を目の敵にしているだけか。
なんて心の狭い勇者だ。
そんな奴では、いい仲間も自然と去っていきそうなものだが……
「燃やしてしまう程度の価値だったってこと?」
「そっそんなはずないですっ!! 書記を少しでもかじったわたしから見ても、あの書物はとっても凄いものだったはずです!」
古代書の中身はすでに俺の中にあるとはいえ、勇者らしからぬ動きだ。
「それなら彼は、何故俺をあそこまで追い詰める? 古代書はともかくとして、ギルドの依頼でここまでムキになるものなのかな」
「ギルドの依頼は本当なのですが、達成するまでログナ以外のギルドに行けないどころか、再び旅に行くことを禁じられたらしくて……それで躍起になっているんだと思います」
やはり単なる逆恨みで、おまけに器が小さすぎる名ばかり勇者じゃないか。
「そうだよね。そうじゃなきゃ……」
「え?」
古代書から得たコピーのことは、まだ黙っていよう。
この能力のことはザーリンが強く口止めをしているだけに、大変なことなのかもしれない。
「そ、そう言えば、レシスは俺の仲間として行動したいってことで合っているかな?」
「お、お願いします! 何でもします。何でも!! あっ、そ、そう言えば火傷していませんかっ? 書記なのにあんな無茶なことをして、駄目じゃないですかっ!!」
「ご、ごめん」
「と、とにかくわたしに手を差し出してください!」
「……こうかな?」
「そのままジッとしていてくださいね」
そう言うと、レシスは背に装備していた光り輝く
「それは?」
「し、静かにしてくださいね! 精神を落ち着かせないと、杖からの恩恵を受けられないんです!」
「は、はい」
レシスは回復士として、それなりの実力者のはずなのに、ラフナンには見る目が無かったのだろうか。
彼女の姿を改めて観察してみると、髪の色は赤みがかった明るめの茶色に対し、瞳の色は薄い青色をしていて、小柄で可愛らしい感じだ。
こうやってレシスのことを眺めているのに、彼女は回復魔法をかけることに集中しているのか、まるで気付かないでいる。
ふとザーリンの方を見ると、目を閉じながら首を何度も左右に振って、拒否反応を見せていた。
同族は味方にするべきではないとは、レシスのことだったのか。
しかし随分と魔法詠唱に、時間がかかっている気がする。
「ま、まだかな? 準備が出来るまで手を下ろしてていいよね」
「駄目ですっ!!」
回復魔法を貰うような怪我も傷もないんだけど、大人しく従うしかなさそうだ。
もしかして魔法発動に時間がかかるから、勇者は引き連れなかったのか?
そして待つこと数分……レシスは彼女自身にしか聞こえない程の小声で、魔法を唱え始めた。
彼女の声は小声であっても、よく通る声をしていて心地よく感じられる。
ようやくといった感じのままに、レシスが唱えた魔法によって俺の手を伝い、全身が光に包まれた。
「この光は?」
「はい。セイアッドスタッフに封じられている光の力によるものなんです。そのまましばらくじっとしていてくださいね」
「魔法はレシスじゃなくて、杖自体の?」
「お恥ずかしながら、わたしは回復士としての力よりも、調べたりする能力の方が高くて……」
セイアッド 光属性 回復効果 ただし使用者のスキルに依存 コピー完了
レシスを介して唱えられた回復魔法を浴びると、イメージが浮かんで来た。
光を浴びただけでコピー出来たのは成長したことだろうけど、杖本体と彼女に触れることでも、別な力を得られるということだろうか。
「ありがとう、レシス。だいぶ体が楽になったよ」
「それは良かったです! 魔法を唱えたのも久しぶり過ぎて不安でした」
そんな感じがしたのは間違いじゃなかった。
体は何ともなかったので、回復というよりコピーさせてもらったとしか言えない。
「その杖の宝石? は凄い力がありそうだね」
「そうなんですよ! ラフナンさんたちと潜ったダンジョンで、ひと際輝いていた石が落ちていたので拾って杖に付けたものです。他のみなさんは気にも留めなかったですけど、わたしは光っていたのが気になって、拾ってしまったものなんです!」
「その石も古代書があったダンジョンとか?」
「そうですそうです! 書物は燃えて無くなってしまいましたけど……この石が、エンジさんと引き合わせてくれたような気がするんです」
それはどうか分からないにしても、レシスにも特別なスキルが備わっているのだろうか。
ザーリンの表情を見ると、目を閉じたままで近付いても来ない。
「それだったら偶然とは呼べないかもしれないね。ともかく、レシスのおかげで元気が出たよ。ありがとう」
「い、いいええ! エンジさんの為ならわたし――」
この流れで握手をするのは自然だろうし、手を出してみるべきか。
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