第14話 書記、オークを作って番人にする
「そ、そんなことがあったんですか!? じゃあ燃やされた古代書の中身は、エンジさんの頭の中に?」
「頭の中っていうほどじゃないけど、転写したモノは覚えてて、それが浮かんでいる感じかな」
さすがにレシスには、コピーのことを詳しく話さないように事情を説明した。
それでも一緒に行動していれば、目に見えて気づきそうな感じではあるけど。
「わたし、確かにラフナンさんたちと一緒に行動していましたけど、そんなに悪い人では無かったんですよ。やっぱり古代書絡みでエンジさんを許せなくなったのでしょうか~?」
「それは良くは分からないけど、その杖の石と古代書は難易度が高いダンジョンで?」
「いえ、そんなこともなくて……ただ、古代書があった所は祭壇か何かの所に何げなく置いてありまして、そこに行くまでに結構なモンスターと戦ったくらいです」
「そ、そうなんだ」
モンスターが守っていた場所にあった古代書を取って来た、か。
しかしあっさり燃やすとか、名ばかり勇者なのは間違いなさそうだ。
「ってことで、到着。レシスもゆっくり休んで」
「はいっ!」
レシスを連れて花畑からオークがいる所に行き、オークの集団を見た段階で引き返して来た。
表向きは一先ずレシスに”外”を見せることであり、これもザーリンの言葉通りの行動によるものだ。
目的は番人代わりにするため、オークのオリジナルをコピーすることだった。
「オリジナルのコピーは上手く行った?」
「うん、二度も見ているからね」
「あの人間には遠目で?」
「レシスは驚いてたけど、オークの姿は確実に見ていたと思うよ」
「それなら大丈夫のはず。ネコなら、それがオリジナルかコピーかの判断がつく。分からないのはあの人間だけだから、編集してオークを置いて」
「強さはどれくらいに?」
「それは今のフェンダーのスキル次第だから、出来るところまででいい」
「分かった。そうしとくよ」
ザーリンはレシスを常に警戒していて、俺のコピースキルのことは、彼女自身が気付いた時点で話すべきと言われた。
その為か、オークのオリジナルをあえて見させとくことで、コピーかオリジナルかをしばらく隠すつもりがあるらしい。
リウは勝負に負けたことがあってか、レシスには、むやみやたらに威嚇をすることが無くなった。
それはともかく、レシスが休んでいる間に編集をしておこう。
ナーファスのオーク 強さA
物理防御B 魔法耐性B
岩窟の番人としてコピー完了
よし、これを壁の手前に配置させておけば……。
「にぁにぁにぁ!? オ、オークが突然現れたにぁ!! エ、エンジさま!!」
「リウ、落ち着いて。リウにはこのオークが、何なのか分かるはずだよ?」
「ふみゅぅ……」
リウはしばらく首を傾げ尻尾をブンブンと動かしながら考えに考えまくり、目を大きく見開いたと思ったら、納得したようにして俺に何度も頷いて見せた。
「……そういうことだから、攻撃しちゃ駄目だよ?」
「はいにぁ! 一体だけなのかにぁ?」
「うーん……複数いれば安心かもだけど、こればかりはザーリンのさじ加減かな」
「シェラは知っているにぅ?」
「奥で休んでいるからまだ気付いていないと思うけど、彼女なら”杖”が守っているし、何も言わなくても平気だと思うよ」
「あい!」
さすが野生の勘というべきか、リウの狩人スキルで敵か味方かを区別出来たようだ。
ザーリンからは特に聞いてはいないものの、国として築くにはオークだけで守らせるつもりはないらしい。
その時点で、今の所オリジナルを見られるのはオークだけであり、他の種族を知るにはさらに足を進める必要がありそうだ。
「ん~~! 疲れが取れました! エンジさん、外界の……えっ!?」
「ど、どうかした?」
「あわわわわ!? な、何でここにオークが……お、襲って来ないんですか?」
「大丈夫。敵対行動を取らない限りは、こっちに何かして来ることはあり得ないよ」
「え? 敵対? もしかしてここをオークに守らせるつもりが?」
「そうだね。ザーリンが言うには、オークには何かしらの役割を与えておけば、オークの内側にいる者には手出しをしないってことみたいだね」
「そ、そうなんですね。それじゃあ、ここにまたラフナンさんたちが来ても大丈夫そうですね」
「もちろん確実では無いから、もっと他の種族を見ておく必要があるかな」
レシスに事前に見せたオリジナルのオークたちは、集団で行動し仲間を守る習性を見ていただけに、レシスはすぐに理解してくれた。
コピーである以上俺たちに襲って来ることはあり得ないとしても、とりあえず納得してもらえたのでよしとしよう。
「フェンダー。次はタルブックに向かうから」
「タルブック?」
「人間が砦で街を作った国。そこで造られた壁をきちんと見る」
「分かった」
「他の番人候補もうろついているはずだから、遭遇するべき。その時はネコを使う。フェンダーは、まだ支援系魔法だけで何とかすればいい」
「そこまでレシスを?」
「いずれ気付くにしても、まだ早い。あなたがあの女のスキルを完全にコピーするまでは、保留」
レシスは危険じゃないとは言い切れないとはいえ、味方になってからまだ時間も経っていないので、無理も無いかもしれない。
何にしても、オリジナルをもっとコピーして、魔法ももっと成長させなければ。
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