第9話 書記、岩を砕いて穴を埋める?

 フェアリーであるザーリンによると、俺にとって初めて訪れる外世界の村を救うことこそが、始まりだということらしい。


 そんな大それた偉業を達成出来るかはさておいて、ログナから追放されて以降、勇者以外の人と初めて会話することになった。


「あ、あの~こんにちは」


「外からの人間がここを訪れるなんて、珍しいな。しかし、何しに?」


「いえ、その……村に名前はありますか? 俺は冒険初心者でして……」


 寂れた感じには見えないものの、村に入った時から感じる違和感を気にしながら、話を進めてみることにした。


「初心者? その割には、獣の耳なる者と少女をお供に連れているようだが……ここは果てのナーファス村だ」

「果ての村?」

「冒険者が来たところで何も出来ぬし、望みも無い村って意味でもある。気付いているかもしれないが、村の至る所に穴が開いているだろう?」

「はぁ、まぁ……何故こんな? いや、それよりも埋めたりしないんですか?」

「見ての通りだが、若い連中は村から離れ、ここに残るのはわしのような老人ばかり。とてもじゃないが、原因不明の陥没した穴を埋める力も気力も無い」

「何故こんなに穴が?」

「考えられるのはオークどもが近くの山に砦を築こうと、村近くにあった岩を手当たり次第に引っこ抜いたことによる陥没だが、村としては誰かが穴を塞いで、道でも整えて歩きやすくしてくれりゃあいいと思っている。今のままでは、家から出る者もいなくなるのでな」


 そんなことを言いながら、老人は近くの家に入ってしまった。


 この村に入ってからの違和感は、外を出歩く人の姿が無いことと、人工的ではない不明な穴があちこちにあることだ。


「エンジさま? 先に進まないのかにぁ?」

「そうしたい所だけど、穴だらけでしかも深い所もあるし、気を付けないと」

「リウなら簡単に避けられるにぁ」

「それはそうだろうけど、村の人が消沈しているのを見過ごして進むのは……」

「ふみゅぅ?」


 規模にして、10人くらいが暮らしている村みたいだ。


 小さな村の中がそんな大変なことになっているなんて、どういうことなのか。


「フェンダーが何とかする」

「え? 俺が?」

「そう。ここがあなたの始まりの村」


 ザーリンには確信があって、恐らく穴を埋めることが助けることになるんだろう。


 しかし覚えている魔法とスキルでは、穴を元通りに出来るようなモノは無い。


「麻痺でも無いし、眠らせるでもない。穴……土の地面を元に戻す?」

「フェンダーは、村の人間の話を聞いていなかった?」

「えーと、オークが砦を築こうとしている……だっけ?」

「岩にぁ! エンジさま、オークから岩を奪って来ればいいのにぁ!!」

「えええー!? 奪うって言われても……」


 リウの奇襲によって、ザーリンを救い出すことが出来たのは確かだ。


 しかしこっちから仕掛けるとなると、さすがに敵う相手では無い気がする。


「……ネコと共有したスキルで、岩に触れて来ればいいだけ……」

「あ! そ、そうか! それだけでいいのか!!」

「オークがいない間に行けばいい。近くにいたとしても、ネコがかく乱すればいい」

「それなら出来そうだ。やってみるよ」


 村の人が家から出て来る様子が見られない。


 それなら今のうちに、穴を埋めて元通り以上のことをしてあげれば、ひっそりとした村の様子が変わるかもしれないのではないだろうか。


 リウと共有した範囲サーチで調べてみると、確かにオークらしき存在が、どこかに向かっている動きが見えた。


 砦を築こうとしている場所は、村からほど近い。


 岩を手で運んでいるのか、個々の動きはとても鈍いようだ。


 用心に越したことは無いので、オークが砦付近に近づこうとしたら、リウに動いてもらうことにした。


 その間に俺とザーリンは、真っ先に岩山に着いていた。


「……変哲もない岩だけど、これを?」

「触れればいいから」

「そ、そうする」


 ナーファス岩 硬度S 耐性A 編集可能 


 ザーリンの言った通り、すぐにイメージが浮かんで来た。


 岩をコピーすることで、魔法にも編集出来るみたいだ。


「ナーファス岩を編集……攻撃と守り魔法、スカラーとして使用。物理耐性を付加」

「……それでいいから、村に戻って穴を埋める」

「魔法に編集したけど、これで穴埋めを?」

「今のコピーですぐに編集出来た。後は応用すればいいだけ」

「や、やってみるよ」


 岩を触れただけで、岩の特性をすぐに理解することが出来た。


 リウがオークを近づけさせなくしていたのかは分からないけど、俺たちはその足で村へと引き返した。


「にぅ?」

「えーと……スカラー!」

「ふぎぁっ!? い、岩が穴に埋まっていくにぁ!?」

「耐性を付加して、平らな道にする……と」

「そう、それで問題ない」

「道というか、岩を埋めて歩けるようにしただけなんだけど、これで良かったのかな」

「すぐに分かる」


 ぱっと見では、石畳のような地面になってしまった。


 果たして村の人たちはどう思うのだろうか。


『おぉぉぉ……!! 道! 村の中が見違えておる――!』


 話をしてくれた老人を含め、次々と家から出て姿を見せてくれたと思えば、まっ平らな岩で出来た地面を力を込めて、思い思いのまま歩いている。


 こんなにも沢山の人たちが、暮らしていたのも驚いた。


「「「あなた様のおかげで果ての村も、活気づくことでしょう」」」


 穴を埋めて行き来出来るようにしただけで、こんなにも喜んでもらえるとは思ってもみなかった。


「フェンダーの魔法で、この村はきっと良くなっていく。それだけのことをした」

「そ、そうなのかな?」

「んぎぎぎぎ……硬すぎて地面を掘れないにぁ~……」


 村の中の道を直しただけなのに、救ったことになるなんて不思議な感じがする。


 それでも今回のコピーで、初めて攻撃性の魔法を使えるようになったのは、一歩前進かもしれない。


「村に滞在はしなくていいのかな?」

「それよりも次に進む」

「そ、そっか」

「先に先に行っくにぁ~!」


 真っ先に覚えたいのは火の魔法だけど、攻撃魔法を使えるようになっただけでも良しとしよう。

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