第8話 書記、魔法付加を覚える

「眠り草、麻痺草……睡と痺。あなたが作った魔法がそれ?」

「そ、そういうことになるね」


 リウと話をした辺りから……というより、ザーリンは最初から話が出来たらしく、単にいたずら好きな性格で俺を試していたようで、今は問題なく話が出来ている。


 花畑から外へと出発する前に、フェアリーであるザーリンは、俺がコピー出来た魔法を見たいと言い出した。

 

 花畑で覚えられたのは結局2種類で、他の花からは、コピー出来るような特性が無かった。


「それを試した?」

「勇者PTに対して麻痺と眠り魔法を放ったけど……」

「付加は?」

「えっと、眠りの方は徐々に回復効果で、麻痺の方は特には」

「それで戦えないと思ったと?」

「オークに通じるかは分からなかったし、その前にキミを助けたくて」

「ネコに麻痺を放ってみて」

「リウに? そろそろ出発するつもりなんだけど……」

「付加があるか見てみたい」


 リウは岩窟内に残っている食料をかき集めていて、気合を入れながらここへ戻って来るはず。


 そんな油断をしている彼女に麻痺魔法を放つだとか、ザーリンは何を考えているのか。


『ふんふんふん~! エンジさま~~戻りましたにぁ!』


「今!」

「ほ、本当に?」

「早く!」

「じゃ、じゃあ……えっと、パラリシス!」

「それがあなたが付けた魔法の名前?」

「そ、そうなるね」


 予想通りリウは、危険察知をしないまま、俺たちの所へ近付いて来ようとしている。


「はみゃっ!? し、痺れるにぁ……そ、それに、何だか全身の毛がチクチクする……」


 時間差というほどではないにしても、放った魔法は見事にリウに当たり、効果が出始めた。


「麻痺と毒……ケモノには程度が低い。人間には効き目が高かった?」

「そう言えばそうだった気がするけど、毒? じゃあコピーした花の毒性は、相当だったってことなんだ」

「コピー出来て、魔法に編集出来るのなら、付加もイメージするべき」

「それはつまり、敵とか味方とかで使い分けを?」

「……それはあなたが考え、使いこなさないと」

「ご、ごめんなさい」


 ザーリンは見た目だけで判断すれば、人間の女の子にしか見えない。


 はねは意思で隠せるらしく、隠した状態では、俺と同じ書記でよく見る大人しそうな子に見える。


「謝るよりもコピーの習熟度を上げて」

「は、はい」

「じゃあネコを元に戻すけど、私からコピーした自然治癒をネコにも共有して」

「え? 出来るの?」

「ネコとはすでに、何かを共有しているはず」

「あ、そうか」


 共有 自然治癒 リウ 


「にゅにゅにゅ!? な、治ったにぁ?」

「ネコも学んで」

「学ぶ~? エンジさま、リウも学んだのかにぁ?」

「そ、そうだね」

「ふんふん」


 やり方は自分で何とかしてということらしく、ザーリンはあくまでも、サポート的な存在に徹するつもりがあるようだ。


 見た目は子供でも、冷静すぎる言い方を考えれば、俺やリウよりも長く生きて来たのかもしれない。


「よし、行こうか」

「はいにぁ!」


 下流から上流の街道へ出ると、そこにいたオークの集団はすでになく、落ち着いて辺りを見渡すことが出来た。


「この辺りは……と」


 リウと同じスキルがあるので周辺をサーチしてみると、小さな村が点在している。


 そこから距離を広げてみると、いくつかの村から離れた位置に、大きめの町があることが分かった。


「村に行くにぁ?」

「そうだね、そこから行ってみよう!」

「……フェンダー。人間にはあまり見せつけないように」

「は、はい」


 フェアリーだからなのか、獣よりも人間に対して相当警戒をしているみたいだ。


 俺に対してはサポートでもあり、ついて来ることを決めたおかげか、呼び方も含めて近く感じられる。


 一番近くに感じた村に繋がる街道からは、人間の賊らしき気配は無く、どちらかと言えば辺りの森や水辺から、獣の気配を多く感じられた。


 この時点で分かることは、冒険者が頻繁に通る道では無いことだった。


 少なくとも勇者PTなんかが通る道であれば、オークの集団が平気で歩いているわけがないはず。


 もっとも、ログナからまともに出たことが無い俺にとって、外の世界にはどれだけの国があって、村や町がどこまであるのかなんて想像も出来ない。


 俺が覚えてしまった古代の力の書物である古代書のことも、いずれ分かる時が来るのだろうか。

 

「エンジさま、もうすぐ人間の村ですにぁ」

「あ……本当だね。その耳と尻尾は隠せないんだよね?」

「リウはリウのままなのにぁ」


 フェアリーの翅を隠すのとはワケが違うとはいえ、その辺の村でネコ族は平気なのかな。


「みゅ?」

「いや、何でもないよ。リウが無理だと感じたら、外で待っててもいいからね」

「むふふ~ネコなら心配ないにぁ! 人間の敵はもっと強力な獣なのです!」


 リウの言葉にザーリンは無口を貫き、黙って俺の近くを歩き続けている。


 そうして外に出て、初めての村にたどり着いた俺たちだった。


「フェンダーは、ここで村人を助けること。それが始まり。そうすれば、きっと極めていける」

「助ける? どういう意味で?」

「とにかく村に行く」

「リウも俺から離れないでついて来るんだよ?」

「あい!」


 小さな村で村人を助ければ、コピースキルでも上がるのだろうか。

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