第7話 書記、フェアリーとパラメータを得る!

 ログナの岩窟拠点奥にあった、先の見えない花畑。


 ここを進めるだけ進んでいた俺とリウは、水の流れる音とともに川を見つけることが出来た。


 花畑は下流に位置するところに広がっていて、外に繋がっているようだった。


 このままリウと上流を目指そうとしていると、上流付近で数十程度の人間らしき気配を感じてしまう。


 様子を見るべきか迷ったが、ログナの外に出られる可能性を信じて、慎重に近付いて行くことにした。


 川沿いは草地が延々と続いていて、足音を気取られる心配は無いのが救いかもしれない。


「にゃう! エンジさま、誰かが怯えているにぁ」

「えっ? 怯えている?」


 リウには見えているっぽいのに、どうして俺には見えないんだろう。

 

 彼女のスキルをコピーして共有したはずの俺だったが、それでもネコ族特有のスキルは得られていない。


 潜在能力はコピーするのが難しいのか、あるいは出来るにはまだまだコピーの種類が足りないのかもしれない。


「それは人間の子?」

「むむっ? でも気配は人間のような、そうでないような……分からないにぁ~」

「と、とにかく近づける所まで近付こう」

「あい」


 歩きやすい草地のおかげもあり、スムーズに足を進めて、目的の上流付近にたどり着いた。


 おおよそ冒険者に見えない大男の集団が、川に架かっている橋の上で、言い争いをしているように見える。


「にぅ!! エンジさま、女の子が取り囲まれているにぁ!!」

「うん、俺も見えているよ。だけど思いの外、人数が多いね」

「ふみゅぅ……リウが何とかするにぁ?」

「うーん……ちょっと待ってね」

「にぅ」


 よくよく見てみると大男たちは、人間のように見えるオーク族のようだった。

 とてもじゃないが素の力では敵わないし、現状のコピー能力では太刀打ち出来そうに無い。


 ほとんどのオークの体格も大きいうえ、持っている斧らしき武器も桁違いにデカく、当たればただで済みそうに無さそうだ。


 それに果たして、人間の言葉が通じるのだろうか?


「あれはオーク族みたいなんだけど、リウは知っているかな?」

「オーク! あいつらならリウに任せるにぁん!」

「へ? 弱点でも掴んでいたりする?」

「そうじゃないにぁ。力は確かに強いです。でもでも、動きが鈍くて楽勝なのにぁ!」

「そ、それじゃあ、リウに任せていい?」

「お任せ下さいなのにぁ。その間に、エンジさまは女の子を助けて下さい~!」

「う、うん。じゃ、じゃあ、行こう!」

「あい!」


 人間には苦手意識を持っているリウだが、狩人として生きて来た彼女は、もしかしたら俺が思っている以上に強いのかも。


 特にオーク族に対しては相当な自信があるみたいなので、彼女に全てを任せ、俺はその隙に怯えの女の子を救い出すことにした。


「行くにぁ!」

「気を付けてね!」

 ――って、速い!!


 ネコ族は足が早いと聞いたことがあったけど、リウの速さは群を抜いているかも。


 幅の狭い橋の上で休んでいたらしきオークたちだったが、姿を捉えられないリウの素早さに掻き乱され、右往左往し始めている。


 さらに混乱に乗じて、オークが手にしている大斧を、次々と引っ手繰たくっているみたいだ。


 石や木の矢から守ったはずの彼女は、実はとんでもない強さなのだろうか。

 おっと、あの子を助けないと。


 リウのおかげで、女の子を取り囲んでいた守りのオークたちも離散していたので、真っ先に話しかけることが出来た。


「怖がらず、俺と来てくれないかな?」

「……」


 言葉こそ発してくれなかったものの、こくんと小さく頷いてくれた。

 その足で、街道外れの木々の陰に連れ出すことに成功した。


「えーと、何て言えばいいのかな。言葉は分かる……?」

「ザーリン……」

「それが君の名前?」

「……」


 名前はすぐに名乗ってくれたけど、警戒しているのか言葉を出してくれない。


「ザーリンは人間……じゃないよね?」

「……リー」

「え?」


 はっきりと聞こえなかったけど、彼女の背中には、傷付いたはねらしきモノが見えている。

 

「よ、妖精さん?」

「フェアリー……」

「そ、そっか。俺はえっと……」

「古代の力を使う者……」

「俺のこと?」

「……」


 こくんと頷いているみたいだ。


 古代の力というとギルドで転写してしまった古代書と、岩窟で寝惚けながら覚え書きをしていた読めない文字の記憶が思い当たるけど、それのことを言っているのだろうか。


「突然でごめん。だけど、ザーリンを助けたくて……だからえっと」

「……ん」

「き、来てくれる?」

「ん、ん」

「と、とりあえず、ネコの子がオークを混乱させているから、落ち着いてから移動しようか」

「ん」


 一歩前進なのか、ザーリンと名乗るフェアリーの子は、声を出し始めてくれたようだ。


 そんなこんなで、満足気なリウが戻って来たので、一度花畑に戻ることにした。


「ふんふんふん~ただいまにぁ~!」

「お帰り、リウ。花畑に戻って、落ち着こう」

「はいにぁ!」

「……」


 リウのおかげで怯えていた少女を救い出せて、しかもフェアリーを得ることが出来た。


 俺のコピーの力のことも知っていそうなので、思わぬ所で彼女を得られたのは、何かの運命なのか。


「……ケモノ」

「違うにぁ!! リウ!」

「……ネコ」

「ち、違わないけど、むむ……」


 素早い動きでオークの集団を掻き乱したリウは、フェアリーのザーリンに早速話しかけていた。


 ネコのリウと妖精のザーリンとでは、あまり話が合いそうにない気がする。


「あ! そ、そう言えばザーリンの怪我の具合は? 翅に傷があったはず」

「それは大変にぁ!」

「……何ともない」

「え? 俺の見間違いだった? でも、確かに傷を負っていたはず」

「エンジさま、リウが代わりに見てあげ――」

「すでに回復した。平気」


 フェアリーの能力で自然治癒でもあるのだろうか。


 そんな力が備わっているのならコピーしてみたいし、それで救えることに使える気がする。


「古代使いのエンジ。翅に触れれば出来る……」

「え、い、いいの?」

「そうすることが古代使いの役目。それをしないと、あなたは長く生きられない」

「ハッキリ言うなぁ……じゃあ、触れるよ」

「みゅ? エンジさまに触れられるのにぁ?」


 リウは色々なことに興味があるようで、俺がザーリンに触れようとしているのも、耳をピンと立てて嬉しそうにしている。


 フェアリーの部分である翅を手で触れると、すぐにイメージが浮かんで来た。


 これも俺自身の成長によるものなのか、それともザーリンがコピーすることを自ら認めているからなのかは、分からない。


 ザーリン フェアリー 自然治癒力 からかい上手 いたずら好き 


「……ってあれ? これだけ?」

「あなたが求めているモノを、備えているとは限らない」

「火とか、魔法は使わないの?」

「攻撃は獣の役目」

「そ、そうか。自然治癒を使えるというより、身に付くだけでも凄いことかな」


 考えてみれば、フェアリーが攻撃魔法を使えていたら、オークには捕まっていないよな。


 それにしてもスキルの他に見える性格みたいなものを、コピーする日が来るのだろうか。


 何にしてもザーリンのパラメータの一部をコピー出来たから、良しとしよう。


「あなたの力は不完全。大して古代の力を使えていないのに、都合よく出来ると思ってはいけない」

「た、確かにその通りなんだけど……」


 リウの潜在的な能力も見えなかったし、コピーのイメージも浮かばなかった。

 これも俺の力不足ということなのか。


「にぁ?」

「何でもないよ、リウ」


 覚えていた古代書文字の一部を羊皮紙に書き、眠ったら綺麗に消えてコピー出来るようになった。


 他のページに書かれていた文字も覚えていたら、今と違っていたのだろうか。


「関係ない」

「気になっていたけど、もしかして考えていることが分かる?」

「……それはフェアリーとしての能力。あなたには使えない」

「リウの時もそうだったけど、それって種族の固有スキルだからってことだよね?」

「学習した?」

「そ、そっか。そうだったのか」

「あなたは何故攻撃を得ようとしている?」

「それが無いと、守るだけじゃ厳しいから……かな」

「古代の力を得ただけでも、すでにことわりから外れている。何の為に欲しているのか、考えるべき」


 コピーするとリウが元から使っていたスキルよりも、数倍強化されているのを考えれば、確かに攻撃スキルや魔法を得るのは危険なんだろう。


 だけど上手く使って行けば、人を殺めずに救うことの方が、多く出来そうだ。


 俺を騙してバカにして攻撃まで仕掛けて来た勇者たちにも、上手く使えば懲らしめることが出来るだろうし、書記でも冒険に役立つことを見せつけられる。


「ザーリンはついて来てくれるんだよね?」

「コピーをさせた。古代の力をどこまで正しく使うのか、見届ける」

「そ、そっか。ありがとう」

「……仲間に加えたいなら、同種族同士は避けた方がいい」

「それって、俺と同じ人間が駄目ってこと?」

「性別が異なっても、人間は欲深い。全てを受け入れるとも限らない」

「そうなると必然的に獣ばかりになるような……」

「あなたが信じられる者を加えればいい。そして古代の力が使えることも、言うべきじゃない」


 心を読めるフェアリーだからこその警告。といったところか。


 考えてみれば、コピー出来さえすれば仲間に加える必要は無くなるわけだし、それこそ無理に人間の仲間を増やすことはしなくていいことになる。


 それでも何となく、彼女のことが気になる。


 勇者PTの一員にいながらあまりいいことを言われていなかったし、行動も別にされている感じを受けた。


 書記のことを知っていたし、ギルドから追放された時も親切にしてくれた、回復士の子。


 どこにいるのか分からないけど、会えるなら会いたい。


 そしてコピーしてもしなくても、一緒に冒険が出来れば楽しくなりそうな気がする。


 とりあえずザーリンのスキルもコピーして、パラメータとして身につけることが出来た。


 まだ触れていない花から出来るものはコピーして、冒険を開始しなければ。


『エンジさま~! もうすぐ行くです?』


『そうだね。準備出来るものは万全にして行くよ!』


『は~い!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る