第6話 書記、共有と固有スキルを手に入れる!

「……よし、これで岩窟内のほとんどはコピー出来たかな」


 火を怖がるリウが眠っている間に、どこかで火をコピーしたい所だったものの、松明たいまつでは攻撃出来る程の火力を得ることが出来なかった。


 眠ったままのリウを置いて行くのも心配ではあるし、いなくなっても悲しませてしまうだけだ。


 そういえばリウは今まで人間が襲って来たのを、どうやって察知していたのだろうか。


「ふみゅ? エンジさま?」

「あ、起こしちゃったかな」

「んんん~……そろそろ襲って来る時間なのにぁ」

「リウはどうして分かるのかな? 時計も無いし、正確な時間は分からないよね?」

「気配にぁ! リウは見習いでも、狩人が必要なものは、初めから持っているにぁ。ネコ族だけの特別な預かりものにぅ」

「狩人の固有スキルってことかな」


 勇者たちが来た時にリウの頭を撫でても、その時点では何もコピーすることが出来ず、眠らせることしか出来なかった。


 それでも勇者の変なスキルをコピーしたし、魔法も編集出来る今なら、リウの固有スキルもコピー出来るかもしれない。


 コピースキルがどこまで成長して可能性を広げられるのかは分からないけど、もう一度試すのも手か。


「リウ、もう一度頭を撫でてもいいかな?」

「エンジさまなら、いつでも大歓迎ですにぁ! 撫でられるの大好き~!」


 俺を慕うリウは、耳をへたらせてなでなでに備えている。


「ふにぁぁぁぁ……」

「な、何だか癖になりそう」


 狩人 危険察知S 索敵範囲A 甘えん坊 


 なるほど、敵がどこから来るのかサーチしているのか。それに察知スキルも高い。


 甘えん坊はコピーしなくていいとして、サーチとスキャンをコピー。


「にぁ? もういいのかにぁ?」

「うん、ありがとね」


 コピーをしたところで、共有というイメージが浮かんでいたのでその通りにすると、リウの固有スキルはそのまま俺の固有スキルにもなっていた。


 どうやらコピーすることで、元の持ち主以上のスキルアップを果たせるようだ。


「リウ、周辺に気配はあるかな?」

「むむぅ……感じられないにぁ」

「……うん、ログナから敵意を感じさせるような人間は、出て来ていないみたいだね」

「にぁにぁにぁ!? エンジさま、リウより凄い!!」

「リウのスキルを一部だけ借りたんだよ。さすが狩人だね」

「そ、それほどでもないにぁ……えへへ」


 自分でも驚いているくらい、スキルが上がっている。


 まさかサーチ範囲がログナの町入り口にまで広がりを見せるなんて、これもコピースキルの覚醒によるものなのだろうか。


 サーチスキルを覚えたことで、岩窟を離れても問題が無くなった。


 このままログナにこっそり戻るのも可能ではあるけど、勇者が留まっているし、花畑の奥まで進んでみるのもいいかもしれない。


「リウ、おいで。花畑の先に何があるのか調べに行くよ」

「襲って来ないかにぁ?」

「それなら大丈夫だよ。昨日、勇者を追い返したからね」

「ふんふん」

「目立つ人間だから、また来たらすぐに分かるはずだよ」

「なるほどにぁ!」

「あぁ、そうだ。リウは食料とかを出来るだけ多く手にしてくれるかい?」

「あい!」


 実際の所、取られて困るものは寝場所だけと言っていい。

 それに勇者だっていつまでもここにこだわる必要は無いだろう。


 リウからコピーしたサーチでは、花畑の奥を見ることが出来なかった。


 足を踏み入れたことが無い所はサーチ出来ず、ぼんやりとしか見られなかったので、可能性を信じるなら、国外に繋がっているのではと期待していいかもしれない。


 全身に松明の明かりを灯しながら進み、真っ青な空が見える花畑に着くと、岩窟からではなく、延々と続く花畑の奥から、風が吹き込んでいることが分かる。


「エンジさま、お先に行くにぁ」

「気を付けてね」

「あい」


 ネコ族であり狩人のリウの方が、俺よりも危険を察知することに長けているし、自然の中を進むのは苦労しないはず。


 実の所、色々コピーをしても、身体的に強くなるところには至っていない。 

 

 手始めに火を使いたい所ではあるけど、近場に魔法士がいるわけでもなく、敵意をむき出しにしている獣も感じることが出来ないでいる。


 焚き火を起こして、火に触れれば編集が可能になるかもしれないとはいえ、案外難しいのが現実だ。


 しばらくマイペースで進んでいると、水の流れる音が聞こえて来た。


 ログナの拠点岩窟の奥に何があるのかなんて、誰も調べようとしなかったのか分からない。


 それでも山間やまあいの国では見ることの無かった、川が見えている。


「にぁにぁん! お水、お水にぁ!!」

「うん。水が流れているね。ここは下流なのかな?」

「上に登ればどこかに行けるにぁ?」

「ここまで来たし、行ってみようか。岩窟に代わる寝床が見つかるかもしれないよ」

「エンジさまに助けられたリウは、どこにでもついて行くにぁ!」


 ログナの山奥の拠点で長く生活をしながら、自分のスキルを調べるつもりがあった。


 だけど勇者ラフナンが岩窟に来てしまった以上は、いたちごっこになりかねない。


 しかも次は間違いなく、攻撃性の高い魔法士と回復士を連れて来るはず。


 そうなると持久戦となるうえ、今の時点で攻撃力に乏しい俺では不利になるのは目に見えている。


「エンジさま、人間の気配がするにぁ!」

「ん? 本当だ……数は十数人? 上流に街道があるみたいだ。行こう、リウ!」

「あい!」


 古代書を間違いで転写して、勇者に騙されて追放された。


 転写スキルの覚醒か何かでコピーから編集が可能になり、魔法を放てるようになったとはいえ、ログナに帰れるわけじゃない。


 岩窟で出会ったリウと一緒に生き抜くためには、自分の成長が必要だ。


 まずはログナを出て、外に出ることを優先させるべきだろう。


 勇者PTの回復士の子に会えないのは残念だけど、今は冒険者として踏み出すことにしよう。

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