5-11

「くそっ……こんなことになるとは……連中、覚えておれよ……」


 機関車両に乗ったゲラルトが歯ぎしりして唸る。

 周囲には残ったハイドラ構成員がいて、列車の維持管理に全力を挙げている。


(……まぁいい。戻ればまた商売を始めればいいだけだ……レイももう体にガタが来とったし、処分の手間が省けたというもの……)


 しかしそう言い聞かせても、内心ゲラルトの怒りは収まっていなかった。


「ボス! 前方に大量の煙が!」


 故に、その報告にも苛立って答える。


「その程度で狼狽えるな馬鹿者! どうせ公安どもの悪あがきだ! 大方煙に紛れてバリケードでも作ったんだろう。速度を上げてぶち抜け!」

「は、はい!」


 そして列車は速度を上げて煙に突っ込む。

 ゲラルトの勘は冴えていた。

 だがこの時、運転手含めその場の誰も、彼のミスに気づきはしなかった。

 不安、焦り、怒り――それらの負の感情が彼らから余裕を消し飛ばし、冷静な判断力を奪っていた。それは現在アイゼンタールを本拠地とし、数年ぶりにこの路線を使ったことによる弊害かもしれない。

 そう。彼らはこの煙を抜けた先に、きつい右カーブが待っていることを全く予想できなかったのである。


「全員何かにつかまれ! 衝撃に備えろ!」


 その声の後、金属の拉げる音がしたかと思うと、車体が大きく揺れる。多少速度は落ちたが、止まってはいない。

 だがその揺れは急に左への傾きとなった。

 乗組員の悲鳴が上がり、直後、機関車両は完全に横になった。凄まじい揺れで車内は阿鼻叫喚となり、ゲラルトも思わず目を瞑り、近くの手すりに必死で捕まる。




 その後。車体の動きが止まってから、ゲラルトは一人機関車両から這い出した。見ると、広大な薬草畑に車両は横倒しになっている。

 そして周辺には青い回転灯がひしめき、車両は大勢の公安官らに取り囲まれていた。

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