5-6

「ちくしょうっ……どいつもこいつもっ……俺をなんだと思ってやがる……」


 列車の中を先頭車両に向かって歩きながら、ボードマンは吐き捨てた。座席の背もたれに手をついてふらふらと足を進める。目には酷い隈があり、顔は土色だった。


「ぐっ……うっ……」


 倒れそうになるのを何とか堪える。

 あの後、気づけば自分は一人残されていた。ゲラルトもレイもいつの間にか消えていて、外で戦闘中の奴らはこちらに気づきもしない。自陣で孤立するなど、屈辱だった。

 ここは戦闘エリアからはとりあえず遠のいており、窓から銃弾が飛び込んでくる危険はない。しかし撃たれた肩の傷は深く、ボードマンの意識はすでに朦朧としていた。都合よく救護キットなどないため、ろくな止血すらできていない。


「くそっ! 誰か! 誰か俺を助けろ! 俺はハイドラの協力者だぞ!」


 叫ぶが、そこには誰も来ない。

 ボードマンは次の車両へ向かうため、連結部へ繋がる扉に手をかける。


「こんなところで……捕まってたまるかっ……」


 おそらく先の爆発は自分たちのいた後部車両付近と、先頭の機関車両を狙ったものだ。再発車できるかはわからないが……機関車両まで行けばまだ逃げられる可能性はある。

 ボードマンは連結部への扉を開けた。冷たい外気が傷を逆なでしたが、かまわずその先の足場に踏み出す。

 しかし目の前にあったのは金属の箱のような形をした無蓋貨車だった。それは今大きく破損し一部が拉げている。どうやら最初の爆発はここを狙ったものであったらしい。上に布がかかっていたはずだが、それも千切れて吹き飛んでいる。


「ちっ……」


 ボードマンは客車の柵を乗り越え、軌道内に降りようとする。

 だが足を踏み外し、ボードマンは線路に倒れ込んだ。

 そして一度倒れてしまえば、体はろくに動かなかった。死期が近いと自分でもよくわかる。


「ちくしょうっ……俺をこんなにしやがって……ここの奴も何もかも、全員殺してやるっ……殺してやるっ……クソッ! クソォッ!」


 だがその時、ボードマンは自分の前にあるものがいくつも転がっていることに気が付いた。

 そこで隣にある無蓋貨車が何のためのものであったかも思い出す。


「ぐっ……!」


 ボードマンは最後の力を振り絞って手を伸ばした。

 もう死ぬのなら。それならばせめて連中を道連れに。

 ボードマンの手がに触れる。

 それは、自分たちがネア以外にもこの国から運び出そうとした積み荷。

 自分がこの国にいる間、一人で密かにかき集めた大量のデビルドロップ。

 そしてボードマンは、この騒ぎで散らばった大量のアンプル剤を鷲掴みにすると、それらすべてを躊躇いなく自身の腕に突き刺した。

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