五章 Inseparable dog.―刎頸の犬―

5-1

「いい加減、機嫌を直したらどうだ?」


 夜闇の中、無人の古びたプラットホームのベンチに腰かけて、かぎ鼻の老人――ゲラルトは言った。声は線路を挟んで対面にあるフェンスの上に向けられたものだった。

 そこには、四肢に何か所も包帯を巻いたレイがその瞳をぎらつかせて座っている。


「殺し足りんか」


 とゲラルト。さらに続けて、


「だがお前の復讐はあくまでついでだ。それにお前が服の切れ端なんぞ落とすから、公安が嗅ぎまわっとる。そんな状況で負け犬をまた出すわけにはいかん」


 瞬間、レイが動いた。

 フェンスから飛んで、ほとんど一挙動でゲラルトの喉元に神速の手刀を向かわせる。

 同時に、周囲に身を潜めていた数人の男たちが殺気立った。

 しかし。


「……悔しいなら悔しいと口で言え」


 喉の数ミリ手前で止められた手刀に臆することなく、ゲラルトは言い切る。するとレイは手をひっこめ、再びフェンスの上に戻った。

 殺気立った男たちも、気勢を削がれたとでもいうように鼻を鳴らす。


「……やれやれ。商談の間はおとなしくしとれよ。ハイドラの名が穢れる」


 その言葉は少年に向けてだけでなく――彼の殺気すらも読めなかった周囲の人間にも聞こえるように、紡がれた。

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