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「そんなはずはないっ!」


 署長室に届けられた一報に、ネアは思わず激昂していた。

 デスクに両手をついて立ち上がり、相手に噛みつかんばかりに吠える。


「彼らはこの数日間、公安署で寝泊まりしていたんだぞ!」

「しかしこれが彼らの宿舎から見つかったのは事実です。何者かと共謀していたのかもしれません」


 麻薬取締課の代理として伝達に来たボードマンは、表情を変えず進言する。


「それに、署に保管してある指紋情報との照合も完了しております」

「罠かもしれない! 誰かが彼らの指紋情報を盗み、転写した可能性も……!」

「可能性の話をされるのなら、彼らが今回のテロの関係者だという可能性も残っています。それにこの薬の第一遭遇者は彼らではないですか。関係なしと断定するにはそうした点でも疑惑が多いと私は考えます」

「っ……」


 思わずネアは視線を下げ、ボードマンがサンプルにと持ってきた未使用の『デビルダスト』のアンプル剤を睨む。


「ともかく緊急逮捕すべきです。強引なのは承知ですが、より確実な証拠を求めるあまり彼らに逃げられたとあっては、公安の権威失墜につながりかねません。薬物――特に特級危険薬物に対して断固とした態度を取ってきた我々が、身内に対しての自浄を躊躇ったとあっては、市民に示しがつきません」

「それは……」

「私とて彼らを疑いたくはありません。彼らの疑いを晴らすために、正当な手順を踏むことが必要だと申しているだけです。レディング署長。どうかご決断を」


 そしてしばしの沈黙の後、ネアは口を開いた。


「……私も、現場へ行かせてほしい。彼らと話がしたい」

「……わかりました」


 次いで、ネアは静かに告げた。


「麻薬取締官、セルジオ・マックフォート巡査、同じく取締官、ロイ・ブラウン巡査。薬物所持法違反、並びに国家転覆行為への加担疑いで、彼らを緊急逮捕する」

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