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それはアディクター出現の報を受け、しかし何事もなく帰還する途中だった。
通報は市民からのもので、告げられた現場は二番署のごく近くだった。ただその周辺で異常はなく、通報者名もわからなかったとのことで引き上げることになったのだ。
だがその帰り道、取締官の相棒達がある建物に向かって一斉に吠えだしたのである。
「なんだ……?」
五人の麻薬取締官と、それの護衛につく十名の一般公安官が視線を交わす。
この大所帯は未明の殺人事件を受けてのものだ。しばらくは各アディクター出現ポイント一つにつきこれだけの人間が向かうことになる。取締犬は三匹。
「この建物に何かあるのか……?」
取締犬達が反応しているのは古い薬局だった。短い吠声を一定間隔で連続させていて、ハーネスに付けられたリードも相応の力で引かれている。明らかに異常検知のサインである。
なおこの取締犬達には例の惨殺事件の犯人のものと思しき衣服の臭いは覚えさせていない。つまりこれは薬物の異常探知ということだ。
しかしここは、公安の所有する住居である。取締犬の反応は妙なものだった。
だがそこで、麻薬取締官の一人が口を開いた。
「……念のため捜査を行う。ただ、今は悠長に令状を取る暇はない。略式捜査権限を行使する」
そして彼らは、その建物の敷地に足を踏み入れた。
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