3-10

「久しぶりだな。お前と話すのは」


 どことも知れぬ薄暗い室内。暗号化された特定の電波チャンネルしか通さない、かつてのハイドラが使っていたトランシーバーを手に、かぎ鼻の老人は言った。


『まさかまだその端末を持ってたとはな。おかげで連絡がついたが』

「昔と同じものではないがね。探知されぬよういろいろ仕掛けがある」

『慎重なことだな』

「それより何の用だ」

『この騒ぎを利用して金儲けをと思ってな』

「……いつもながらいい勘だな。しかしまさか商売の分け前をくれというのではなかろうな」

『そんな無粋はしないさ。ただお前の連れに有用な情報があるんで商談だよ。どうせいるんだろう? レイは』


 とそこで、老人は彼の言うとやらの質を探るように言った。


「レイを動かすのはしばらく後だぞ」

『……なら別にその時でもいい。C‐51‐1の匿名交換所を貸し切っておく。シンプルにいこう。本人同士対面で、ブツは同時交換だ』


 その言葉に、老人は一瞬沈黙するが、


「いいだろう。いくらだ」

『千ウォルクでいい』

「安く売るじゃあないか」

『俺は昔から良心的だ』

「よく言う」


 その後やや間があって、相手が告げた。


『じゃあよろしく頼む。息災そうで何よりだ。ゲラルト』


 そしてそれを最後に、通話は切れた。

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