3-8

「よーし、こっち来い!」


 身振り手振りで派手に自身を誇示しながら、ロイが街路を駆け回る。そしてアディクター達は鈍い挙動ながらも、ロイの姿を追っていく。

 セルジオは必要以上のアディクターが彼の元に向かわないよう〈グレイ・ハウンド〉で牽制射撃を加え、狙えるものはその場で頭部を狙って処置を施す。

 そして。


「こっちはいいぞ!」


 ロイの声に振り向くと、街路の左側――ちょうど等間隔に立つ街灯の中間点で十数体ほどのアディクターが纏まっていた。

 セルジオは射撃を中断し、車の脇に用意していたロープを手に取る。両端にはまるでカラビナのように手錠が括り付けられており、セルジオは先の街灯の支柱――その微妙に細くなっている個所に片方の手錠をかけてから、反対側の手錠をロイに向かって放った。

 ロイは飛び上がってそれを受け取ると、ロープを手繰り寄せる。


「じゃ、囲い込みといくか!」


 ロープを受けとったロイは、それをピンと張りながら着地し、まとまった十数体のアディクターの周囲を疾駆し始めた。ロイはスピードと走る位置を器用に調節し、素早くアディクターにそのロープを巻きつけてゆく。

 そしてある位置で一度ロープをきつく締め直すと、セルジオが使った街灯の直線上にあるもう一つの街灯に手錠をかける。


「いっちょあがり!」


 二本の街灯の間で縛られたアディクターらは、簡易な拘束ながらもその動きを封じられた。


(……長くは持たないだろうが、これでいい)


 とりあえず応援が到着するまで、一体でも多くのアディクターの自由を奪えればいい。この場は時間稼ぎでいいのだ。

 D2アディクターはDアディクターに比べ挙動も、おそらく力さえも数段鈍い。Dの名を冠するアディクターだが、動きを止めるだけならDアディクターより容易だ。

 そして間もなく、街路のもう片方にもアディクターの集団が出来上がった。二人は先と同じ要領でアディクターらを囲い、拘束する。

 この時点で、自由なアディクターの数は半分ほどに減っていた。


(よし、あとは〈グレイ・ハウンド〉だけでもなんとか……)


 するとその時、セルジオらの背後からシルトワーゲンのサイレンが聞こえてきた。車のエンジン音も近づいてきており、街路の奥に青の回転灯がちらつく。


「お。やっと来たな」


 応援の到着を察したロイがセルジオの元まで戻ってくる。

 だがセルジオは油断なく言った。


「あれはたぶん封鎖のための一般公安官だ。取締官のほうはもう少しかかるだろう」

「わーってるよ」


 ほどなくして、数台のシルトワーゲンが視認できる距離まで近づいてきた。アディクターが複数いるので遠巻きに停車し、中からは活動制服に身を包んだ一般公安官らが姿を見せる。

 とそこで、腰のトランシーバーから声がした。


『マックフォート巡査。応援第一班のエバンズ巡査長です。応答願います』


 聞こえたのは凛とした女性の声だった。

 見ると、一台のシルトワーゲンの傍でその女性と思しき人物がトランシーバーを握っている。近距離用の緊急チャンネルで繋いできたらしい。


「マックフォート巡査です。応援、感謝します」


 すると彼女はやけに切羽詰まったようにまくしたてた。


『取締官の応援は遅れるそうです、持ちこたえられそうですか?』

「……ええ。しばらくならば」


 彼女の様子に違和感を覚えたセルジオだったが、あくまで淡々と返答する。

 だがその後、セルジオは彼女からある事実を知らされることになったのだった。

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