3-7

「先輩! なんか事件っぽいですよ!」


 記者クラブ詰め所の扉を勢いよく押し開け、マリィは叫んだ。

 詰め所内にいたのはノックス一人だけ。他紙と合同とはいえ三社ほどが数名ずつ所属しているだけなので、休憩が重なったりするとこんなものである。

 ただそのノックスも置かれた長机の間でパイプ椅子を並べ、新聞を顔に乗せて寝ていたが。

 マリィはそんな彼に駆け寄って揺さぶる。


「先輩! 事件! たぶん事件です!」

「……知ってる」


 新聞を乗せたまま、籠った声で、ノックス。


「……なんで知ってるんですか?」

「シルトワーゲンのサイレン聞こえりゃ気づくよ」


 するとノックスは新聞を押しのけて上半身を起こした。欠伸しながらがりがりと頭をかく。


「そうなんですよ! 公安官が何人かシルトワーゲンで出ていきました! 私たちも追いかけましょう!」

「俺たちが出なくてもどうせ支社から人が出るだろ」

「先を越されるじゃないですか!」

「いや、俺ら車ねーし」

「記事は足で書くものだって、人事の人言ってました!」

「寝起きにマラソンさせる気か……」


 だがマリィはその言葉に疑問を覚えた。


「マラソン……? もしかしてけっこう遠くで事件あったんですか? っていうか、なんでそこまで知ってるんですか」

「……なんとなくそんな気がすんだよ」


 それを聞いて、マリィはノックスに詰め寄った。


「マジですか! 記者のカンってやつですね!? どうしたら身に付きますかっ!?」

「うるさい目覚ましだなぁ……」


 マリィから顔を背けつつ、彼は近くの机にある中身の入った紙コップに手を伸ばす。

 そして冷めているであろう中の黒い液体を一気に飲み干した。


「……不味い」


 そしてマリィはといえば、当初の目的を忘れ、記者のカンとやらの習得方法をずっとノックスに尋ねていた。

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