3-4
それは、麻薬取締課のオフィス前でのことだった。扉を開けようとしたセルジオらの前で、勝手に扉が開き、中から人が出てきたのだ。
別にそれは珍しくもないことだったが、出てきたその人物に、セルジオらは一瞬気圧される。目の前にいたのは大柄で筋肉質な体格と額の傷が特徴的な男――ライアン・ボードマンだった。
「……お疲れ様です」
セルジオはそれだけ言って、道をあける。ロイも無言で倣うが、ボードマンは部屋から一歩踏み出して扉を閉めると、二人に向き直った。
「言っておくが、俺は別に取締課の仕事を妨害しに来たわけじゃない。単にウェーバーに用があっただけだ」
「…………」
「それにしてもこの前は運が良かったな。逮捕したやつがDアディクターじゃなきゃ、お前らは今頃謹慎処分だったろう。デビルドロップも人を救うことがあるんだな」
「……その言い方は、誤解を招くと思いますが」
するとボードマンは突然、セルジオの襟首を右手で思い切りつかんだ。
「着任半年のガキが生意気な口をきくな! お前らのせいでウチの捜査が混乱したのは事実だ! 処分がなかったからといい気になるなよ!」
唾をとばして激昂するボードマンは、何度もセルジオを揺さぶる。
「署長直属だか何だか知らんが、そもそもマトリは貴様らみたいなガキがおいそれとなれるようなもんじゃないんだ! どんな手を使ったのか知らんが、俺は認めんからな!」
そしてボードマンは開いた左手を握って振り上げる。
だがそこで、その腕をロイがつかんだ。
「その辺にしとけオッサン。無節操な暴力沙汰はアンタの得にはならんだろ」
するとボードマンはロイを睨んで、
「暴力か……マトリのお前がそれを言うのか? 一部の市民から見れば、お前らなどDアディクターに対する暴力装置だ。それで賃金を受け取っているなら、殺し屋と変わらん」
「その理屈は理解できるが、俺らだって好き好んで殺し鬻げてるわけじゃねぇ」
ロイの目は今にもボードマンを喰い殺しそうな気配を湛えていた。
「悍ましい目をするな、ロイ・ブラウン。本当の悪魔は、案外貴様じゃないのか?」
「てめぇっ……!」
ボードマンの腕を握るロイの手に、力が籠る。
「やめろ。ロイ」
セルジオは静かに言った。
するとその声に反応して、ロイは手を緩める。
そしてボードマンはセルジオから手を放すと、ロイの手も振りほどいた。
「よく躾けてあるな? まるで犬とその飼い主だ」
「…………」
セルジオらが無言でいると、ボードマンはセルジオの手から茶封筒の一つを奪うようにひったくった。
「未知薬物発見の話はウェーバーから聞いたんでな。組対課の方の資料はもらっておく」
「……直接お渡しに向かおうと思っていたのですが、遅くなり申し訳ありません」
「ふん。俺は犬アレルギー持ちでな。ドラッグドッグなんぞに遣いをされても困る」
「てめぇまだ言うか!」
ロイの気勢を、セルジオは片手で制し、
「先日の捜査妨害の件、大変申し訳ありませんでした。一人前の取締官となれるよう精進しますので、どうか今後もご指導お願いします」
言ってセルジオは深々と頭を下げる。
するとボードマンは、
「気が向いたらな」
とだけ残して、その場を去って行った。
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