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麻薬取締官[Narcotics Control Agent]、通称、
彼らはその名の通り、法に基づいて麻薬を取り締まることを主な任務とする公安官である。
職務形態は基本的に刑事事件などを取り扱う通常の公安と同じ。労務省の管轄だった麻薬取締課が保安庁に統合されたのはもう数十年前の話で、今や麻薬取締官は、国家公務員でありながら地方公務員の公安官と同じ階級制度の中で各都市の公安署に所属し、基本的にそこを起点に捜査にあたるようになっている。
各都市政府の所属だった麻薬取締員は解任。彼らは主にこの政策を施行するうえで人員不足となっていた薬物関係の事務員として公安に配属される形となった。
そしてさらにフリジニア共和国における麻薬取締官は、麻薬取り締まりに関する権限はもちろんのこと通常の公安官と同じ職務権限も持っていて、加えて特定の状況に限ってはいくつかの特権が認められている。
その特権は大小含め複数あるのだが、中でも最も強力で異質な権限は、特級危険薬物といわれる『デビルドロップ』の薬物中毒者、『Dアディクター』を対象とした処置権限だろう。
デビルドロップとは、強烈な快楽の代わりに人体に不可逆の変質と狂暴化をもたらす薬物で、十数年前からこの国で出回っている麻薬だ。
この薬の作用機序は非常に特殊なもので、一度アディクターとなると現在の医学では彼らを治療することができない。よって麻薬取締官は彼らに対し生命停止の医療処置――殺害を実行することができる。
つまり麻薬取締官は、死刑制度も安楽死制度もないこの国で唯一、合法的に人を殺すことができる仕事でもある。
なお麻薬取締官にここまでの権限を与えているのはこのフリジニアのみ。少なくとも周辺諸国の中で同じ形態を取る国はない。これは薬草の栽培と製薬によって発展し、それゆえ薬の闇を多く抱えるフリジニアだからこその特徴である。
自国の自浄作用の証明と清廉な国家構築のための組織――それが麻薬取締課であり、そこに属する取締官たちは薬剤師と並んで、フリジニアを象徴する存在となっている。
ただ薬物を悪用する人間からすれば彼らは天敵である。煙たがり、嫌悪するのは当然として、個人的な恨みから取締官を狙った事件などに発展することもある。
そしてそんな者たちは揃って取締官たちをこんな二つ名で呼ぶのだ。
薬の犬――そう。ドラッグドッグと。
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