第227章 錯覚の確率

 知識や数式など、その覚りが錯じっていく。

 溜め込みすぎた、それらは腐り、しがらみになります。

 そんな錯覚に迷った時は、『月光陽光』に頼りましょう。




 


肯定

 ガクちゃん、ステーキが三枚焼けたんだけどさ。

 この中のどれか一つが、ガクちゃんの好きなトタン屋根で焼いたステキなステーキなんだよ。


 この三枚の中、どれが1000のバイオリンが香る、トタン屋根で焼いたステーキだと思う?



テツガクちゃん

 そうですね……。

 ちょっと意識を集中させるので、お時間を。


 …………はっ、気づいてしまいました!

 このステーキが、トタン屋根で焼いたステーキです!



肯定

 なるほどね。

 答え合わせをする前に、遅れたヒントが訪ねてきたみたい。


 どうも、このステーキは違うらしいよ。

 これは、タリホーなステーキらしい。


 さて、ガクちゃんどうする?

 最初に選んだステーキと残っているステーキ。

 もう一回、選び直す? 



テツガクちゃん

 『モンティ・ホール問題』ですね!

 

 最初に私が選んだのは、3分の1の確率。

 そして、今、目の前にあるのは、3分の2の確率。



肯定

 さすが、ガクちゃん、その通りだよ。

 さて、どうする?


 3分の1と3分の2。

 どちらにする?


 それとも、ガクちゃんらしい新しい道かな?



テツガクちゃん

 もちろん、道なき私の道を進みます!


 ところで、肯定さん。

 この問題ですが……。


 もし私が、1000のバイオリンが香る、トタン屋根で焼いたステーキ。

 それを、食べた事がなかったらどうでしょうか?



肯定

 ……オー、ノー。

 なるほどね、ガクちゃんらしいよ。


 当たりと書かれたカード。

 それを信じる人は当たりだと思う。

 一方、それが薄いラベルによって作られている、と気づいている人はそれを信じず。


 目に見えるもの、目には見えないもの。

 今、そのどちらを覗いているのか。

 それによって、変わってしまう幻。

 

 本当に、ガクちゃんが知らない味なら。

 きっと、三枚のどれを食べても、1000のバイオリンが香る、トタン屋根で焼いたステーキだね。



テツガクちゃん

 肯定さんもさすがです。

 ということで、この三枚のステーキは私がいただきますね!



肯定

 えっ、そうなりますか!?

 まあ、それでいいんだけどさ。


 だけど、一つだけいいかな?

 どうして、このステーキがトタン屋根で焼いた、とわかったの?


 三枚食べる代金だと思って、是非その秘密を教えてよ。



テツガクちゃん

 もちろんです。


 それは、とても簡単な秘密です。

 全ては、私の感覚です。


 目の前に見えた分岐点。

 そのどちらへ進みたいのか、進みたくないのか。

 それを教えてくれる、心実の羅針盤。

 

 最初から失うこともなく、永遠にあり続ける。

 その羅針盤さえあれば、辿り着けない場所はありません。

 

 ですが、この簡単すぎる秘密は秘密らしくなく。

 複雑で秘密らしい偽りの方が秘密に見えてくる。


 それは錯覚の確率です。


 知識や数式が腐ってしまった時は、『月光陽光』を見ましょう。

 原点に戻って、天を仰げば星が見えます。

 その星が見えたら、しがらみを抜け出して、夢中の無宙を突き抜ける。

 虹の稲妻のように。

 

 今、見える何かがあれば、見えない何かにも辿り着けるらしいです。

 知識や数式などの錯覚がなくても。


 あなたは、これから何と出会うのでしょうか?

 その『唯一無二』の確率は、これからも秘密のまま。

 今の覚り(さとり)が錯じってしまわないように、そのまま。





関連の話題

『北を指さない羅針盤』

『二つの眼と一つの口』

『トタン屋根に投げる』

『死という錯覚』

『唯一無二』

『二人の詐欺師』

『テツガクちゃんと肯定一覧』





それでは、また次の機会にお会いしましょう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る