第200章 ネタだから

 遠い昔、遥か彼方の時代。

 『ネタとすし屋と本音』という昔話があったそうな。

 人気のすし屋の主人がネタを握るの辞めて、変わりに握ったのは……。






テツガクちゃん

 肯定さん、『ネタとすし屋と本音』という昔話を知っていますか?

 最近、私が出会った、とうの昔の話なのですが。



肯定

 いや、初めて聞いたよ。

 是非、その昔話を聞かせてよ。

 どんな話なの?

 

 永くなっても構わないからさ。



テツガクちゃん

 いいんですか!?

 それでは、この永く長~い昔話を紹介させていただきますね!



 遠い昔、遥か彼方の時代。

 人々に愛された、おすし屋があったそうな。

 様々なネタが並ぶ、そのお店で一番人気のネタ。

 それは、牛のたたきでした。


 他のお店には並ばない牛。

 それが食べられる、おすし屋。

 そんな噂が広まれば、人の気も集まり、一躍して人気店の仲間入り。

 その最高潮のある晩、お店に御上の人が訪ね、主人に了見を訊ねました。



 御上の人:

 将軍様の命で、動物は魚介以外、食べてはならぬ、となっている。

 だが、この店では牛の肉を並べているらしいな。

 主人、これはどういう了見だ?



 主人:

 はっ、これはその……ネタでして。

 決して、御上に逆らうつもりでは。

 

 この方が人の気も集まって、人気店になれますから。

 人気店になれば、御上にお納めするお金も増えます。

 いくらでもお納めするので、どうかご容赦のほどを。


 

 御上の人:

 ほお、すし屋が御上を買収しようというのか?

 人気が出て、随分と偉くなったものだな。



 主人:

 滅相もございません。

 ただのすし屋です。

 そして、これもただのネタです。



 御上の人:

 ネタ、ネタと……。

 主人の了見を述べよ、と言っておるだろうが。

 

 それとも何か。

 すし屋だからネタだと言えば、全てが許されるとでも思っているのか?


 すし屋だろうがネタだろうが、許されぬものは許されぬ。


 打ち首じゃ! というのは少し古過ぎるか。

 ここは、将軍様の命どおり、島流しじゃ。



 そう御上の人は店主に告げて、店を出た。

 後日、そのお店は違う店になっていた。

 そして、あの店主はというと……東の果ての大きな国。

 そこで、一番人気のおすし屋になっていた。


 ネタだから、その一言で、全てが許されることはなく。

 しかし、別の場所では何かが許されるのかもしれない。


 ネタだから。

 その呪文は、想像しているほど万能なものではない。

 その薄い呪文で何かを隠してしまう。

 それは、少し勿体ないこと。


 そう、島流しにあった主人は気づいたそうです。

 そして、言い訳をつくるネタをしまい。

 変わりに手にした、本音。

 それを隠すことなく、表に出せたから集まった人の気。


 東の果ての大きな国。

 そこに住む人と主人の本心の音、本音。

 その何かが似ていたから、何かが許されたのでしょう。


 ネタを握るより、本音を握る。

 唐よりも昔にあった、人気のおすし屋の話です。



肯定

 そんな昔話があったんだ。

 面白いね!


 『ネタとすし屋と本音』か。

 面白い話を聞いたらお腹がすいたね。

 

 大将、本音を握ってよ。

 嘘の影が消えちゃうくらいの本音をさ。



テツガクちゃん

 がってん承知の助です!

 今、肯定さんが握って欲しい本音は……。


 わからないですね。

 ですが、わからないことがわかっている。

 そんな『Mr.ジョーンズ』ですね。


 あなたはどうですか?

 握りたい本音がありますか?


 きっと、それは、どんなネタよりもステキで美味しいものです。





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それでは、また次の機会にお会いしましょう。




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