第7話 冬の若葉

「涼也さん。きっとこれは運命なんだって思いませんか?」


「あ? いきなりなんだ」


「ふふ。内緒です」


「いきなり本当になんなんだ……」


でもねぇ、思うんですよ。これが運命だと。

終わりのない私たちが迎える運命なのだと。


紅羽。神嫁の私と呪いを取り込んだ涼也さんの間に生まれた愛の結晶。

どうか彼女の行く道が幸せなものでありますように。


「願いますよ、母親ですからね」


ふふ、ともう一度笑って。私は涼也さんに抱き着いた。

この人の傍は心地好い。ずっと一緒に居られたらいいのにな。ずっと一緒に居たいのにな。まあ、居るんですけど。


「なんだなんだ、いきなり」


困ったように笑う涼也さんは、昔ほど怒らなくなった。丸くなったというより、私の奇行に慣れ切ったというべきなのかな。

それはそれで面白くないような、愛を感じるような。

うーん、と唸って。

でも涼也さんだからすべて許せちゃうんですよねぇ、と頷いた。


「大方、ロクなこと考えてねぇだろ」


「え、どうして分かったんですか?」


「お前と何年一緒に居ると思ってるんだ」


「愛ですねぇ……」


「はいはい。それで、そのロクでもない考えは紅羽も関わることなのか」


「いやまあ、それは紅羽次第でしょうねぇ」


「珍しく歯切れが悪いな」


「これでもね、考えているんです。紅羽が生まれてから今まで、ずっと」


考えて、考えて、そうして未だ答えは出ない。

きっと涼也さんが聞いたら怒るようなことなんでしょうねぇ。

紅羽にももしかしたら怒られてしまうかも知れない。

でも、私は紅羽の幸せを願ってあげたいんです。


この選択肢が吉と出るか凶と出るかは分からないけれども。

でもなぁ。


(涼也さんと離れるの、少しだけ寂しいなぁ)


どこまで行っても、私の世界の中心は涼也さんだから。

ちょっとだけ寂しい。


それを埋めるように、私は涼也さんの肩口に顔を埋めた。

涼也さんは何も知らないのに、何も言わずに私を抱き寄せてくれた。


ああ、もう。こういう思い出があれば充分なのかも知れない。

こんなにも幸せなら、本当に――終わらせてもいいのかも知れない。

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