第16話 翔の考察
蓮と六華が訓練を始めてから3日が経った日の夜、蓮と翔は2人で今後について話し合っていた。
「六華の方は順調か?」
「問題ない。このまま続けて実戦を積めば化けるだろう。そもそものポテンシャルが規格外だからな。」
「なら良かった。それでだ、立花氏の研究所についてだが、大佐に何か分かったら連絡を入れる様にお願いはしているが、まだ音沙汰ない。そこで、俺も色々考えてみた。」
「聞かせてくれ。」
「俺たちは、勘違いをしていた可能性がある。研究所の場所がこの都市の外にあると勝手に思っていた。だがいつ襲われてもおかしくない都市外に、わざわざ研究所を作るか?」
考えてみれば簡単な話だ。たしかに都市外で生活している人間もいないわけではないが、憎魔の数が少ない場所や防衛に有利な土地に限られる。
この旧東京近郊は憎魔の数が多い地域だ。尚更外は危険。
「だから、このヤマト内にあるのではと考えた。」
「なるほどな。だが翔、ヤマトにあると仮定してどうやって目星を付けるつもりだ?」
「ヒントはやはりこのペンダントに描かれた花だ。そこでこの彫刻の花を調べてみた結果、この花は薔薇だった。」
「薔薇か、たしか花言葉は『愛』だったか」
「詳しいな。蓮、お前以外とメルヘンチックだったのか?」
翔が珍しく茶化す風に言ってきた。
「そんなんじゃねぇよ。偶々知っていただけだ。」
「たまたま…ね。」
何か含みのありそうな顔をする翔だったが、それ以上何も言わずに話を戻す。
「まあいい、お前が言った通りその花言葉に1つの意味があると思っている。そして六華にもな。」
薔薇の花言葉を知っていた蓮も、そこで勘付いた。
「なるほど、6月の誕生花が薔薇、そして六華。」
「そう、キーワードは6という数字と薔薇。これに関係する施設や場所を現在から過去数十年に渡って調べてみる。念のために明朝、六華に誕生日を聞いてみる。恐らく6月だと思うがな。」
「それにしてもよく考えついたな。」
「六華の父親が死に際にまで、何故に研究所の場所を教えなかったのか。その理由は分からないが、託した以上何か関連付けるものだと思ったんだ。」
それに、と翔は次の言葉を続ける
「自分の娘に愛情を持たない父親なんていないだろう?」
キメ顔で言った翔を見て、蓮は少し間を空けて彼に言い放つ。
「いや、お前娘なんていないじゃん。」
———————————————————
翌日、六華に誕生日を聞いてみたら、案の定6月だった。翔はさらに確信を持った。昨日の話を六華にも伝えた。一歩前進の予感を感じてか、心なしか嬉しそうだった。
「翔、今仕事は何か回ってきてないか?研究所の事も重要だが、金も稼がないとだ。」
「あるぞ、京火からだ。」
翔は印刷されたメールを蓮に渡す。
「この前お前たちが倒した憎魔からスペリオルを作ったそうだ。その性能テストをしてほしいというのが一つ。そしてもう一つが、いつもの憎魔退治だ。詳細は会って話すと書いてある。」
「了解、じゃあ早速向かうかな。六華、いくぞ。」
「分かりました。」
研究所に向かう道すがら、六華が蓮に話しかける。
「京火さんとは結構長い付き合いなんですか?」
「ん?そうだな、初めて会ったのは5年前だったかな。仕事で会ってな。そこからの腐れ縁ってやつだ。それがどうしたんだ?」
「いえ、特に深い理由はないです。ちょっと気になっただけで。」
蓮は「そうか」と一言だけ言いそこで会話は終わる。
そしてタイミング良く京火の研究所にたどり着いた。
蓮は扉を開け中に入る。六華もそれに続く。
「京火、来たぞ。」
「待ってたよ、蓮。おや?六華ちゃんも一緒なのかい?」
言葉に答えるように六華は挨拶する。
「こんにちは、京火さん。もしかして私邪魔になりますか?」
「いやいやそんな事はないよ。意外だっただけだよ。では立ち話もなんだし奥に来てくれ。仕事の話をしよう。」
京火はそういってまた蓮の腕に抱きつき、その豊満な胸を押し当てる。そのまま引っ張るように部屋に向かおうとする。
蓮は当然引き剥がそうとする。
「お前最近スキンシップが激しいぞ!離れろ!」
この京火の行動には理由があるのだが、それを唐変木の蓮が知る由もない。
六華は六華で、ニコニコしているが目が笑ってない。
(あの胸は危険!…)
一瞬自分の胸を見て、その戦力差に若干涙が出そうになるが、ぐっと堪える。
数十秒ではあるが、そんな女同士のバトルが行なわれたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます