第17話 京火の依頼
蓮は無理やり引っ張られる形で席に着く。もちろん京火は引き剥がした。
「はあ、なんなんだお前。誘ってんか?」
すると京火は笑顔になり、断言する。
「もちろん!」
蓮はこめかみを押さえ、TPOを全く考えない京火に対して嘆息する。さらには
「ん?なんだ六華、お前近いぞ。」
六華は隣に座っているのだが、距離がかなり近い。
「お気になさらずに!」
全く笑ってない目で蓮に返答する。
(怖!なに?俺なんかしたっけ?)
蓮は全く掴めない状況に困惑していた。
だが、分からないものは分からないと、すぐに仕事の話に切り替える。
「まあいい。それで京火、仕事の話だが…」
切り替えの早い蓮に2人は若干戸惑うが、すぐに彼が朴念仁だと思い出し諦める。
「相変わらずだな蓮。じゃあ早速だが、これを見てくれ。」
京火は一つの銃を2人の前に出す。
マガジン式のハンドガンだ。色は黒一色で特に飾り気はない。見た目も普通のハンドガンだ。
「これは?」
蓮が質問する。すると得意げに
「スペリオルだ!銃火器への応用に成功したんだ!これの試運転を頼みたい。」
「なに?そいつはすごいな。」
そう、従来のスペリオルは基本近接武器だ。というより異能の補助という役割が強いのと、異能による遠距離攻撃を行う事ができる為必要なかったという方が正しい。
また、発射される弾丸に異能を込めることが技術的に出来なかった為、憎魔に対して有効ではなかったのだ。
「詳しい原理などは省くが、異能力を込めれば憎魔にも有効な銃弾を撃つ事ができるんだ」
「面白いな、どれほどの威力が出るのか気になるな。」
すると京火は再度誇らしげに言い放つ。
「それはもちろんスゴいぞ!最小威力でもLv1であれば一撃で倒せるぞ!これは込める異能力に応じて威力が変わるんだ。ただひとつ欠点としては、使いすぎるとすぐバテる。燃費が悪いんだ。強力なその分異能力を喰うんだ。」
「へぇ、エネルギーが多い奴じゃないと使えないと?」
「その通りだ。並のカルマであれば5発も撃てばバテる。」
蓮はチラッと六華を見る。
そう、六華にピッタリの武器だ。体内の憎魔細胞が常人の数倍ある六華は生み出すエネルギーも膨大。量だけで言えば蓮も上回る。
「六華、これはお前が使え。遠距離攻撃ができないお前に丁度良い。力有り余ってるだろ?発散にも丁度良い。」
蓮は銃を六華に渡す。
「私が欲求不満みたいな言い方やめて下さい。でもそうですね。ありがたく使わせてもらいます。」
「銃は触った事があるか?」
「ないです。」
「それもそうか。」
この荒廃した世界ともいえど、人間社会には法律も秩序も残されている。カルマや憎魔にとってはただの銃器は脅威にはなりえないが、普通の人間にとっては十分脅威だ。日本国内の要塞都市では共通して、日本軍が取り扱いを管理しており、簡単に一般人に流通するものでもない。ちなみに京火はスペリオルなど武器を製造する為、そういった権利は国から許可を得ている。
「後で教える、なに簡単だ。」
「銃器の心得もあるんですね、蓮さん。」
「まぁ、ほどほどにな。」
「分かりました。では後で教えてください。」
六華は銃をホルスターに入れ机に置いた。
そこで次の話題に移るべく京火が話し出す。
「銃の話はここら辺にして、次は仕事の話をするよ。」
京火はタブレットを出し、一つの映像を見せる。
そこには、人型のシルエットに見えるナニカが、憎魔を食らっている様子だ。距離がありボヤけているのだが、恐らくそうだ。そう、この映像は件の憎魔に殺されたカルマ隊員が、生前に見た映像だ。
「これはなんだ?」
蓮は京火に質問する。
「これかい?この映像は今回殺されたカルマ隊員が最後に写し…」
京火が最後まで言い切る前に、蓮が言葉を差し込む。
「違う。そんな事を聞いているんじゃない。この映像に映っているこいつは何だと聞いている。」
京火は一拍置いて答える。
「それを調べてもらいたくて、この映像を見せたんだ。近頃起こっていた憎魔の共食いの真相に、これが関わっているのは間違いない。今回の依頼はそれさ。」
「…なるほど。たしかにその問題はまだ何も解決されていないからな。それにしても、この映像は軍の機密情報だろう?よく入手できたな。」
「それは、ほら。ちょこっと拝借しただけさ。」
この女、軍のシステムに侵入したな。と蓮は心の中で思ったが、彼にとっても別にどうでもいい事なので、それ以上追求はしなかった。
「調査といっても、具体的にどうして欲しいんだ?」
「人型に見えるというだけで、憎魔の可能性が高いし、出来れば討伐して素材を持って帰ってきて欲しい。」
蓮は少し考える。憎魔を食らう憎魔だとすれば、特異な性質の亜種である可能性が高い。そうした亜種は決まって、通常の個体より遥かに強い。蓮は自分が負けるとは思っていないが、六華を連れて行くか迷っていた。あともう一つ、
「京火、これは軍の映像だよな。もう先んじて調査に入ってるじゃないのか?」
「その通りだ。どこの部隊かは分からないが、既に動いているという情報が回ってきている。だが問題ない、別に私自身は軍の人間ではないからな。独自の調査に文句は言わせないさ。」
「文句言われるのは、現場で動く俺達なんだが。その時はお前に丸投げするからな。」
「契約成立だね。いつも通り血液の採取をお願いするよ。」
「了解。では明日の朝一で出発する。」
蓮が席を立ちあがり、六華もそれに続く。
「良い報告を期待しているよ。」
蓮は手で軽く合図をして外へ出る。
「六華、今回は…」
「行きますよ。」
六華に言葉を重ねられ、蓮は黙る。そのまま六華の目を見る。
「無茶はするなよ」
これは止めても無駄だな確信した蓮は、これ以上余計な事を言うのを止めた。
「はい、今度はしくじりません。」
「さっき言った通り、明朝出発する。事務所に帰って準備するぞ」
そして翌朝。
「六華、準備はできたか?」
「はい、問題ありません。」
2人は京火から受けた調査依頼に向けて、準備は行っていた。
そして蓮は六華に向け再度問う。
「本当に行くんだな?今回の相手は得体が知れない。俺も守ってやれるか分からない、死ぬかもしれないぞ?」
蓮は答えが分かっていながら六華に言った。これが彼なりの優しさなのかもしれない。
「いまさらですよ。私は1人で旅に出た時から覚悟を決めています。それに私は当初、なんでも手伝うと言ったいるのです、反故にする事はできません。死ぬ気で生き残ります。」
やはり、と蓮は思う。とはいえ本当に死なれるのも困るので、危険だと思ったら全力で守るつもりでいるが。
「お前に死なれては困るんでな。いざとなったら守ってやるよ」
キザっぽいセリフに六華は若干狼狽え顔を赤くする。蓮は狙ってやっているわけではないが。
「六華何をやっている、行くぞ。」
「は、はい!」
我に返った六華は慌てて蓮の後を付いて行く。
バイクで向かうその道中、蓮は京火にもらった銃について話し出す。
「六華、銃の扱いは大丈夫だろうな?」
昨日京火の研究所でた後に、六華に銃の扱いを教えていた。実際に異能力を込めた銃弾を撃たせたが、十分な威力だったのも確認している。
「大丈夫です。問題なく使えます。」
太ももに巻いてあるホルスターを触りながら返事する。
「ならいい。昨日も教えた通り、その武器はチャージに時間がかかる。接近戦に持ち込まれた場合は迷わず短剣に切り替えろ。眼の発動も忘れるな。」
六華はコクっとうなずく。
そして、以前Lv3の憎魔と戦った場所の近くまで来たところでバイクを降りる。
「まさかまたこの場所に来るとは思わなかったな。」
蓮は独り言を言い、六華は引き締めた顔で前を向いている。
「さて、調査といったものの、今回はあの映像しか手がかりがない。つまり何も分かってないということだ。もしかしたら何も見つからないかもしれない。」
「どう動きますか?」
「憎魔の死体を探す。そこから何か分かるかもしれない。」
蓮と六華は歩き出し、先へ進んで行く。この時は想像だにしていなかった。まさかすぐに目的の相手に出会うことができるとは。
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