第14話 特訓開始
「おいお前ら、茶番はそれくらいにして、次はどう動くか決めないか。」
「そうだな、おい京火離れろ。」
そう言われ、京火はしぶしぶ離れ席に着く。
「今最も優先順位が高いのは、六華の父親の研究所をみつける事。次に憎魔の異変の調査だ。」
蓮は顎に手を当て考える。
「翔、まずはどうするつもりだ?現状情報が少なすぎてどこから探るか迷うところ。」
「偶然とはいえ、今回は軍に借りをつくれた。色々と情報を探りやすくなるかもしれない。俺たちだけじゃ限界がある。俺は大佐と会って情報交換してくる。あの人は軍でもかなりの古株だ。六華の父が本当に軍の誰かと懇意にしていたのなら何か分かるかもしれん。」
「たしかにな。じゃあ俺たちはその間に訓練でもするか。」
蓮は六華に向けてそう言う。
「訓練、ですか?」
いまいちピンとこないのか、六華は首を傾げている。
「そう、訓練だ。お前の力の正体が何であれ、それを制御してもらう必要がある。でなければあまりに危険だからな。」
「簡単にいえば、お前も覚醒者になってもらう。その為の訓練だ。」
六華は驚きと不安が混ざったような顔をしていた。
「そんな簡単に覚醒者になれるものなのでしょうか?」
当然の疑問である。
「いや、不可能だ。そんなポンポン覚醒者が生まれるのであれば、人類はもっと繁栄していただろうな。」
だが、と蓮は言葉を続ける。
「お前は特別だ。長くカルマを続けていたおかげか、下地はできているし、なにより大事なものを持っている。」
「大事なもの?」
「くさいセリフだが、憎魔に屈しない強靭な精神力だよ。人間の精神・心の在りようはパフォーマンスに絶大な影響を及ぼす。言葉で言うのは簡単だが、これが難しい。死が身近にあるカルマは、その極限状態ゆえ心が摩耗しやすい。常に強くあれる者は少ないんだよ。」
「そう…なんですね。分かりました。私頑張ってみます。」
蓮は感心したように六華を見た後、翔に告げる
「という事で翔、情報収集を頼む。それを基に、どう動くかはお前に任せる。」
「了解だ。それじゃあ俺は大佐に呼ばれているからそろそろ行く。また後で報告する。」
続けて京火も
「私も自分に家に戻るとするよ、この検体を早く調べてみたいし。」
2人がジャックの出て行き、蓮と六華のみになった。
「さて、では俺たちも早速準備するか。さすがに街中で訓練するわけにはいかないからな。外へ行く。」
「分かりました。すぐ準備します。」
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ヤマト軍大佐、清村克人は軍が経営する病院の一室にいた。
「白井君、容態はどうだ?」
白井と呼ばれた女性は申し訳なさそうに返事をする。
「ありがとうございます、大佐。お陰様で元気になりました。」
「なに、礼なら今度ジャックの面々に言うといい。君を救ったのは彼らだ。」
そう、この女性こそ蓮と六華が助け出したカルマ隊の女性だ。
「はい、退院後すぐに。」
「復帰は可能そうかね?」
その言葉を聞いて白井は少しビクッと身体を震わせた。
仲間が全員殺されたのだ、心に傷を負ってもおかしくない。だが、彼女も軍に所属するカルマだ。覚悟を決めて仕事しているし、死んでいった仲間たちに報いたいという気持ちもある。
「少し時間はかかるかもしれませんが、復帰を望みます。」
「そうか、無理はするなよ。」
「ありがとうございます。」
白井は再度お礼を言う。
「そうだ、目覚めて早々すまないが、これからジャックの九藤君と会う約束をしている。今回の件についての情報交換を行うのだ。辛いかもしれないが同席してもらえるかな?」
「はい、何の成果も上げられなかったのです。それくらいでしたら是非とも。」
「そう言ってもらえると助かる。また1時間後に来るから、それまで待機していてくれ。」
清村大佐が病室を出た後、白井は1人考え事に耽る。
(私はこれからどうしたら…)
先ほどは復帰を望んでいたが、また憎魔と戦えるのか。そんな不安が支配する。
あの恐怖がトラウマとなって戦う事が出来なくなるのではないか。震える手を強く握り布団に顔を伏せる。
(みんな、ごめん。)
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都市からおよそ10km離れた場所に、蓮と六華はいた。
「ここは、なにかのスタジアム跡ですか?」
何万人と入れるような数の客席、センターに広がる何もない空間。草木が生い茂っている。
「らしい。憎魔は出現するより昔だが、スポーツ観戦をする為の場所だったと聞いた。ここなら人も来ない、まあ偶に憎魔は来るがな。」
「そうだったんですね。」
「さて、では訓練を始めるが、まずは組手をしてもらう。お互いスペリオルは禁止だ。」
「組手ですか。」
「そう組手だ。お前は眼の力は使いこなせているが、身体の使い方がなっちゃいない。それでは宝の持ち腐れだ。」
六華は分からないといった顔をする。
「六華、戦闘時に眼の力を使う場合、何秒先を見る?それと、未来の映像はどう見えるんだ?」
「時間最大限使っています。見え方は、なんというかコマ送りの静止画が見えていると言ったら近いかもしれません。」
「なるほどな。まず戦闘時に時間を最大限使う。これが間違いだ。」
「どうしてですか?安全を期すならその方が良くないですか?」
「まず、5秒後を見たお前はすぐに動くよな。5秒先が見えた瞬間お前が動けば、相手はそれを見て動きを変える事が出来る。そして、お前はその動きに反応できない。」
「つまりはギリギリまで動くなということですか?」
蓮は正解という顔で頷く。
「その通りだ。だが人は危険を察知すると、反射的に動いてしまう生き物だ。そこを改善する為の特訓というわけだ。」
「それが組手なのですか?」
「そうだ、お前はこれから目を使い俺の攻撃を避け続けろ。そして未来を見る時間は1秒先までだ。近接戦闘で5秒先など見ても、状況が変化しすぎていて情報処理が追いつかない。むしろ邪魔になる可能性もある。」
六華は息を飲む。
「1秒、ですか。」
「そう1秒だ。俺からすればこれでも長い方だ。仮に俺たちが戦ったLv3の憎魔であれば、1秒あれば50m離れていてもお前を噛み殺せる。」
「私に足りていないのは、戦闘能力でなく戦闘経験という事ですね。」
「理解が早くて助かる。そう、経験が圧倒的に足りない。だがそこさえクリアできればお前は大幅に強くなれる。スペック自体はその辺のカルマとは比較にならんからな。」
「そう、なんですね。」
六華は褒められて少し嬉しそうな顔をする。
「動ける身体を造っておけば、お前の能力なら100%カウンターを取れようになる。もちろん大幅に実力が離れていればその限りではない。」
「最後にもう一つだけ。この特訓は覚醒者になる為の特訓ということですよね。」
「言い出した俺が言うのも悪いが、それはお前次第だ。そもそも覚醒者になる為の明確なプロセスがある訳ではない。人それぞれだからな。戦闘職じゃない奴が覚醒者になった例もある。」
そう、治癒系の能力者だったと蓮は記憶している。詳しい経緯は知らないが。
「だが、覚醒者の共通点に、目的に対する強い意思が関連していると俺は思っている。自分の家族を守る為になった者、身を焦がすほどの憎しみでなった者、人類を守る英雄になると本気で言っていた奴もいたな。」
「なるほど…」
六華は深く考え込む。
「それに以前言った通り、覚醒する前に死なれても困るし、お前の中の怪物が暴れても困る。この訓練はその防止策の一つと考えてくれればいい。」
蓮は六華と距離を取り始める。
「長話をしていても始まらん。構えろ、始めるぞ。」
「はい」
六華は腰を低くし、身構える。
「では、いくぞ!」
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